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【20】喫煙者二名、屋上にて【10】

 

 

 ◆ ◆ ◆


 はーい、全員注目してー! オレらは今どこにいるでしょーか!

 ルキさんの家? ぶっぶー! 交易都市? ぶっぶー!


 正解はこちら! 魔族自治領! それも『12本の杖』の……えーっと、なんていうんだっけか。


「ハッチ。この建物なんて言うんだっけ?」

「はぁ? 何よ藪から棒に」

「いや、なんか、改めて言うとここってなんて建物なのかなぁって。

12本の杖の連中が使ってた会議とかする建物で」


「……んー……。まぁ、小さいけど議事堂……とかじゃないかしら?」

「なるほど。──では改めて。オレたちは今、『12本の杖』の議事堂の屋上で煙草を吹かしていた」


「いつも思うけど。あんたの時々入る謎のナレーション語りは誰に向けての物なのかしらね……」

「ははは。まぁ独り言だしノリで喋ってるから気にしないでくれ」


 現在、オレたちはまぁそういう建物の上にいる。

 煉瓦造りの五階建て。結構しっかりとした建物だろ?

 自治領発足時に王国が建てたんだとさ。まー、詳しくは知らないけどもね。


 ともあれ。北国らしく風は冷たい。

 今日も曇り空だ。この北西にある自治領じゃ晴れる日が珍しいそうで……。まぁ、寒空の下で吸う煙草ってのも乙なもんだと言い聞かせてる。


「でもようやく、少し落ち着いたのかしらね」

「まぁそーだといいけどなぁ」

「ここ最近、超忙しかったもんね」

「だな。そういえば『昨日の式典の日』さ、オレ、忙しすぎて煙草をほぼ一日吸わなかったぜ!? 朝と夜しか吸ってないから、12時間近くプチ禁煙!」

「朝と夜は吸ってんだからプチ禁煙も何もないだろー??」

 12時間は割と快挙だけどなっ!


 ともあれ、この数日間……特に昨日は目まぐるしく忙しかった。


 王国の国王様──ラッセル王が息を引き取ってから、王子は『戦争をしたくない』と決意を固めた。

 あの年の子供が、親が殺された後に感情を精一杯押さえてそう言ったのは、本当にすげぇと思ったよ。

 だからオレたちも協力することにした。

 王子が決意してから、まぁ色々動き出したんだわ。


 戦争を行わない為には『魔族側は戦争しない』と発言しちゃえば解決っていうレッタちゃんの暴論、もとい『解決策』を元にオレたちは動き出した。

 

 魔族側の頂点──『12本の杖』っていう『魔族自治領の統治委員会』に会って説得しよう。っていう話になった。

 んで、こっそりと会って話をつけようとしたら──なんとまぁ……全員が全員、魔族を捨てて王国に亡命しようとしている話を聞いてしまった。


 これには流石にビビったし、まさか王国のナズクルと既に話が付いてたらしい。


 ──とはいえこの情報を得たおかげでオレたちは先手を打つことが出来たんだけどな。


 オレたちはその情報を持って『12本の杖』の次に魔族を取りまとめている『部族長』たちと話して──紆余曲折あったけど、レッタちゃんを『条件付き』で魔王として承認して貰えた。


 おかげで、式典は昨日無事に終了。

 混乱は残していそうだけど、開戦は行われていない。


「レッタちゃんが王国に対して『戦争しない』って発言して、王子もその後に『会談で全てを決着したい』と式典で発言したからね。

これで勇者を動かして戦争だーなんて言えないわよね」

「だな」

 案外このまま、本当に会談で全部が終わるかもしれない。

 大きな争いも起こらないで──このまま。


 ハッチは吸い切った煙草を空き缶(はいざら)の中へ放り、オレを見た。

「──? なんだ?」


「絶対、何か起こると思うわよ」


「ハッチはすげぇよ。オレの心読んでる?」

 透視能力でもあんのかなぁ? あ、読心術か。

「まぁガーも薄々思ってると思うけど」

「……まぁ、そうだな。このまま終わることはねぇだろうな」


 今回の式典──レッタちゃんにジンさん……おっとライヴェルグ様だったな。そしてラニアン王子を壇上に出て貰ったのは、それぞれ理由がある。


 魔王になったレッタちゃんは、抑止。魔族と人間両方に対して『声明を出す』係。

 ラニアン王子は、担保。誰もが知ってる王子がレッタちゃんを支持することで『安心を作る』係。

 そしてライヴェルグは、暴力装置。それもナズクルに対しては効果覿面な『爆弾』だ。


 とはいえ──この三つの力は詭弁みたいなものだ。

 あくまで一時的に相手を混乱させる技に過ぎないだろうっていうのは皆で議論した。


 この後、ナズクルは『レッタちゃんが危険だから』か『王子を奪還する為』か『悪しきライヴェルグを討つ為』か……何とでも因縁をつけて戦争だと叫べるはずだ。

 とはいえ、ラニアン王子があれだけ声明を出したんだ。勇者にも迷いが生まれる。


「でも、今日みたいにさ。

……忙しいけど何も起こらない日が続いて、そのまま平和条約みたいなの。結べたらいいよね」

 次の煙草に火をつけながら、ハッチが少し優しい顔で微笑んだ。

 そうだな。

 ……そう、なってほしい。


 ──煙を吸い込む。吸い込んで、吸い込んでも。

 まだ胸の奥に(つか)えがある。

 煙を吐く。吐いて吐いても、(つか)えた煙はまだ出せない。

 不安っていう煙が吐き出せないまま。



 ふと、扉が開いた。



「ハッチさん、ガーちゃんさん、やっぱりここに居たッスね!」


「おお。ハルルッス。どうした?」

「なんか集合して欲しいそうッス! なんか王国から書類が届いたそうで」



「「……書類ぃ?」」



「ええ! ちょっと朗報かなって思ってるッス! なんでも、平和条約を締結する日程が乗ってたので!」


 その言葉にオレとハッチは一瞬だけ目を合わせてから、煙草を吸い切った。

 良かった。そういう連絡が来るってことは、オレらの悩みは杞憂だった……ってことだよな。




 視界の端で、空の果ての灰色の雲が更に深い色になったように見えた。




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