【21】ひつじチョコ【10】
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俺は武器に頓着は無い──と間々言われる。
俺自身も言うしな。というのも基本的な武器種の使い方は叩き込まれてるから何でも使える──っていうか、戦場では武器が壊れたらすぐに相手の武器や落ちてる武器を奪ったりして使わないと生き残れない。
そういうことから『ライヴェルグは武器に拘りがない』的な逸話になってるんだろうなぁ。
武器に興味が無い訳でも、愛着が無い訳でもない。
寧ろ、その逆。割と武器自体を好きだ。
だから。それなりに武器の知識はある。
良い武器の条件とかも色々な本や書物で読んだ。
俺的に一番納得する良い武器の条件は、『持てば手に馴染む』というものである。
使い手のことを考えて設計された良質な武器は、『素人が持っても力を発揮し、玄人が扱えば無双となる』そうだ。
そして──今、俺の目の前にある薙刀が……『握る必要も無い程に良質』なのは、一目見れば誰でも分かる。
「──物凄く良い薙刀だな」
騎乗槍より長く、剣より刀身が短い。しかし遥かに間合いが槍に近い武器。
薙刀。中近距離のバランスが良い武器だ。
その僅かに湾曲した先端刃。刃物らしい銀鉄の色ではなく、見る角度によっては、上質な宝石を含む鉱床の断面のように、銀の中に無数の粒のような金色の光が見える。
「……魔法。いや、黄月族に伝わる秘術が使われた武器、とかじゃないのか?」
「流石、ライヴェルグ様ですね。ご明察です。これは『雷』を固めて作り上げた薙刀です。銘を『伽雷薙刀』といいます」
ベッドの上。横になって穏やかな微笑みを浮かべているのはセレネさんだ。
ハルルと仲良くしてくれている女性で──俺と同年代か、少し下くらいだろうか? いや、会話の雰囲気はハルルと同年代、いや、ハルルよりも下のような若さも感じるが……気のせいだろう。
「雷を固めて……凄い技術だ。それに、薙刀を打った鍛冶師も超一流だろうな……」
この薙刀の特筆すべき点は『先端刃の鋭さ』だ。
なんてことない技術に見えるが、刃のある武器全てに共通して『切れ味を増していけば強度が落ちる』のである。
当たり前だが、刃を逆三角形と見立てた時、角度が鋭角であればある程、物質に対する抵抗は少なくなる。つまり切れ味が優れていく。
この薙刀は、先端の強度を保ちつつ、切れ味が落ちないように作られている。長い戦いを耐え抜けるように設計された──鍛冶師の意思を感じる武器だ。
「実は祖父が打った薙刀なんです。褒めて頂けて光栄ですね」
「お祖父ちゃんがですか。凄いな。……俺のこの二刀も見てくれないかな」
「あはは。生きていたら喜び勇んで研いだと思いますが……」
「あ……すみません。俺、余計なことを」
「いいえ。もう何年も前なので気にしないでください」
にこりと微笑んでくれた。……俺は何で余計なことを言ったのか。
頬を掻いて目線を少し逸らした。
「……その。セレネさん。そんな大切な薙刀、借りていいんですか?」
「え? えっと、問題はないと思いますが」
「セレネさん。ハルルのことを貶したくて言う訳じゃないが……アイツは斬撃の精度は高くない。
訓練して技術を積んではいるがまだ形にはなっていないんです。
薙刀は一撃の破壊力が出る分、その攻撃が外れたりして岩盤を叩こうモンなら、最悪は一撃で武器が破損する」
「でしたら、尚のこと。是非ともハルルさんに使って頂きたいですね。
この伽雷薙刀は雷を固めてく作った刀身だそうですから、普通の鋼より強度は高いです。
力任せに操っても壊れることはありませんよ」
「……それは、そうですけど」
「私が持っていても今はまだ使えません。腕がこの状態ですから。
それに私には魔法があります。心配には及びませんよ」
「……分かりました。ハルルも喜ぶと思います。すみません、お借りします」
「ええ。是非とも。でも残念です。直接、渡したかったんですけどね」
──ハルルは今、ここに居ない。今は別行動中だ。
「ハルルの家の方、無事だったら早めに戻ってきてセレネさんに顔を見せるので。早く元気になってくださいね」
「はい。分かりました」
「……あ、お見舞いにチョコ買ってきますよ。美味しいチョコで『ひつじチョコ』っていうのがあってですね」
と──セレネさんは目を丸くしてから、口元を隠して笑った。
な、なんか変なことを言ってしまったか俺は。
「す、すみません。あまりにもおかしくて」
「あ、えっと」
「わ、悪い意味じゃないですよ。昨日、治療が終わった後にハルルさんが同じこと言ってたんです」
「同じこと?」
「はい。『ひつじチョコが美味しいから、お見舞いに買ってくるッス』って。お二人とも仲がいいなぁって」
マジか。ああもう、被るなよ、マジ。
「照れた顔も、ハルルさんに似てます」
「そ、それは。セレネさん、からかわないでください」
セレネさんは、ころころと笑った。
落ち着きのある人だ。ハルルとは全然違う性格のによく仲良くなったなぁ……。
◆ ◆ ◆
「ポムの名前はポムッハ・カイメ・バルティエ! 天才発明家にして術技研究の第一人者なのだ!!」
物理的に焦げた茶髪。ごつごつとしたゴーグルを付けた白衣の少女。自己紹介の通り、ポムッハである。
「急に自己紹介、びっくりしたッス……!」
「いやー、実はまだそちらのヴィオレッタさんと初対面なのだ。決して登場が久々だからしっかりと存在していることを伝えようとしていた訳ではないのだ」「ポムさん????」
「くすくす。面白いね、ポムちゃん。確かに、ルキと一緒に救出してから、ちゃんと挨拶は出来てなかったね。
私はヴィオレッタ。レッタちゃんでいいよ」
「分かったのだ、レッタちゃん! で──ハルルの用は『爆機槍の件』で間違いないのだ?」
「そうッス。その……これくらい壊れてしまって」
ハルルの愛用していた爆機槍は、ポムッハが作った武器である。
ポムッハは台の上に並べられた爆機槍の破片たちを見る。
折れ曲がり割れた三叉槍。鉄板は無数に分かれ、元の騎乗槍の原型は影も形もない。
「爆機槍……壊してしまって、本当にすみませんッス!」
「ううん。大丈夫なのだ! 武器は壊れる物なのだ。ハルルに怪我がなかったなら大丈夫なのだ」
「ポムさん……」
「ね。直せるの? こんなに粉々なのに」
「三叉槍の方は、形状記憶龍鉄という素材なのだ。だから竜種の素材があればすぐに直せると思うのだ」
「ああ、良かったッス! 爆機槍、本当に愛着があるので……」
ハルルが胸を撫でおろすと──「……ハルル。それならごめんなのだ」と、ポムッハは呟いて、申し訳なさそうな顔をした。
「え?」
「爆機槍は──元の形には戻せないのだ」




