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【21】じゃあ飲んでも平気か?【12】



 ◆ ◆ ◆


 なんだか懐かしい感覚になるな。

 俺が【迅雷(スキル)】を無くしてからまだそんなに日も経ってないんだが……もう何年も術技(スキル)を使って無かったような感覚になっている。



 空を──空気を踏み。加速して空を(はし)る。

 風も鳥も置き去りに、景色が次々と吹き飛んでいく。



 脚部雷化。

 俺自身の足を『雷化』することにより、空を自由に動きまわることが出来る技であると同時に──もう使うことが無いと思っていた技だ。


 しかし……【迅雷(スキル)】で雷化した時とは少し感覚が違うな。

 足に重みというか、抵抗を感じる。まぁ疑似的な雷化だから無理も無い。


 ん。見て分かるくらい左足の雷が小さくなってきたな。

 もう充電(バッテリー)切れか。早いな。

 まぁちょうどいい時間か。昼過ぎだし、ちょっと腹も減った。

 この先に町もあるみたいだし、飯の休憩も挟むとするか。

 うし。あの空き地の辺りに着地しよう──。


 岩がむき出しになった空き地に着地し──黒焦げた煙が上がる。

 着地と同時に地面を焦がした。


 ふぅ。よーやく息を吐けたわ。

 重たい黒鎧──ライヴェルグの獅子兜を外し、息を吸う。

 この兜、呼吸しずらいんだよ……はぁ。空気が美味ぇ。


「あ、あとどうやるんだったかな。収納魔法……えーっと。ああこれか」


 これだ。鎧の内側に付いた硝子の宝石(イミテーション)に触れる。

 ぼぉんと、動物の鳴き声みたいな変な音を立てて鎧は靄のように消えた。これで俺の腕についている腕輪に収納されたんだな。


本当(っと)に、便利なもんだな」

 よし。これで軽くなったな。

 いつものラフなシャツとジーンズ。この格好、一番楽だ。


 さて。ここから見て()に、町が見える。そして町の向こうには荒々しい連山。

 あれは神峰連山(オリンセイア)という東西を分かつ連山だ。北の海から南の山岳まで連なるこの連山は大昔の国境でもあったそうだ。

 この連山から西が魔族領で東が王国領。俺がガキの頃には東に魔族領が侵略を広めてたから、実感は薄いんだけどな。


 普通、連山を超えるなら専用のルートがある。隧道(トンネル)を使うルートと山登りのルート──があるのだが、俺はどちらも使わずに済みそうだ。


 雷化すれば空を飛べる。連山の手前で電力供給をすれば、まぁ一発で飛び越えられるだろう。


「……このペースなら夜には到着できそうだな。……セレネさんとヴィオレッタに感謝だな」

 背負っていたジャガイモ袋みたいな麻の袋を置き、両腕を伸ばす。


 お分かりかもしれないが──俺は今、ハルルの実家のある地域に向かって飛んでいるのだ。

 転移魔法で行ける? ははは。その手はずだったがなぁ──。


 ◆ ◆ ◆


「別にストックだから無くなっても私は困らないけど、ジンさんは困りそうだね。貴方を転移させる分の魔力、空気に還っちゃった訳だし」


「面目ねぇ」「すまないなのだ……」


 ヴィオレッタの『魔力のストック』が入った瓶を、ジンとポムッハは不注意で割ってしまった。


「くすくす。とりあえず、ハルルちゃんには念話か何か飛ばして連絡入れておくから。ジン今日行けないって」

「ああ。だよな。……ヴィオレッタ。お前の魔力回復は」

「三日」

「マジかよ。そんな掛かるのか?」

「掛かるよ。私、魔力の回復が遅いんだよね。まぁ最大値は引くほど大きいけどさ」

「?? どういうことだ?」

(せんせー)が言ってた。魔力って、譬えるなら器と水の関係なんだって。

私は器が凄い大きい。一般人がみんな金魚鉢くらいだとしたら、私は部屋一つ分の金魚鉢くらい」

「もう水槽じゃねぇか」

「くすくす。だね。ただその器に水を入れる為には、時間が掛かる。皆が蛇口から水を出せるとしたら、私は氷を溶かして水を作ってるくらいの遅さなんだってさ。だから日頃から貯めて置かないといけないの」

「……マジごめんって」

「くすくす。まぁ別に無くても回復は出来るしいいんだけどさ。

とりあえずそういうことだから、私は三日後に動き出せる」

「……マジか」


「まぁ少し見て来たけど、少なくとも今は大丈夫そうだったよ。

周辺には特に殺気立った部隊も聞こえなかったし。まぁかといって三日は分からないけどね」


「だよな」

 ジンは指を組んだ。馬車でもなんでも使って行くにしても、今の情勢じゃどれくらい掛かるか分からない。


「一応、魔力回復の道具とかで回復を急ぐけど。無理して二日目の昼出発かな」

「……いや、これ以上無理させるのは流石にな。……なぁ、ヴィオレッタ。確認したいことがあるんだ」


「うん??」


「お前の靄って回復にも応用してたよな」

「? そうだけど?」



「じゃあ飲んでも平気か?」



「……はぁ????」


 ◆ ◆ ◆


 甘香ばしいタレが弾けて、肉の油と絡みつく──そんな甘い匂いが露店からする。


「串焼き、凄いな。豪快だ」

「だろ! 全部、岩猪(ロックボア)だよ! 脂身と赤身の二種類があるよ!」

「へぇ……じゃぁ一本ずつ」

「あいよ! 銅貨2枚ね!」


 串を受け取りながら町の様子を見る。

 この町は平和だな。まぁ戦争中って訳でもないし、普通なのかもな。


 ともあれ。『飲んでも平気か?』発言は失言だったのを反省している。

 あの後、閃いたことを説明するのに時間が掛かった。

 ヴィオレッタとポムから『血で作った靄を飲むやべぇ奴』認定されるのも寸前で回避した。


 俺が考えたのは『疑似的な迅雷』である。

 ヴィオレッタの靄に雷の魔法を乗せて、それを俺が摂取。

 後は、体内の魔法のコントロールは慣れたモンだからな。『部分雷化』を無理やり発動する──という感じだ。


 実際、実験は成功。俺はここまで疑似雷化で飛んでこれた訳だ。

 空さえ飛べりゃこっちのもんだ。まぁ速度は上手く出ないからな。大体、夜にはハルルの故郷に到着できるだろう。


 ちなみに靄への雷魔法はセレネさんに頼んで掛けて貰った。セレネさんサマサマである。

 それで持ち運びやすいように『靄を結晶化』し、個包装した訳だ。

 靄と雷がぶつかり合うと、結晶化した靄が『白くなった』為、『白い粉』になった。


 ……この『粉』はどこからどう見ても『駄目絶対』である。


 まぁ。大っぴらな場所で使わないから大丈夫。職質なんてされないし、逃げ切るからな!


 しかし、夜にはハルルの故郷か。

 どんな村なんだろうな。……まぁ裏山があるとか言ってたし、山で遊んでいたとかも言ってたな。

 自然たっぷりののどかな場所なんだろう。


 ふと、立ち止まる。


 ──俺、今からハルルの故郷。それも家に行くんだよな。

 何かが引っかかる。

 ……何だろう。何か重要なコトを見落としているような……。


 まぁいいか。とりあえず、何も起こらない内にハルルの家に着かないと、だな。

 

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