【20】えっと。爆弾です【22】
◆ ◆ ◆
話しかけようと思ったのは、意外と面白そうな人だから、でした。
最初は、話しかけ難いかもしれないと思ったッス。
背がすらっと高くて、美人って素直に思える人でした。金髪のストレートが腰まであって、大人っぽいなぁと思いまして。
部屋の隅で、本を読んでましたッス。
『魔法論理学』っていう、なんか私じゃ読めないような難しそうな本のタイトルでした。ものすごい頭がいい人なんだなぁと思って、本を読み終わるまで待とうと思ったんスよね。
そしたら、見てるのがバレたらしくて、目が合ったんス。
『何か私に用件が──』と彼女が口を開けた時、本が手から落ちてしまったんス。
慌てて手を伸ばした時、本のカバーが外れて──絶景、『手から落ちた時、時がゆっくりと見えたので』その本の中身が分かってしまったッス。
カバーだけ『魔法論理学』でしたが、その中身は娯楽小説──勇者ライヴェルグをモチーフにした冒険小説だと。まぁ挿絵のページだったのもありますが。
『勇者物語ッスか?』
『ぁっ! こ、これは、その』
『自分もそれ、好きッス!』
『え、そ、そう、なんですか』
これがセレネさんとの会話のきっかけでした。
聞けば、魔族なのに勇者の物語を読むことはあまり推奨されていないとのことッス。それで隠していたということもあったようです。
ただ、その会話のあたりから──ちょっとずつ気付いたんすよね。なんでしょう、会話の端々。
どうにも25歳──つまり『26歳の師匠と比べて会話が若いなぁ』という感覚。あ、いえ、師匠の会話が歳行ってるって思ってるわけじゃないッスよ!!
その後、まぁ……色々あって白状して頂きましたッス。
強引に聞いたわけじゃないッスよ!
ただ、やっぱり秘密にしてほしいとのことだったので、師匠にすら秘密にしてるッス。
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「ハルルさん、大丈夫ですか? 重たくないですか?」
「い、いいぇっ……ッ! 大丈夫、ッス!!」
銀白の髪の少女、ハルル。彼女は木箱を両手で持ち上げて歯を食いしばる。
ハルルへ心配そうな声をかけているのは、長い金髪の女性だ。背がすっと高い彼女の名前はセレネ。黄月族の族長だ。
「無理しなくていいですからね。必要であれば」
「いえっ! 大丈夫ッス! 勇者の力っ! 見ててくださいッス!」
ハルルは精一杯に木箱を持つ手に力を入れる。
「え、えと、無理はしないでくださいねっ!」
「大丈夫ッス! ど、どの辺に下ろせばいいッス、かっ!!」
「えっと、こちらです」
どしんっと土煙を起こして木箱が降ろされた。
「ふぅ……っ! 重かったッス! これはセレネさん一人で運べる代物じゃないッスよ! どうやって運ぶつもりだったんスか?」
「え、あー……」
(ま……魔法で浮かせられるんです、なんて言い出し辛い雰囲気です)
「こ、こちらに誰かいるかなぁと思ったんですが。皆さん居なかったので」
「あ。なるほどッス。確かに人、少ないッスね」
「皆さん夜間の警備中なんだと思いますよ。時間も時間ですしね」
今日の夜は暗い。時折流れてくる分厚い雲が月を翳らせていた。
「ハルルさん疲れてるみたいですし、一度、休みましょう」
「え、後はあの黒い箱だけッスよね? やっちゃいますよ」
「いえ、あれが一番重たいと思いますので。その最後は私が──」
「いえいえ! 大丈夫ッス! 実は私、師匠から奥義を教えていただきましてっ! 使えばなんと筋力五倍になるんスよ!」
「え!? そんな技が!」
「えへへ。冗談ッス! ごめんなさいッス! セレネさんは冗談全部信じてくれるので、つい揶揄いたくなっちゃって」
「も、もうっ。酷いです、ハルルさんっ」
セレネさんが頬を膨らませったのを見てハルルは満足げに笑った。それから黒い箱に近づき、背負うように持つ。
(うぐ。確かに重たいッスね)
「あ! 気を付けてくださいね! 重たいですし、落としたら大変なので支えますね」
「えへへ。ありがとうございますッス」
「でも、力持ちですよね、ハルルさん。これ、相当重たいと思うんですが」
「た、確かに重たいッスね。中身一体何なんスか?」
「えっと。爆弾です」
「ば──!? ばあ!!?」
ハルルが躓いた。
「あ、危ないっ!!」
セレネが声を荒げた時、ハルルはどうにか地面を踏みしめ、息を荒げる。
「ば、ばばば!?!?」
「ごごご、ごめんなさいっ! 冗談ですっ!」
「あ、ああ! 冗談でしたかっ! びっくりしたッス!」
「はいっ。本当にごめんなさい。えっと、中身は砦用の『雷の塊』でして」
「……か、雷の塊??」
「そうです。雷の塊。これはその、黄月族の伝統魔法で、天候を固めて塊に出来るんです。
この中にはこの砦の三か月分の明かりの元が入ってます」
「ほ……ほへぇ。凄いッスね。よ、よかった。爆弾ではなくて」
「えっと。ただ、衝撃を与えると『形状固定』が解除されて雷に戻っちゃいます。
濃縮された雷ですので、半径1メートルくらいは雷撃で黒焦げになっちゃうと思いますので……」
さっとハルルから血の気が引いた。
(実質、爆弾以上じゃないッスかっ)
──そしておっかなびっくり、所定の場所に黒い箱を置く。
よくよく見れば、先ほどから箱を積んだ場所も無造作な場所ではなく黒い石が敷き詰められた場所に積まれていたことに気付いた。
ハルルはゆっくりと黒い箱をそのエリアに降ろす。
「じ、人生で一番、細心の注意を払ったッス……」
「あ、あはは。すみませんでした。でももう安全なので。万が一爆発しても、この黒断石の結界上に居れば安全です」
「黒断石??」
「はい。この黒い石は雷の魔法を散らして防いでくれるんです」
「そんな石があるんスね! じゃぁこれで鎧作ったら、雷無効装備が作れるんスか?」
「あ、そうなりますね。まぁ珍しい石なので結構お高くなってしまうと思いますが」
「なるほ……あれ」
(今……何か光りました? なんか一瞬)
「ハルルさんっ!」
どんっ、とハルルが突き飛ばされた。




