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【20】全く違うであります【32】



 弾けたような音がする。暗闇の中、まるで『弾丸が蛙のように跳びまわっているようだった』。


 ハルルは──肩で息をしながらも、次の攻撃に合わせて神経を尖らせていた。


(絶……、絶景……!)


 『少しだけ遅くなった視界』で、ハルルは見た。

 四方八方の石畳からハルルへ向かって無数の『弾丸』が跳んできている──。

 弾丸というと少し語弊があった。厳密にその跳んできている物を分析すれば『鎖』だと分かる。

 親指程の輪が7・8個連なった鎖が回転、あるいは小さな拳くらいの大きさになって跳んできているのだ。


 それだけでは『弾丸』と呼ぶほどの脅威ではないだろう。しかし、その鎖はただの鎖ではない。

 素手で触れれば肉が裂ける程に鋭利な棘が、鎖の面には数十も付いている。

 その鎖の塊で出来た鎖弾丸(もの)をティスは『蟻』と呼んでいた。


 背後、左右から『蟻と呼ばれる弾丸』がハルルに迫る。

 その数、十数。とはいえハルルの目には追えている──のだが、彼女は躊躇った(・・・・)。躊躇ったが。


(っう! 薙ぎ払うしかないッスよねっ! もーっ!!)


 ハルルはそれを薙ぎ払う。いともたやすく切り裂かれ、地面に飛び散った──それが厄介なのだ。

 地面に落ちた鎖の欠片が、まるで膨れ上がるように『元の大きさの鎖』にみるみる戻っていく。


(蟻っていうか『再生魔物(プラナスライム)』ッスよ……!! ちょっと気持ち悪いッス……! 

にしても目は慣れてきて見えるようになってきたッス!)


 掌サイズの蟻と呼ばれた鎖の弾丸が、まるで意思でもあるかのようにハルルへ向かって跳び掛かっていた。


(弾丸、というか……何か……『跳んでる』ように感じるッスね。蛙ジャンプ的な?)


 ハルルは間一髪で避けながら鎖を観察していた。


(この弾丸は避けたり弾いたりは出来るッス。ただ問題は)


「本当に良く躱すでありますなっ!」

(こっちがヤバいんスよね……ッ!)


 風を切り──剣よりも鋭く石畳が斬られる。それは、鞭。

 ティスが振り下ろすのは『しなる鎖の鞭』だ。


(あの鞭が『弾丸』の親ッスっ……!

薙ぎ払って破損させると、破損した鎖が『弾丸』になるッス)


 鞭の三連叩きつけを回避しながら、ハルルは突きを放つ。

 ティスも体力的に落ちてきたのか回避しきれず左腕で防御していた。あの腕の下には鉄鎧でも巻いているのだろう。鋼鉄を這う感覚が薙刀越しにハルルに届いていた。


 ティスは濡れた石畳に膝を付いて体勢を立て直した。

 そのまま鞭を薙ぎ払う。


(それから、この鞭。柄とかで防御するのは危険ッス。

なんか巻き込まれそうッスし──『直感でヤバい』んでッ!)


 跳躍。大鎖鞭(なわ)跳びよろしく一跳躍。

 数歩後ろに着地し、纏わり付いてきた鎖の弾丸を石突で弾き飛ばし、ふぅーとハルルは息を吐きながら汗と雨を拭う。


「ちょっとずつ分かってきたッス」

「何がでありますか」

「ティスさんの術技(スキル)は、磁力に関係しているッスね」

「……ほう」

「さっきから跳んでくる鎖の弾丸。あれは磁石の反発によって飛ばしてるんだと思ったッス」

「ほうほう」

「もしかすると私を標的にするようにマークを付けて追尾させているのかもしれないッスけどね!」

 さぁ、どうッスか? とハルルが名探偵の鋭い眼差しを向ける。

 ティスは神妙な面持ちをする──。




「自分の術技(スキル)は、全く違うであります」




「ぎゃふん」

「そもそもでありますが。ハルル殿。

何故、貴方は自分の術技(スキル)を見破りたかったのでありますか?」


「え? ええ。まぁ。戦闘において相手の術技(スキル)や得意魔法を分析するのは、初歩の初歩って教わってるッスから」

「……教わっている。そうでありました。ハルル殿は師匠に恋愛感情を抱いている人間でありましたね」

「ななな……」

 ハルルが狼狽えるのを横目に、ティスは鞭を軽く振ると、ピンっと鞭がまっすぐに立つ。

 それはティスの背丈よりも遥かに長い……まるで大太刀だ。


「ハルル殿。自分の術技(スキル)は全く違うであります。

でありますが。『肉削ぎの蟻(アーマイゼ・パイトシェ)』の能力は明察であります。

自分の鞭は『鉄による増殖』『磁力による反発』、そして『対象への吸着』が行えるであります。

またこのように、固めて長い剣のようにも形状を変えられるであります」


「……な、なるほど。武器の能力でしたか」

「はい。そうであります。お師匠様曰く、『神官(・・)筆を選ばず』というのは出鱈目であり、『位が高ければ高い程、筆には拘りを持つ』とのこと。

それ故、お師匠様も『武器には徹底した拘り』があったであります」


(うちの師匠とはちょっと違うッスね……フライパンでも木ベラでも戦ってたッスからね……)


「でも何で教えてくださる気になったんスか?」


 ハルルとティスの目が合った。

 ティスはその大太刀を上に掲げ──「収束」と呟いた。

 大太刀は、鉄棍棒(メイス)に変わる。

 いつも操る巨大な鉄槌(スレッジハンマー)の半分以下の大きさしかないような棍棒だ。


 その鉄棍棒(メイス)を肩に乗せながら、ティスは顔色を変えずに「簡単なことであります」と返事をした。

「師匠の教えを受け継いでいる。それはとてもいいことだと思ったからであります。

同時に……その関係は。いえ。やめておくであります。つまりは、餞別(はなむけ)という奴でありますよ」

「はなむけ?」

「であります。別の言い方では……」


 その時、ハルルは『直感的に気付いた』。


 彼女の脳内のどこかでは『もっと前に気付けた筈だ』と自分を罵りがあった。

 『鉄槌の半分以下の棍棒』──残りの半分はどこに行った? 蟻の弾丸? いいや。

 『敵に逃げられるなら、逃げられないようにしろ』と彼女の師匠は罠術を教えていたこと記憶も蘇っていた。


 『そんなことより体を動かせ』とシグナルが走っていた。

 シグナル通りに、体は動いていた。


 結果的に。このコンマ数秒の直感的行動力が『命運』を分けたのは間違いない。

 次に起こる行動を、ハルルは予測し、背後に跳び走る。


 石畳が光っている。否──石畳の継ぎ目の隙間が光っている。


 ハルルは予測した。足場全体から突き上げる『鉄の刃』が来る。と。

 それは防げる。しかし、その鉄の刃はその次に『違う場所を攻撃する』。

 その場所。いや──その相手はハルルじゃない。それは。





「冥途の土産であります。──『蟻の行進曲(アーマイゼ・マルシュ)』」




 石畳が持ち上がったような錯覚。継ぎ目から鉄の刃が一瞬で飛び上がった。

「セレネさんッ!!」

 ハルルは身動きの取れない彼女の前に跳び出した。



 


 


◆ ◇ ◆


いつも読んで頂き、誠にありがとうございます!

休載させていただきありがとうございました!

高熱でしたがインフルでも無く、お医者様より「ただのすっごい風邪だね」と笑顔で言われました!

お騒がせ致しました! 今後ともよろしくお願いいたします!

 


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