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【20】骨羽・ルクスソリス【08】


 ◆ ◆ ◆



 ──十年前。

 魔王討伐隊《雷の翼》という勇者たちの隊長を務めた男がいた。

 最強の勇者、ライヴェルグ。

 金獅子の兜を被ったその勇者(ライヴェルグ)は、一撃で城を破壊し、拳で竜を無力化し、ヘディングで魔族の砦を破壊し、灼熱の業火が降り注ぐ中を平然と歩いて渡った。


 ──当時、勇者の熱狂的なファンが多かった。

 丁度この頃、写真技術が王国の庶民階級にまで普及し始めたのもあって、国民が『グッズ』を手に取りやすくなったのも一役買っている。

 写真(ブロマイド)や詩集、雑誌などに勇者討伐隊は引っ張りだこであり、当然、隊長であるライヴェルグは取り上げられ続けたのもあったのである。



 そして──真夜中。暗き森にて、骨の羽が揺れる。

 クリーム色の羊のような頭。眼鏡の下にあるのは大きい金色の目。

 妖しい色香を放つ、端正な顔立ちの魔族。


「──ライヴェルグ。今日こそ、倒すわ。貴方を!

この美しき夜を行く者(ダークウォーカー)、ルクスソリス様がね!」

「……『骨羽』、ルクスソリスか。また立ち塞がるか、俺の前に」


 ──さて。この頃は、特にライヴェルグは多くのファンが居た。

 戦闘面は無敗。常に堂々としている強き勇者。誰もが憧れる。

 さらには。


「ええ。そうよ。『久遠の時の彼方より生まれし骨翼』、邪雷を打ち砕く運命(さだめ)──宿敵、ライヴェルグ。今ここで決着をつけるわ」



「──いいぜ。この無敵の神域──光雷の主である、このライヴェルグに、敗北の文字は無い」



 ──さらには、『独特な言い回し』や『雷のように鋭い名言』などが多い。

 そういう部分が民衆を虜にした要因だとハルル(ファン)は語っていた。


「ふっ。私もよ。負ける気など一つも無いわ! だから、見せてあげる。 

私が生み出した十三の獄悦魔法を! 永劫(とこしえ)の闇、久遠(むげん)の空をッ!」

「──やってみろ。この俺の雷天絶景、神壮天雷の餌食にしてやるぜ」


 ……。この言い回しや名言は。

 ──思春期特有の特殊な自己表現の発露……唯一無二な物に憧れた自己表現だ。とライヴェルグ自身が後にベッドの上でのた打ち回りながら叫ぶことになる。


 ライヴェルグのことだけで説明するなら『彼自身特によくわかってないが耳に残ったカッコいい言葉を技名にする』や『ドヤ顔で(ポエム)詠う(ぽえる)』──更には『オリジナルの歌を出す』など。




 いわゆる、黒歴史(ちゅうにびょう)





 とはいえ、それはライヴェルグにとっての黒歴史であり──今も尚、その表現を愛してやまない者もいる。

 むしろ、『それ』を込みで彼に恋をし、共に歩んでいる者もいる。

 黒歴史が悪という訳ではないのだ。





 火花散り──骨が舞い、雷が走る。





 ──骨羽の魔族ルクスソリス。そして、雷の勇者ライヴェルグは戦闘回数が多い。

 ルクスソリスは当時、『八骨』という階級に居たが、元は四翼──つまり魔王の腹心。四人しかいない大幹部だった。


「っ! 今日の所はこの辺りにしてあげるわっ!」

「逃げるのか、ルクスソリス!」

「ふふ、見逃してあげるのよ。もっと強くなりなさい、私の勇者! いつかその力が更に輝く時までねっ!」

「待て、ルクスソリスッ!!」


 それ故、幾度となく戦い決着がつかなかったのだと言われている。

 また勇者日報には二人の戦いは『会話から技名まで』事細かに記されている為、後のファンを喜ばせることになる。


 

 そして一部の考察ファンの間ではよく話されていた。

 『二人は好敵手(ライバル)だったのではないか』と。


 実際──ルクスソリスはライヴェルグを認めていたのだろう。

 自分の獲物として、必ず『仕留める』と決め、何度も挑んだのだから。


 記録上の通算、20戦20引き分け。

 ルクスソリスはライヴェルグを仕留める為に、無数の魔法や技を生み出した。

 彼をどうにかして仕留める為に。



 されど、21戦目は──行われずに戦争は終わる。



 ルクスソリスがその日配属されていたのは南側の区域。

 魔王城の中央に配備されていなかった。

 最終決戦には出席できず、停戦命令の後、魔王城に招集を掛けられる。

 今後の魔王国の存続の話などを打ち合わせしている間に──『全てが終わった』。



 ライヴェルグが、死んだと一報が入った。



 ルクスソリスは信じなかった。

 ライヴェルグが死ぬはずがないと。魔王を討伐した後に死ぬなんてありえないと。


 彼女は単身、王城へ乗り込もうとした。しかし王都に来る途中で捕まり──公式には死亡と公表された。

 だが、実際は、──あの牢に繋がれたのである。




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