【20】私の名前は【06】
◆ ◆ ◆
やるのか……本当にやるのか。
これだけは、本当にやりたくなかったし、今でもやりたくないんだが。
「くすくす。ジン。何? まだ躊躇ってるの?」
「師匠ー、こればかりはもう諦めてくださいッスー」
「……マジで俺、必要ないと思うんだって」
「それ、何回目の同じ議題? 必要あるよ? ネームバリューの旗印」
「それに抑止力ッス! 超重要ッスよ!」
「……はぁ。だけどなぁ」
「でも一番手っ取り早いって話になったじゃん。というか、私との賭けの約束でもあるんだから、しっかり実行してよね」
……こんな所に使われるとはな。
前に『小さな賭け』をヴィオレッタと行った。『便利屋として無料で仕事を受ける』と。
はぁ……同じ約束でも、魔王の狼先生との『約束』の方がかなり有意義だな。
「ったく。これ、便利屋の仕事か?」
「くすくす。よく似合ってるけどなぁ」
「まぁ……仕方ないか。でハルルは」
「ひゃっふぅい! 最高ッスよ師匠!!」
「……はぁ。まぁ楽しそうならいいんだが」
ハルルと王子の悪乗りに、ヴィオレッタが乗っかった時点で俺にはもう逃げ場が無かったな。
まぁ……仕方ないんだ。
何にしても。結果的には、こうするのが一番だ。
俺の今後の生活の為には最善策。
ハルルの言う抑止力にもなるし、王子の言う効果的な旗印だそうだ。
……とはいえ、俺的には嫌だが。嫌……なんだが。
「師匠? 本当に嫌でした?」
「……嫌っつーか恥ずかしいっつーか。
だけど、ま。こうなった理由も全部全部、ナズクルのせいだろ」
俺は──黒銀に鈍く光りを放つ『それ』に手を伸ばす。
「アイツぶん殴って気晴らしたら、それでよしってことにするわ」
「くすくす。悪役が決まってるね」
「はっ。正義の勇者になんてこと抜かすんだよ」
◆ ◆ ◆
『中継切断できません!』
通信機から響いた声にナズクルは拳を握った。
「なんだと……? どういうことだ」
『王国内の板面は、『主映像装置』の魔法に依存しており……その主映像装置に暗号化が掛けられていてっ!』
「あ、暗号化だと……主映像装置は王城にあるんじゃないのか!?」
『はいっ、そうですっ、ですが! 鍵が掛かってしまっておりまして……!』
「っち。分かった。それより解除の時間だ。どれくらいかかる?
付け焼刃の暗号化ならすぐに解除できるだろうが……」
──魔法を封じる術式や外部からの干渉を拒否する暗号化の魔法。それの『解除の時間』は『準備した時間』に比例する。
準備した時間が長ければ長い程、解除の時間も長くなる。同じように、『付け焼刃』なら『すぐにでも』解除が出来るのが普通である。
だが。
『それが……その。複雑な暗号化を為されてまして……。
いつの間にか忍び込まれたのか──多分、数日前には設置されていたのかと』
「……時間は」
『は、はい。魔法を使える者数名で当たりますが……まだ解除の見通しは』
(最初から、ラニアン王子の演説で通信を切断する状況を読んでいたか。用意周到だな。──だがまだ何とかなるか)
ナズクルは通信を切り、続けて別の通信機を手に取る。
「式典会場の担当勇者に継ぐ。現在そちらにある撮影機、全五台、全て破壊しろ」
『よ、よろしいのですか!?』
「やむを得ない。やれ」
「は、はいっ!」
──板面の中ではラニアン王子が懸命に言葉を紡いでいる。
しっかりとした言葉遣いで──『反戦』を語っていた。
魔族と人間の共存も視野に入れているとの旨も語っている。
その時、映像が乱れ──画面が切り替わる。
『二番撮影機、沈黙!』
一番近い映像が消えた。
『三番、四番撮影機、沈黙!』
引きの映像になる。画面が乱れた。
『五番撮影機、沈黙!』
だが──。
「正面の……正面だけ残っている。一番撮影機はどうして動いたままだ」
『す、すみませんっ! 一番撮影機が見当たりませんッ! 撮影機を操作していた女ごといなくなってますッ!』
「現に今映像が出てるんだから、見当たらない訳──」
ナズクルは言葉を止め、目を閉じた。
(そうだ。ルキが一枚噛んでる。ということは……)
「透明化の魔法か……」
(ルキが仕掛けたのだろうな。だとしたら──)
板面の向こうで拍手が上がる。
「式典会場で警備に当たっている勇者全員に継ぐ。王子を取り押さえろ」
『よ、よろしいのですか!? まだ映像が王国内に流れて』
「構わん。後のことはどうとでも処理する。今は一刻も早く王子を取り押さえろ」
『は! はい!』
◇ ◇ ◇
「──そして余方は、魔族も人間も、他の種族全てに平等で正しい国を──」
「通信は聞こえていたなっ! 全勇者ッ! 壇上へ向かえ! 王子を拘束する!」
剣が抜かれ、魔族の誰かの悲鳴がする。
勇者たちは一挙に壇上へ向かう。
「ラニアン王子! 抵抗無きように! 拘束させていただく!」
最初に壇上へ辿り着いた不幸な勇者がそう声を荒げた。
そして次から次へと──十名ほどの勇者が壇上へ上がる。
手に持つ剣の光に、ラニアン王子の後ろに居た誰かが悲鳴を上げる。
合わせて、王子は──目を閉じた。
「──……順番が、前後してしまうのだ。とはいえ、仕方ないことなのだ」
稲妻が──迸った。
それは黒い稲妻。そして、会場の──いや、式典を見ていた者が息を呑む。
一瞬で壇上に上がった勇者たちが彼方に吹き飛ばされたからではない。
王子の目の前に立った『稲妻』。
色こそ金ではなく黒地に金と変わってこそいるが、間違いはない。
王国民なら誰でも知っている──獅子の兜。
「余方の理想とする王国、全ての種族が自由に共存する平和な世界を共に目指す者の一人。
順番が前後してしまったのだが、『さる高貴なお方』の『付き人』である。
紹介するのだ。彼の名前は──」
黒金獅子の勇者は、黒銀に輝く刀を鞘に仕舞う。
それは、一人で一国を滅ぼせると言われた勇者。
歩いただけで、魔族が倒れた。動いただけで、魔物が朽ちた。
剣を抜いたら、竜が恐怖で心臓麻痺を起こした。──そんな事実を持つ勇者。
「『ライヴェルグ』。
ライヴェルグ・アルフィオン・エルヴェリオス・ブラン・シュヴァルド様である!」
(その名前のフルネームは読み上げないって約束したじゃんっ!! 王子ィ!!)
会場がざわついた。
当然──ライヴェルグという存在は『とても複雑かつ繊細な存在』だ。
だが、畳みかけるように──壇上に美しい銀の炎が立ち上がる。
「そして──『さる高貴なお方』。
彼女も余方と平和を作る為に協力してくださる」
銀の炎から出てきたのは──少女。
夜を切り取り作ったような漆黒のドレス。
燃えるような赤い唇。美しい白い肌。
銀狼の意匠の王冠。腰には宝石珊瑚の赤い髪飾り。
ライヴェルグの時と──また違ったざわつきが会場を包む。
開錠に居た魔族ですら混乱して声を出していた。
「あの子って指名手配犯の」「酒場に貼ってある有名な金貨500枚」
「確か名前は」「ヴィオレッタ」
ざわつきの中──ヴィオレッタはくすくすと笑いながら、ラニアン王子の隣に立った。
「私の名前はヴィオレッタ。
──ヴィオレッタ・フェンズヴェイ」
中継を見ていた者も、その場にいる者も──誰もが驚き混乱し。
「くすくす。──“銀狼”魔王フェンズヴェイの娘。
そして、今日、ラニアン王子、そして七部族の承認の元に魔王になった。
ヴィオレッタ・フェンズヴェイだよ。よろしくね」
◆ ◇ ◆
ジン「……ハルル。一つだけいいか?」
ハル「なんッスか?」
ジン「なんか丁度1年前にも同じことしなかったっけ、俺」
ハル「……あはは。1年前はまだ出会ってないじゃあ、ないですかぁ~。変な師匠ッスねぇ~」
ジン「……23年の3月の方だって」
ハル「まぁ、そっちなら……仕方ないッスね」
ジン「仕方ないのか??」
ハル「ええ。3月は毎回ライヴェルグ役を引き受ける時期なんッス! 季語にもなります!」
ジン「まじか。嫌な時期だな」
ハル「個人的にはライヴェルグモードの師匠が見れるんで幸せッス!」
ジン「ははは……お前はブレなくて嬉しいよ……」
ヴィ「くすくす。あのさ。後書き欄でメタ発言したりイチャイチャするの止めてくれない?
そーいうのよくないと思うよ」
ジン「お前ッ! 散々色々やっててよく人のこと言えたな……!」




