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【20】肉削ぎの蟻【31】


 ◆ ◆ ◆


『ティス。いるかい』

『お師匠様! 今日は早いのでありますね!』

『ああ。少し早く帰って来たよ。さぁ弟子よ。

愛しい我が弟子よ。……今日は必殺技を教えてあげよう』


 まだ幼いティスは跳び跳ねて喜んだ。

『必殺技! お師匠様! 嬉しいであります! どんな技でありますか!?』

『それはね、『絶景』という技だ』

『絶景?』


『人はね。死が目の前にある時間が緩やかに見えるそうだ。

それはね、今まで生きてきた過去を脳が物凄い勢いで検索をして、どうにかして生存をしようとしているからだそうだよ』

『そうなのでありますね……? そういう経験が無い為、分からないであります』

『だろうね。だから、今からその経験をしてもらうよ』

『?』

 生物の骨で出来たごつごつとした階段を下りる。壁際にある緑色の炎が揺れる。

 熱い。階段を一歩降りるごとに全身を覆う不気味な熱を感じた。

 ただ、ティスは恐怖を感じながらも師匠の後についていく。

 二人が降り切った先は、四角い部屋だった。

 いや。ただの部屋ではない。

 壁際に熱された解けた鉄の液体が流れる、奇妙な部屋。


『ティス。君は正義の勇者になるんだよね』

『はいであります。そうなるのであります。自分は正義の味方、最強の正義の勇者になるであります』

『なら──信じてくれるね。この修行を越えた時、君に最強の力が継承できると』

『はいであり──ぁ、ぅ……?』

 ティスの意識が、靄が掛かったように遠のいた。

 何かの魔法だろう。崩れながら師匠の優しい顔を見つめて──。


 そして。次にティスの意識が戻った時は、鉄の十字に貼り付けにされていた。


『これが天裂流の奥義の伝授法らしい。さぁ、ティス』

『し……しょ』



『生き残ってくれ──この地獄(らくえん)から』



 熱された鋼鉄の鉄槌が──ティスの肌に触れた瞬間。

 金切声よりも甲高く、体の全てを震わせるような──絶叫が、誰にも届かない地下室で木霊した。


 ◆ ◆ ◆


 ティスという少女が鉄槌を構えて『何かの技』を発動した時、セレネは直感的に行動をした。


 ──あの炎が何かの能力なら、雨を降らせて消そう。

 それがセレネの直感的行動だった。

 実際──ティス以外知る由もないが『それが彼女の必殺技(ぜっけい)の弱点』であった。


(自分の絶景は……炎への恐怖であります。そして肉体的な苦痛を与えることによって……発動するのであります)


 豪雨。

 土砂降り──局地的な豪雨が降り注いでいる。


(──気温を落とされ、火を消されれば……使えなくなってしまうであります。よくも、やってくれた、でありますね)


 ティスの目を燃やしていた炎が、消火していた。


 そして、そのティスの動揺をハルルは見逃さない。

 絶景の世界の中で、ティスが緩やかに動き始めたのも見えた。

 だから、ハルルは薙刀で薙ぎ払い──柄でティスの左腕を強く打った。


 雨濡れた石畳の上をティスが転がる。


「どうやらっ……! ティスさん、雨が降ってたらティスさんは絶景、使えないみたいッスね?」


「……ええ。ハルル殿……ハルル殿は絶景を、どのように習得されたのでありますか?」

「?」


「自分は火の地獄を通り抜けて得た奥義でありました……。

それ故、火が発生しなければ死の恐怖で心を(ふる)わせられない。

ハルル殿は違うらしいでありますね」

「そッスね。私は──そういう習得の仕方ではなかったッス」


「……絶景は絶景を使わなければ防げない。なるほど。これが不利ということでありますな」

 ティスが残念そうに呟くと、ハルルが一拍置いてからティスを見た。


「そッス。だから大人しく負けを認めて、帰ってくださいッス」

「ははは。嫌であります。あり得ないであります」


 ティスは鉄槌を大きく振り上げた。


「悪を滅する為、最後の瞬間まで戦う。それが勇者。正義の勇者であります。

そして、悪を滅する為には手段を択ばない。遺憾であります。この武器は些か──」


 そしてその鉄槌の首が──折れて地面に落ちる。

「……っ」



「悪趣味が過ぎるのであります」



 それは、鞭に見えた。ただ普通の革鞭ではなく、柄から伸びているのは鎖。

 そして鎖の一つ一つには無数の細かい牙のような突起が付いた鎖である。


「『肉削ぎの蟻(アーマイゼ・パイトシェ)』」


 鞭のようにしなり──いや鞭よりも素早い。

 ハルルが絶景で緩やかに見ても──早いと思えるほどの速度。


 ただ、速度だけなら躱しきれる。

(この程度ならッ!)

 ハルルは薙刀で払った──鎖が千切れる。


 そして、鎖が飛び散った時。


「さぁ、ハルル殿──踊るであります」

「しまっ」


 判断ミスだと察した。


 鎖は輪の一つ一つに分裂し──弾丸のようにハルルに襲い掛かる。

 まるで砂糖菓子に群がる蟻のように。


 左腕に掠り傷、腰にも足にも、傷がついた。


 そして、ティスの鎖鞭が再生している。

 ──厳密には取れた『鉄槌頭(ハンマーヘッド)』から『鉄』を補給して鎖を生み出していた。


(ッ! あの武器、何なんスかッ! )


 追尾。まるで生きているかのように鞭は追ってきた。

 そして、さっき転がった『蟻のような鎖の輪』もハルルへ合わせて飛びつく。


(なんらかの術技(スキル)──ッ! 物質操作とかそういう術技(スキル)ッスかね!? 

ここに来て隠し玉ッスかっ!)


 地面を叩き、縦横無尽に鎖が舞う。

 薙刀で払うか迷ったが、ハルルはそれをしなかった。


「防がなかったのは良い判断でありますよ。

もし防いでいたのならその武器ごと絡めとって──その顔の肉、削ぎ落していたでありますから」





 


 ◆ ◇ ◆


いつも読んで頂きありがとうございます!

いいね等の応援もしていただき、本当にありがたい限りです!

今後とも頑張ります! よろしくお願いいたします!


そして、申し訳ございません。この度、休載させていただきます。

本日、高熱と体調の異常であり、明日病院に行く予定の為です。

また感染症かもしれず……念の為、次回投稿日を4/20(土)に予定させていただきたいと思います。

この度は申し訳ございません。季節の変わり目でありますので皆様もくれぐれも気を付けてくださいませ。


     20240416    暁輝

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