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【番外】便利屋ジンさん、子持ちになる【05】【500話御礼の番外編】


 ◆ ◇ ◆

この度は、長いストーリーにお付き合い頂き誠にありがとうございます!

先の話でも話しましたが、改めて御礼申し上げます!


読んでくださった皆様のおかげで、500話まで来れました。

本当にありがとうございます!


今回の番外は、まだジンさんが【迅雷】の術技(スキル)を使えた頃のお話です。

500話御礼の番外編で、文字数が通常話の2頁分となっております。


【20】からシリアスな話が続いてしまっておりますが……

楽しめる作品作りを心掛けて今後も投稿に励ませていただきます。


いつも本当に、本当にありがとうございます!


 ◆ ◆ ◆


「うちの子を預かって欲しいの。

もう4歳だしお留守番は出来そうだけど、不安じゃない?」


「は、はぁ、そうですね」


「ほら最近物騒じゃない? 交易都市でも誘拐事件が頻発してるっていうし」

「ああ、確かによく聞きますね……」

「ね? だから預かって欲しいのよ」


「いや、その。一応、便利屋ではあるから受けれるんですが。

何というか、児童館的なそういうとこの方が安心できるんじゃないでしょうかね」


「ううん。ジンさんにお願いしたいのよ。

いつもギルドへの納品はきっちりしてくれてたじゃない? 信頼できるし」


 彼女はギルドの元受付嬢のお姉さん。

 結婚してから交易都市の旦那さんの仕事を手伝ってる人だ。

 旦那さんが食品、特に肉系を仕入れる商人だから俺とも面識がある。とはいえ、あまり親しい人ではなかったんだがな……。


「それにハルルちゃんもいるでしょう?」

「え、ハルル?」

「そう、ハルルちゃん!」


 ああ、なるほど。アイツへの依頼ね。


 ハルル──それは俺の同居人である。

 俺の弟子を名乗っている不思議な白銀の髪の少女だ。

 俺が魔王討伐を果たした元勇者ライヴェルグっていうこと探り当ててこの家に転がりこんできた。

 まぁ色々と強情な奴でな。仕方なく家に置いている。


 加えて、アイツは天真爛漫を絵に描いたような奴だから、こうやっていろんな人と繋がりがあるのだ。

 俺はこの十年……諸事情で世間との関わりを避けてきた。

 だからこうやって普段と違う依頼が飛び込んでくるのは珍しいんだ。


「最近、いつも買い物に来てくれるし、少し前にはお店の仕事も手伝って貰っちゃったから!」


 ハルルは今日も冒険者(ゆうしゃ)らしくギルドに依頼(クエスト)を受けに行っている。

 ただほぼ毎回、昼には帰ってくるし。


「まぁ昼にゃアイツ戻ってくると思うんで……」

「ほんと! よかった! じゃぁこの子をお願いね! 

あ、名前はライチよ。女の子だからね?」

「ああ、はい」

「よろしくお願いしまう!」

 おお、ちゃんと頭を下げてくれて。こちらこそお願いします。



 ◆ ◆ ◆



 ……とはいえ。

 四歳児と過ごしたことなど人生では一度も無い。

 何をすればいいのだろうか……。

  

「ともだち!」


「はい!」

 しまった思わず力んで返事をしてしまった。

 というか。

「あー、えっと。俺、友達じゃなくて、ジンっていう名前で」

「え……ライチと、ともだち、じゃないの?」

「い、いや、友達だけど!」

 寂しそうな目で見ないでくれっ!


「ならともだち!」

「まぁ、そうなるか……」


「ともだち、これ読んで!」

 ばんばんと机を叩いておかれた絵本を指している。


「あれこの絵本はさっき3回くらい読まなかったっけ?」

「読むー!」

「はいはい、了解です」


 俺がベッドに座って絵本を広げると、足の間にどんっと乗っかってくる。


 四歳児の髪、随分とさらさらだな。ハルルの髪みたいだ。


 ──俺が絵本を読み終えると……ライチちゃんはキラキラと笑う。


「も一回!」

「まじか」

「もー一回!!」

「はい……」


 同じ物なんだが……うさぎと亀が徒競走する話。

 そういえばまだ文字はあんまり読めないって言ってたな。

 同じ物ばっかりじゃ飽きるだろうし、少しオリジナリティを加えてみるか。


「そこで、亀さんは近道を思いつきました。森の中を抜けて近道を」

「ともだち」

「はい」

「ちゃんと読んで」

「……はいっす」


 俺はまるでハルルのように返事した。

 ……分かったぞ。この子、多分、絵本全部暗記してるな……。

 暗記した上で俺に読ませるとは。中々の趣向をお持ちで。いやそういう訳じゃないか。


 ──そして6度目の絵本読みが終わると……。

 ライチちゃんは、おもむろに立ち上がった。


「次、お外行きたい!」


「外? ああ、いいぞ」

 寧ろ外で遊ぶ方がありがたい。

 絵本のエンドレスリピートよりかはそっちがまだ楽だわ。


 ◆ ◆ ◆


 そして西瓜みたいな大きさのボールがまっすぐ跳んでくる。

 安全に配慮した柔らかいボールを買った。


「おお、ライチちゃん。上手いじゃん」


 今は公園。太陽がさんさんと輝いてまぶしすぎる。

 そんな公園でボール投げして遊んでいる。

 俺はボールをキャッチして笑うと、ライチちゃんは歩いて近づいてくる。


 ライチちゃんはボールを気に入ったようで……独特なルールが生まれていた。


「ボールちょうだい!」

「はいどうぞ」

「えへへ! ともだち行くよ!」


 四歳児のパワーでの全力投げが俺に来る。

 今の遊びは、ライチちゃんが投げるボールを只管キャッチする遊びになっている。

 なお、「ともだちは投げてはいけない!」と命令されたので投げ返すことはしません。


 と、ボールに飽きたのか、それとも疲れたのか、ライチちゃんはその場に座った。


「どうした? ライチちゃん」

「次はあの遊びしたい」


 ? ああ、他の子がやってる遊びを真似したいのか。

 あの子たちの輪に入って遊んできてもいいんだが、それは苦手なのかな?

 えっと……ああ。


「『だるまさん(レッドライト)がころんだ(グリーンライト)』か」

「それ! やる!」


「オッケーオッケー。いいぜ、やろう」


 だるまさん(レッドライト)がころんだ(グリーンライト)はポピュラーな遊びだな。

 俺は壁に向いて、ゆっくりと言葉を出す。


 俺が見てない時は進んで良いぞ。「グリーンライト」。

 俺が振り返ったら進んじゃだめだぞ。「レッドライト」。


「動いてない?」

「動いてない!」

 メッチャ動いてるけど、まぁセーフにしようか!


 改めて壁に向き直った時。



「【転跳(わーぷ)】!」



「!? ライチちゃん!?」


 慌てて振り返った。おいおい。

 ライチちゃん、術技(スキル)使えんのかよ! 術技(スキル)は確かに早ければ生まれた瞬間から使えるって聞いたことあるけど!


 空中に跳びあがっている。



「それ大丈夫なのか着地!?」



「わー」

「ダメそうだな! 【迅雷】!」

 地面を焦がし、空中に跳ぶ。

 空中でキャッチしそのまま着地。


「空間移動系の術技(スキル)か? いや凄いの使えるな」

「えへへ。でも、ともだち」

「ん?」

「ルール違反! 鬼失格!」

「え、厳しくない??」

「えっへっへー!!」

 本当に楽しそうに笑うな。

 うちのハルルも似た感じだが……ん、笑い方が四歳と似てるハルルってどうなんだ? まぁいいか。


 というか、ハルル……まだ帰って来ないのか……。

 もう昼は過ぎた。

 一応、家に書置きしてあるんだがな。

 『子供と公園で遊んでるからすぐ来てくれ』って。


 ふと、こっちを誰かが見ていたような気がした。

 ? 誰だろうか。まぁいいか。


 ◆ ◆ ◆


 遅めの昼ご飯を食べ終わり、次はかくれんぼ(ハイドアンドシーク)

 いやしかし、ライチちゃん。


「ともだち! もー一回!」


 元気だなっ……! 四歳児の体力は無限かよっ……!!

 振り返ったらすぐに見つかるかくれんぼ(ハイドアンドシーク)を繰り返すこと20回以上。隠れる精度こそ上がってきたがそれはやはり四歳児のそれ。

 もはや、最終的には鬼ごっこに近い。まぁライチちゃんが楽しんでくれてるならそれでいいんだが……。


 恐ろしいのはこの子、食べてる時以外、ずっと動いてるぞ……。

 俺、ちと疲れてきたぞ……。


「じゃぁ次は10秒じゃなくて30秒数えるぞ。いっぱい隠れる時間があるからね。隠れてくれよ」

「はーい!」


 ゆっくり時間を数え始める。

 時間はそろそろ夕方に差し迫ってきた。太陽もオレンジ色。

 結局、ハルルは帰って来なかったな。まぁそういう日もあるか。

 時間を数えている間だけ休憩出来るな。


 30数えて振り返る──。

 

 おや。隠れる精度がかなり上がったか? 

 さっきまではそこの木の後ろがお気に入りだったが。

 ……ベンチ? あれ。こっちの木の裏も居ない。


「ライチちゃーん?」

 ……あれ。


「おーい」

 ……あれ。


「ライチちゃん??」


 ──『ほら最近物騒じゃない? 交易都市でも誘拐事件が頻発してるっていうし』


 指の先から血が抜けるような、ぞっとした怖気が走った。


「ライチちゃん!」


 声を荒げるが返事は無い。おい。それはマジか。嘘だろ。



「っ! 【迅雷】! 『雷域索敵(ソナーボルト)』!」



 雷化と索敵魔法の混合技。半径三キロ範囲の生物を索敵する。

 この公園をカバーした上で道行く人間の数まで分かる。


 二人以上で歩いているのは8組。その中で6人以上が2組。


「脚部雷化」


 空中へ飛び上がる。一番近い6人組へ。

「うわ誰?!」 普通の学生か。違う。

「んだお前ッ!」 普通のヤンキーか。違う。


 どれだ。待て。まさか術技(スキル)で変なところまで飛んだんじゃ?

 空間移動系術技(スキル)だった。それなら……いや待て、術技(スキル)も練習しなければ遠くまではいけない。

 やっぱりこの索敵範囲内をしらみつぶしに当たった方が早い。


 焦るな。街からは出てないはずだ。

 いや公園の周囲から離れていないはず。


 術技(スキル)による雷化と時間を遅行させて見る技術の合わせ技。



「──雷天絶景」



 これを使えば──世界が疑似的に静止する。

 この空間で俺は走る。

 公園の隅から隅まで。外を、木々の中を。


 夫婦、カップル、学生、勇者、勇者──。

 

 いた。ライチちゃん。それと。



「──ハルル?」



 絶景が解除され時間の動きが戻った世界で。

 泥棒のように巾着を被ったハルルがライチちゃんと話していた。


「ぎゃ、師匠」

「ともだちー!」


「何。どういう状況だ」



 ◆ ◆ ◆



「いや、俺、子供いる訳ねぇだろ。結婚もしてないし」

「だ、だって、『子供と公園にいる』って書いてあったのでっ」


 それで気を使って陰に隠れていたと。

 その上で気になって仕方なくなり、お母さんは誰か聞いてたのか。


「ったく。早とちりしやがって」

「えへへ。いやぁ気になっちゃうじゃないッスか」

「そうなのか?」

「そりゃ」


「ハルルー! ともだちー!」

 ライチちゃんは元気にハルルに飛びついた。

「わぁ、やられたッスー!」


 ……ハルルと仲良くなる方が圧倒的に早かったのは少し悔しさはあるが、まぁ負担が減ったのでよしとする。


「じゃぁ次はお前が遊んでやれよな」

「師匠も一緒に遊びましょうよー」

「ともだちも遊ぶー!」


「……はぁ。分かったよ」


 疲れでちょっと眠くなってきてるんだが。仕方ないな。


 ◆ ◆ ◆


 結局、ライチちゃんと別れたのは18時を過ぎた頃だった。

 あの子は8時間ぶっ通しで遊んで全然平気そうだったな。

 いや、家に帰ったら即寝ちゃうかな?


「別れ際、寂しそうでしたッスね」

「ああ、まぁまた会えるって言っても分からないだろうからな」

「えへへ。ライチちゃんじゃなくて」

「あ?」

「師匠がッスよ」

「……飯抜きな」

「ひぇ!?」

「冗談だよ。とりあえず今日は簡単なものでいいか?」

「あ、私が作るッスよ! お疲れでしょうし!」

「そんな疲れてないが……まぁお言葉に甘えようかな」


 しかし、本当にパワフルだったな。四歳児ってのは。

 ただ、可愛かったな。

 変な意味じゃなくて……成長が楽しみ、みたいなさ。

 

 今日の日をあの子がいつか忘れちゃうかもしれないけど、ふと思い出した時に楽しかったって思える思い出になったなら幸せだな。


 ……いつか俺も、あんな。


 ……やべ。マジで眠気が。




 ◆ ◆ ◆



「ありゃ。師匠?」

 ハルルが部屋を見ると、ベッドに腰かけたジンは座ったまま寝息を立てていた。


「もー、変な寝方してると体痛くしますよー?」

「んー……」


 これは完全に寝落ちッスね。ハルルは笑ってから作り終わった野菜炒めに蓋をする。

 明日の朝ご飯にしましょ。と笑ってから、彼の隣に座った。


「お疲れさまでした、師匠」

 彼の髪を少し撫でる。

 不意に、ハルルはにやりと笑い、そのままジン体を優しく引っ張ってみた。

 体が横に倒れ、ハルルの肩にジンの頭が乗る。


「子供と遊んでる姿、楽しそうでしたッス。

きっと、その。いつか子供が出来たら……あんな感じなんスかね」

 ジンは答えない。寝ているのだから当然か。

 ハルルは頬を少し赤くする。



「いいパパしてましたよ──……あなた。

な、なんちゃって……! えへへ」




 照れた笑みを浮かべてハルルはジンの手をこっそりと握った。







(……っぅぅ。お、お、俺。体痛くするって言われたあたりから起きてんだ、け、ど、ね)




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