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【20】魔族虹位七族【11】


 ◆ ◆ ◆


 魔族には7つの部族がある。

 『虹位七族(こういしちぞく)』と呼ばれる通称の通り『赤橙黄緑青藍紫』の7色に分かれた部族だ。

 部族は数百年以上昔にはそれぞれが国であったこともあり、部族ごとの特色が強い。


 また、魔族の長い歴史の中で、虹位七族(こういしちぞく)は『不仲』──否、部族間の関係は『最悪』である。魔王フェンズヴェイ統治の時代にこそ、『その武力の前に強制的に協力させられた』が、それ以前も以後も協力したことなどない。


 魔族の部族間の関係が最悪なのには理由がある。

 それは『四翼』という制度(システム)に起因する。太古の昔より他国との争いが絶えない魔王国には屈強な四人衆が魔王の腹心に付くという文化でもあり──いわゆる『四天王制度(システム)』だ。


 腹心となれば結果的に部族は優遇される。負けた部族は追い立てられる。

 その『魔王腹心の四つしかない椅子』を求め、各部族は常に競い合っていた。公式(おもても)非公式(うらも)問わずに。


 ──結果だけ見れば、太古から続く『四天王制度』は功を奏していた。蟲毒のように強者を残し、市場原理のように良質な技術だけが残っていった。


「いつ以来でありましょうな。七部族が一堂に会するなど」

 赤黒い髪のやせ細った──目覆いの青年が柔らかい声でそう呟く。10代にも20代にも見える若い男だ。

 ここにいる魔族の7人は族長という肩書を持ってこそいるが、比較的に若く見える者が多かった。


「『赤いの』。先日の式典で顔を合わせただろうに」

 その隣、縮んだ背に青白い髪を蓄えた老婆が呟いた。この中で最も最古参という風格と風貌だ。

「はは。そうでありましたな」 

 目覆いの男が笑うと、それに割って入るようにため息が聞こえた。

「はぁ。やだねぇ。年取っても青の一族の奴って人の揚げ足取らないとまともに会話できんのかねぇ」

 体躯(がたい)の良い中年男性──まるで土木作業員のような男が肘をついて言う。

「何か言ったかい、『虫の』」

「なんでもねぇーよ。耳まで遠いかよ。長生きしてくれって言ったんだよ、ばあさん」

「はん。あんたの倍は生きるよ」


「くすくす。族長さんたちは仲がいいんだねぇ」

「剣呑としているように見えるがなぁ」

「そう? みんな本心は優しそうだよ」


 会議室にくすくすと笑いながら入って来たのは『魔王歴三日目の魔王』と──金獅子の勇者ライヴェルグに一時的に戻った(ふんする)ジンである。

 魔王ヴィオレッタ。少女は楽しそうに歩き、円卓の上座に近い席へ座る。

 彼らが入ってくるなり、族長たちに少しピリッとした空気が流れる。

 そして会議室に全員が集まり、最後に王子が着席した。


「……時代も変わったね。あたしら一族を殺しまくった勇者と、怨敵であった王国の王子。

あんたらと同じ円卓に付くなんてね」

 老婆が憎悪とも愉悦とも取れる言葉を吐いた。

 王子が言葉を選んでいるのを見て、ジンは兜の下で苦く引き攣ってから言葉を出した。


青の族長(センスイ)さん。今は敵意を向けてくれないでくれよ。

新しい魔王様と王子様の為に結束するって約束したじゃねぇか。な。

それで、族長様方、どうだった?」

 会話を別の方向へ逃がし──机の上の書類に目を落とす。


「平和条約。内容に怪しい点はあったか?」


 ──ジンも、ヴィオレッタも、戦闘のプロフェッショナルではあるが国の運営なんてしたことが無い。

 それ故、心得のある族長方にチェック等を依頼した。


「ナズクルなら、条約の中に不公平な内容とかをぶっこんでくるかと思ったんだが」

「特に無かったな。締結するのが四ヵ月後っていうのは引っかかったが王国の内情を考えたら妥当かもな」

 体躯(がたい)の良い族長が頷いた。

「で、ありますな。ああ、これは条約に直接関係はないかもしれませんが。

拙者が気になったのは条約の内容より紙が特殊であることですな」

「特殊?」 ヴィオレッタが小首を傾げるのに合わせてジンが頷いた。

「ええ。条約締結の代表団を記載する紙でありますが……妙な魔力が流れておりますが、害意は感じられませんな」


 ついでに『こう書けよ』と言わんばかりに向こうの代表団も記載され送られてきていた。

 ジンはトップのナズクルと二番目の見知らぬ男の名を流し見し、その白紙の方へ視線を移す。


「ああ。『同時記録紙』だな。ここに書いたことが別の場所に転写される魔法紙だ」

 ──勇者日報の仕組みと同じ、とジンは続けて補足した。勇者は日々の活動を自身の持つ手帳に記載し記録をする。これが日報を付けるということであり、この日報はギルドで保管されている。

 この仕組みがあったせい(・・)で、ジンは過去の黒歴史を王国全土にバラ撒かれているのである。

「ふむ。でしたら怪しい点などは一切──」


「あるよ」


 目覆いの男の言葉を遮って青の老婆が呟いた。



「内容が完璧すぎるね。締結出来たら双方幸せだろうけどね。

あたしに言わせると、こんな完璧すぎる条約なんて『結ばせる気が無いんじゃないか』って思っちまうね」



「……なるほど」

「まぁ条約の打ち合わせがこの先何度かあるんだろう? 

条約の代表団の首席代表はあたしがやってやる」

「ばあさん大丈夫か? そんな足腰で身動き取れるか?」

「『虫の』。本当にあんた失礼だね。歩いて帝国くんだりまで散歩出来るよ、あたしはね」

「はは。では代表団の欄を埋めていきましょうぞ」



 

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