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【20】玉兎鳴動【40】


 ◆ ◆ ◆


 ──4日程前の話。

 つまり、ルキが共和国へ行く前(・・・・・・・・・・)の話。


「ルキ、どうだ? 何か分かったか?」


「いいや。残念ながら分からないという事実は変わらなかったよ」

「まじか。賢者(ルキ)でもお手上げかよ」


「そうだね。そっちの金烏(きんう)という刀と同様に『魔法的な何か』が組み込んである『刀』だ、ということは間違いないんだけどね」


 ルキは銀鍔の黒刀を俺に渡しながらそう言った。

 俺は──ルキに『ある黒刀』を調べて貰っていたのだ。


 銀鍔の黒刀──(なまえ)を『玉兎(ぎょくと)』という刀だ。


「どうにもならない?」

「平たく言えば、そうだね。残念ながらボクでもこれ以上は調べられない。

付与魔法と違ってこれは刀を鍛冶(つく)る時に魔法を練り込んでる。

いうなれば『刀鍛冶魔法』という新しい魔法だね。

物質に練り込まれたり溶け込んだりした魔法は、単純な構造の魔法なら割り出せるが、何種類も混ざっていればそれを割り出すのは困難だよ」


「そう、なのか」

(たと)えるなら、牛乳珈琲(ミルクコーヒー)を出されて、砂糖と牛乳と珈琲をどの割合で入れたかを答えよ、って言われるのに似ているかな。

見た目だけでは判断できない。

勿論、『飲んでいい』なら何かしらの答えが出るが──この場合の『飲む』っていうのはね」


「ぶっ壊していいなら、ってことか」

「ご明察。分解していいなら答えは出せるだろうけど」


「そりゃ駄目だな。借り物の刀だし……」

「借りた相手に聞くのは駄目なのかい? 持ち主なら全ての効果くらい知っているだろう」


「そりゃ……ちと無理だな」

 ──この二刀はロクザさんという方から借りた刀だ。


「そうなのか?」

「ああ。……本当は、俺がラッセル王を守れなかったから、返すべきなんだがな」


「……キミ、借りパクしようとしてるんじゃ──」

「ち、違うぞ! いや、文脈からそうなるかッ! 

いや、会ったらロクザさんに説明してから、ちゃんと返すんだけどさ! 

ほら、ラッセル王を守れなかったからこそ、その約束の続きで!

今度はラニアン王子を守る為に刀を使おうと思っててさっ!!」


「焦り倒しながら言うと信憑性が無くなるんだが」

「そうだよなっ! すみませんでしたっ! 

ロクザさんにゃ今、会わす顔もないし、何より王城にいるから簡単に会えないって訳で! 

そんな冷たい目で見るなってッ!」


「ふふふ。冗談だよ。まぁキミが武器に困ってる人間じゃないのは知っているしね。

……しかし、やはりそうなるとその刀の効果を知る術は無い、と言うしかないな」

「……やっぱりそうか」


「推察は出来るがね。金烏(きんう)が斬れば斬る程に熱くなる。

なら、玉兎(ぎょくと)も魔法を斬れば斬る程に何か起こるんじゃないか? 

凍ったり、または溶けたり? 伸びたり、吹き飛んだり?」


「さっきやったけど何も変化無かったじゃんか」

「まぁそうだな。もっと撃ち込むかい?」

「ははは……やめとくよ。まぁ、仕方ない。諦めるか……」


「……後、考えられるのは、『条件付き』の可能性だな」

「え?」


「嫌な例だが、蝋翼(イカロス)の魔法だ。対象者に掛け、『物体Aに近づく』という条件を満たすと炎が炸裂するという魔法が発動する。

それのように、『何かしらの条件』が満たされると自動で発動するタイプかもしれない」


「……確かに可能性はありそうだな」

「ああ。十分にあるね。最近見かけた魔法剣も、自身が呪いを受けた時に発動する能力を持っていたよ」

「嫌な発動条件だな」

「厳しければ厳しい程、強い力を発揮できる。ともいえるがね」

「ありがちだな。だけど、そうなんだろうな」


 それから少し沈黙があってから、ルキは苦く笑って両手を上げた。

「まぁ、結局、振り出しだね。能力は分からないという事実は変わらないんだから」


 ◆ ◆ ◆


「人質を取るってのが、勇者の。正義のやり方か?」


 黒金兜。黒金鎧。ライヴェルグの姿をしたジンは、怒りで少し口早にそう言った。

 城壁の上。若い勇者の男がいた。肩まである少し長めの髪の男、ジャンティー。


 その勇者(ジャンティー)は少年を人質に取っていた。

 黒い肌の魔族の少年。口を布で覆われ、腕も後ろ手に縛られているのか身動ぎこそするが逃げられないようだ。

 怯えた少年が、震えて目に涙を浮かべていた。


 ──キィ。と鳴った。ジンの耳にだけ聞こえた『声のような音』。

 何が鳴ったのか分からなかったし気にもなったが──ジンはともかく目線を男から逸らさなかった。


 ジャンティーは一瞬だけ苦く口を結んだが──すぐにジンを睨むように見た。


「魔族は殺す。生きてるだけで罪だ。そしてそれに加担するお前も討つ。

その為には手段を択ばないってだけだ……!」


「……じゃぁテメェこそ悪だな」

「悪から見れば、俺たちの正義は悪に見えるだろう、って隊長なら言うね。ともかく、その武器を捨てろッ! ライヴェルグ!

さもないとコイツを殺すぞ!!」

 勇者が力いっぱい少年の腕を掴んだ。声は出せないが声にならない悲鳴を上げたのだと、遠目で分かる程に、涙をこぼして痛みに顔を歪めていた。


「ッ……!」


 ──キィキィと。また、鳴っていた。

 それは甲高い音だった。まるで小動物──兎でも鳴いたような(おと)

 その(おと)は──銀鍔の黒刀、玉兎(ぎょくと)から出ていると気付いた。


(なんだ。さっきから。もしかして何か条件を満たして──)




 かつん。と音がした。




「よし! そっちの、もう一本の刀も床に置け!」



「は……ァ?」

 薄水色の刀身を持つ刀が──青白く輝いた『玉兎』が、ジンの足元に転がっていた。

 ジンは腰を確認した。腰に差した二本の刀。

 鞘に入りっぱなしの金烏と──その隣、鞘だけが残っている。


(な……んだ。いつ、俺は刀を抜いた? いや──もしかして玉兎の能力は……)

 ジンは一瞬だけ頭を巡らせた。

 この刀がジンの想像する能力だとして、何が発動条件だったのか。


「何してる! 早く置けよッ!」


(……まぁいいか。それより──)


 ジンは鞘に入った金烏を地面に落とした。

「足で遠くに蹴飛ばせ」

 ジンは金烏と玉兎を分けるように蹴った。

 金烏を建物側へ。玉兎を城壁側へ。

「……これでいいか」

「ああ。これで──」



 時が緩やかに見えた。絶景を使わずともそう見える程に、目を疑う光景。



 勇者の男(ジャンティー)は──少年を突き落とした。



「──お前も魔族もどっちも処分できる──ぜ、ごおぉお!?」



 その時、ジャンティーの足元が突き上げるように揺れた。

 立っていられない程の振動と爆音。

 四つん這いになってジャンティーは下を見た。

 何が起こったのか。


 城壁の根本、土煙が上がっている。まるで。

 そう、まるで──城壁に穴を開けたかの、ように。


「ま、さか。い、いやあり得ないッ! だってその城壁はッ! 5メートル以上も厚みがある鉄だぞっ!? 王国艦隊の砲撃でもびくともしない城壁を、まさか! まさか拳で──」


 振り返った時、ジャンティーは青ざめた。

 首を回しながら、腕に少年を抱き抱えた獅子兜の黒金鎧──勇者(ジン)が立っていた。


「人質を捨てるってのはよ。その瞬間、お前は5つの物を無くす。

一つ、身を守る盾。一つ、相手を心理的に縛る縄。一つ、交渉材料……」

 少年を下ろし、口を締め付けていた布を取り払う。そして、ジンは『銀鍔』の『青白く刀身が閃く刀』を左手から右手に持ち替えた。


「ッ! このクソがァっ!!」

 戦棍(メイス)を振り上げ、ジンに迫る。


「一つ、交渉への信頼。これで交渉をする権利も価値も、聞く耳を持つ義務も無くなった」

 戦棍(メイス)が空中を舞った。ジンが蹴り上げたのだ。

 そして、玉兎(かたな)を鞘に入れずにジンは腰を落とした構えをした。

「『玉兎(ぎょくと)居合』──」


(や──ばッ死ぬ!)


一刀跳(いっとうかけり)

 青白い光が一閃した。

 だが──ジャンティーは斬られていなかった。

 尻もちをついて倒れただけだ。

 ジャンティーは混乱した、体を触る。まさぐって斬れた跡が無いと気付く。


「え、あ?? ……は、ははっ! 下手くそだなっ! 危なかったッ! 避けれたッ!」


玉兎(こいつ)の能力が、俺の推察通りなら、もうお前の負けだ」

 まぁ違ってもこの距離なら捻り潰せるけどな、と内心で呟きながらジンはジャンティーを見た。


「はっ! 接敵されてもまだ武器も術技(スキル)もあるッ!

怪速(ラピッド・スピード)】!!」

 そして、ジャンティーはジンに向かって走ろうとした。だが。

 彼は足を止めて、目を血走らせた。


術技(スキル)って言葉は、この半世紀内に出来た言葉だ。ただ昔は無かったって訳じゃない。

ただ別の呼び名で呼ばれてただけだ。

その時は『伝統魔法』、『血統魔法』、『固有魔法』。魔法として括られていた」


「な、あっ」


「エグイ武器を渡されちまったもんだ。

──この玉兎(かたな)はお前の中にある『術技(スキル)』を斬り裂くらしい」



「っ! おおおおおっ!」

 遮二無二。いや、破れかぶれ。奇声を上げて拳を握り、ジャンティーはジンに走り寄った。

 ジンは冷ややかにその姿を見る。



「それと。人質を取った人間が、人質を失った後に無くす物。

その最後の一つはな。俺は奪わないでおいてやるが──痛みは味わえ」



 重厚な音。飛び散った()片。

 顎を下から真上へ向けて放たれた掌底。

 だがジャンティーは空に飛び上がらない。ジンの足はジャンティーの踏み込んだ右足の甲を踏んでいるからだ。


人体が上へ吹き飛ぶことが出来ず、掌底の破壊力はその顎から伝わり筋肉、骨、筋の全てを最大まで引き軋ませる。


 破壊力が逃げ場を失った結果、噛み合わせた歯が飛び散り──ジャンティーが仰向けに倒れ、エビのようにぴくぴくと痙攣をする。


「人質を取るような奴は、最後、普通は命を無くすそうだ。よかったな。優しい俺が相手で。

歯10本と全身の筋線維だけで済んだぞ」


 ちょっとやり過ぎたか? と息を吐いてから呟いた。


「もー片付いたの?」


 ふと、下から大きな声が聞こえた。

 不満そうな、それでいて挑発的な少女の声。

 下に居るのは長い黒緑色の髪の少女──ヴィオレッタ。


「ああ。片付いた」

「なーんだ。暴れたかったのに」

「そっちはどうだ? 三人は」

「ハルルとセレネ(つっきー)は安静にしてくれればまだ平気かな。

黒服勇者の人が大怪我。手加減抜きで殺す気で頭叩かれてるから頭の骨ヤバいね」

「そうか。だけど目途が立ったんだろ」

「もちろんだよ。ちょっと早く降りてきてよ。声出すの辛い」

「はいはい。分かったよ」


 ジンが少年と勇者を担いで着地した。

 それから──ヴィオレッタは腕を組む。


「ねぇ、ジン。やっぱり王国に乗り込んで、ナズクルぶっ飛ばすの駄目?」


「……同じ気持ちではあるぞ」


「じゃあさ」

「駄目だ」

「ケチ」

「……だけど。引きずり出させるのは一つだよな」

「え?」


「アイツ自身を戦闘の場に引っ張り出せれば──ボッコボコにしてもいいと思うんだよな。俺は」


 まぁまだ絵空事だけど。

 ジンはそう呟きながら玉兎を空に向ける。血こそ付いていないが、汚れを弾くように空で振る。

 そして鞘に納め──……かつん。と音がした。


 鞘から玉兎がすり抜け地面に落ちた音だった。


「……ダサ。かっこつけて鞘に仕舞おうとして失敗してる。くすくすも出来ないね」

「ッ! 違ッ! これは玉兎が能力発動中でッ!」

「見なかったことにするしハルルにはこっそりとしか伝えないでおくね」

「ふざけんなっ! つーかどうやってオフにするんだこの能力ッ!!」


 

  


 


 ◆ ◇ ◆

いつも応援してくださってありがとうございます!!

毎回、励みにさせて頂いておりますと伝えさせて頂いておりますが、

本当にブックマークやいいね、評価は励みに、心の支えになっております!

今後とも、ラストまで頑張らせていただきます!


また、執筆時間が今までより取れなくなってしまい、

安定した作品運営が出来ず誠に申し訳ございません。

荒い文章、錯乱した文章になっている場所が稀に発生していることを確認しております……。

読み直して、気付いた誤字や脱字、文章の読みにくさはその都度直していきたいと思います。

誠に申し訳ございません。


また、次回の更新日の5/3ですが、番外編を予定しております。

本編は土曜日夕方頃に更新予定です。申し訳ございませんが、何卒よろしくお願い致します!

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