【20】ひととき【12】
◆ ◆ ◆
ふぅ……一息付けた。
自室に戻ってようやく兜を脱いだ。
「師匠、お疲れ様ッス!」
先に部屋に戻っていたハルルが俺の兜を受け取ってくれた。
「ああ……ありがとう」
白銀の髪が揺れる。
そう、ハルルは髪の毛先を染めていたのだが、今は色を落としている。また染めるそうだ。
「ふぅ……」
「なんか溜め息なんて珍しいッスね。かなりお疲れッスか?」
「ん。ああ、まぁ……昔から会議って苦手なんだよ」
「そッスかそッスか。じゃぁねぎらいで肩もみでもしましょうか?」
「それは遠慮しとく」「え~」
ハルルが笑いながらカーテンを閉めてくれた。一応、素顔は伏せている。もう伏せる理由はあんまり無いが、今後の為に一応、だ。
一部の族長たちの前では兜を被っていない時も見せてはいるが、やはりライヴェルグを演じていた方が都合がいい。
……いや、演じているって言っても、ライヴェルグも俺の名前なんだがな。
兜を机の上に置く。
「新兜も似合ってて良かったッス」
「ああ。……まぁだいぶ厳つい気がするがな」
「それがいいんじゃないッスか~」
俺の兜は『黒金獅子の兜』となっていた。
──これはライヴェルグ時代の兜を元に新たに黒を基調に塗り替えられた兜だ。
あの頃の兜はもう無く……ハルル監修の元、ルキとヴィオレッタが作り上げてくれたのがこの黒金獅子の兜だ。
「とりあえず、ナズクルさんたちは戦争を諦めてくれたみたいッスね!」
「……そう、だといいんだがな」
「? ナズクルさんたちはもう暫く動けないって族長さんたちと話してたじゃないッスか?」
「ああ。でもそりゃ冬の期間だけだろうな、とも思う。こっから魔族自治領も王国も結構冷え込み始めるからな」
「あ、セレネさんも言ってったッス! 今年は『大雪』になるって! ものすごい寒いらしいッスね!」
「セレネ……? セレネって……『黄月族の族長』さんか? あの無口で、いかにも堅物っていう感じのお姉さんだよな?」
「? 無口じゃないッスよ? 結構、気さくで仲良く喋ってるッス!」
「マジか……お前、ほんとに誰とでもいつの間に仲良くなってるな」
「えへへ! セレネさんは天候読みが得意だそうッス! というか黄月の魔族の方は天候の魔法が種らしいッスね」
「そうなのか。そんなことまで話したのか」
コミュ力お化け怖ぇわ。
「でも何で冬を避けるんスかね? そんなに冬は戦い辛いんスか?」
「まぁ、一般的にはそうだな。戦争ってなったら沢山の人間が動く。寒ければ暖を取らないといけなくなるからな。もちろん魔法とかで保温も出来るが……それも魔法が習得出来ている人間に限る」
最近、化物連中と戦ってるのがデフォルトで忘れかかっていたが、レベルの高い魔法は勇者の中でも使えるものが限られる。
「俺は数回だけ雪中での戦闘をしたことあるけども。鎧で雪の中を動くと体温がぐんぐん抜かれる。それに雪の中に罠が仕掛けられていたりすると手に負えないしな。視界も悪い。良くないこと尽くし、ではある」
「そうなんスね。なんか冬でも夏でも《雷の翼》は進軍してたイメージあったッス!」
「ああ。まぁ確かにあの年は冬でも進めたな。なんか雪が少ない年だったってのもあると思うぞ。毎年来る吹雪とか無かったし。
っていうか、俺たちは『聖夜祭』の時期は王都に戻ってたぞ」
聖夜祭。この世界の全種族が知っている年中行事だ。
神話曰く、この世界が生まれた日だそうだ。種族ごとに呼び名は少し違うが、魔族にも人間にも、どの種族にとってもその日は特別であり、それを理由に休戦することもある。
ちなみに王国では聖夜祭から年明け数日が冬期休暇となる。
「そっか、もう聖夜ッスか……。なるほどッス。だから『四ヵ月』も空けるんスね」
「かもしれんな」
今から四ヵ月となると、花月。最も動きやすい時期であるのは間違いないが。
「でも師匠はナズクルさんたちが仕掛けてくる、って思ってるんスね?」
「……まぁそうだな。実際、怪しい動きがあるしな」
「本格的に冬が始まる前に攻勢に出る! っていうやつッスか」
「ああ。ありえなくはない」
諜報活動で王国側に潜っているヴァネシオス曰く、王国の最西領の『西号基地』にはS級勇者が配置されたらしい。防衛の為の可能性が高いが攻め込んでくる気が満々とも取れる。
何か知らんが形振り構っていないナズクルがここで手を拱くとも思えない。
「でも勇者たちが動き出したら、その時は自分の仕事ッスね!」
ハルルが、にひひと悪い笑顔を浮かべた。まったく。
「その手は最後まで使わないことを祈るがね」
「えへへ。私はやりたいッスよ!」
──俺たちの持つ秘策の一つ。それはハルルが握っている。
この秘策をすれば、もし勇者が雪崩れ込んできても『一回は』正面戦争を回避できる。筈だ。
いやまぁ実際の威力が不明だからな。筈としか言えん。
だが、あんまり危険には……っと、それは過保護が過ぎるか。
こんこん、とノックの音が響いた。
『邪魔していいかい。あたしだよ。センスイだ』
しわがれた老女の声。
「どうしました?」 扉越しに俺が訊ねると扉がガチャガチャ音を立てた。
『何いっちょ前に鍵かけてんだい! はよ開けな!』
「ちょ待て、センスイさん! 壊れる壊れる!」
せっかちが過ぎるぞ、おばあちゃんッ!
ハルルが扉を開けた。
青白い髪を蓄えた背の低い老女。
彼女はセンスイ。青陰族の族長だ。
頭が切れるばあちゃんであり、王子の件とヴィオレッタの件で一番に動いてくれたのは彼女だ。
ちなみに、失礼かもしれないがちょっと梅干しのような顔だと思っている。
「あんた失礼なこと今考えたろ?」
ははは……、そして凄く勘がいいばあちゃんだ。
「どうかされたんスか、センさん?」
ハルル、お前、そのばあちゃんとも仲良くなってんのか??
「別に大したことじゃないさ。一度、屋敷に戻るよっていう話さね」
「屋敷に? そりゃ急だな」
「ああ。あたしの読みじゃあ、この後、ゴタゴタがありそうだからね。
それなりに戦えるガキんちょ共を用意しに戻ろうと思ってね。
暫く……そうさな、一月くらいは戻らないかもしれないって伝えようと思ってね」
「一月か。了解した。何かあれば都度連絡をするし定期連絡は入れるよ」
「頼むよ」
「ええ、寂しいッス……」
「はん。……まったく。こんな婆に懐くなんて、変な子たちだよ、あんたたちは」
センスイさんはハルルを軽く撫でた。
「? たち?」
「そうさ。あ、あんたのことを含めた訳じゃないからね」
さいですか。
「ヴィオレッタさんのことッスね?」
「ああ。この後、あの子らに会ってから行くよ。
それに、あの子たちが捕まえているユウは元々青陰の子だからね。責任をもって監禁しとくよ」
「あ……そういや捕まえたっきり忘れてたな」
老王に化けてたユウをとっ捕まえてから檻にぶち込んでおいたのだ。
「という訳だから、準備したら発つよ」
「ユウ連れてくなら、センスイさん一人で大丈夫か?
今は縮んでるが腐っても元勇者で幹部になる予定だった奴だぜ? 一人で抑え込めないだろ」
「はん。腐っても虹位七族に名を連ねる族長さ。
万が一の時はユウくらいしっかりと抑え込めるさ──『赤いの』がね」
「赤守の族長を護衛に使ってんじゃねぇか」
「護衛じゃないさ。暇だろうから連れてくだけさね」
赤守の族長、可哀そうだな……。
「まぁもし状況が変わったらすっ飛んでくるさね」
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いつも読んでいただきありがとうございます!
今日の投稿で500話ということで、この後、記念にEXストーリーを投稿致します!
休載のお知らせも含む500話ですが(笑)
休載のお知らせもいずれショートストーリーに変更し、500話達成と言えるように致しますので何卒ご容赦いただければと思います。
500話も書けたことは、ひとえに読んで頂き、応援してくださったおかげです。
本当にありがとうございます!




