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【20】可哀想であります。【29】


 ◆ ◆ ◆


 ティス・J・オールスターさん。

 彼女を見た時の最初の印象は、見たことないくらいの可愛いさにビビりましたッス。

 その後、話をしていって変わってはいるけど面白い子という印象でしたッス。


 頑な。実直。融通が利かない。そういう言葉が当てはまるらしいッスけど、私的には……ピュアな子だなって思ったッス。

 純真だから何事も間に受けて生きて、その生きた道すがらで、折り合いがつかないことが多くあって。


 ちょっとだけ。私と似てるなぁっていう部分もあったから、仲良くなれると思ったんス。本当に。

 だけど……。彼女は、『正義を貫く為に容赦なく友人を殺そうとした』んス。


 それで──私は友人を守る為に。彼女は正義を貫く為に、喧嘩したことがあるッス。

 ちなみに、その戦闘は……一撃で負けたッス。


 ◆ ◆ ◆


「お久しぶりでありますね。ハルル・ココ殿」

「ティス・J・オールスター……ッ! ……さんっ」


「とってつけたような敬称、ありがとうございますであります」

 燃えるような赤い髪を一つ結いにした少女、ティス。

 その細見で軽々と巨大な鉄槌(スレッジハンマー)を扱う少女を見て、セレネは不気味さを覚えていた。


「お知り合い、なのですか」 セレネが不安そうな声で訊ねる。

 ハルルは視線をティスから逸らさずに頷いた。


「はいッス。ティスさんは──」


 瞬間、火花が散る。

「え──?」

 セレネは目で追うことすら出来なかった。

 鉄槌と薙刀が、競り合っている。ティスが振り下ろした鉄槌を、ハルルが薙刀の柄で受け止めているという構図だ。



「自分は正義の使者であります。そしてハルル殿は相変わらず──」



 ティスはハルルの後ろで転がっている女性──セレネを見て笑った。

「前みたいに悪党を庇うのでありますね」

「セレネさんは──ッ! 悪い人じゃないッスよ!」

 力任せに薙ぎ払い、ティスは数歩後ろに着地する。

 まるで複合商店(スーパー)で買った袋を振り回すような気軽さで、彼女は鉄槌をくるくる手で回した。


「そちらは人ではなく魔族であります」


 踏み抜かれた石畳が弾け飛ぶ。

 それは弾丸と見間違う速度の跳躍。空気を切り裂きティスは鉄槌を薙ぐように放つ。


「魔族も人も同じッスよッ!!」

 ハルルは冷静だった。その一撃を受け止めない。

 挨拶代わりの振り下ろしと構えが違うことに気付き、直感的に回避を選んだ。

 後ろに下がる。ティスが鉄槌を空振りさせたのを見送り、薙刀を上段から突き下ろした。彼女の左肩を狙った反撃(カウンター)の狙いは正確──直撃する。


 薙刀が刺さると何かが割れた音がした。──服の下、肩鎧(ショルダーガード)が機能を果たしたらしい。

 とはいえ刃を完全に止めた訳じゃない。深く刺さらなかったというだけ。僅かに血が腕から流れ落ちる。

 ティスは横に転がり、距離を取って立ち上がる。


「魔族は魔族であります」

「なんで括るんスか。そうやって」

「そして、魔族は悪であります」

「だから……なんでそうやって決めつけるんスか!」


 ティスの目と、ハルルの目が交差した。


「新人も、同じことをよく言うであります」

「……新人?」


「ええ。自分は隊長として(パーティ)を預かっているであります。

砕心色(ルジュ・ドゥ・サン)』とか『RuDS(ルッヅ)』とか呼ばれているであります。

隊名は自分が付けたものではないので愛着などありませんが──兎角、隊に入って来た勇者の中には『魔族や魔物を根絶することを何故か嫌がる』阿呆もいるのであります。

意味が不明ですが、彼らも似たことを言う」


「……皆思ってるわけじゃないッスか。魔族を悪として括るな、って」

 ハルルが言い放つと、ティスは鼻で笑う。

 そして肩のあたりをまさぐり──砕け、少し血の付いた鉄の欠片が裾から零れ落ちる。


「新人の言動の多くは意味不明ではあります。その為、説明をしているであります。

『人間より力の強い魔族を放置すれば、人間は根絶やしにされる』ということ。

『赤子まで徹底的に殺さなければ恨みは返される』ということ。

『我々が魔族を殺さなければ、家族にその恐怖を味わわせることに繋がる』ということを。徹底的に」


「……相手も同じだと、考えたことは無いんッスか」

「はい?」

「相手も。貴方のいう魔族だって生きていて家族が居て、感情があると。考えたことは無いんッスか」


 問うと、ティスは目を丸くした。そして腕を組む。


「言い返されることは、初めてじゃないであります。過去24名の新人が言い返してきたのであります。

ただ、そのように言い返されたのは初めてでありますね。確かに、そう考えると可哀想でありますね」


 ティスはセレネを見た。そして優しく微笑む。




「可哀想であります。人間以外に生まれてきてしまって」




「な……」

「別の人種という悪在。他種族に生まれてしまったのが運の尽き。

悲しいであります。やはり次は──人間に生まれられるといいでありますね」


「アンタはッ!!!」

 瞬間、動いたのはハルルだった。

 飛び上がり、空中で体を捩じり──全体重を掛けた大薙ぎ払い。


 防御は間に合った。だがそれでもティスは踏ん張りが効かず、壁まで飛ばされる。

 壁に背を打ち、ティスは膝から崩れる。


「本気でッ! そう思ってるんスかッ!!」

「っ……何を怒っているのでありますか……。ああもう、面倒なのであります。ハルル殿は何を言っているのかよく分からないのであります。だからもう」


 ティスは自身の右目を覆う。覆った指の間から、赤白い炎が溢れる。




「絶景……『落焔(らくえん)絶景(けしき)』」



 

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