表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

493/843

【20】魔族自治領発足式典③【05】


 ◆ ◆ ◆


 壇上に向かい、階段を上る。

 式典に集まった魔族の数は千名を超える。目の数は二千を超える。

 ナズクルが新しく得た技術の『全国同時中継(なまほうそう)』を利用して、彼の計画を止めるのが、目的だ。



 余方(わたし)の名前は、ラニアン。

 ラニアン・P・アーリマニアである。



 王国の、王子である。

 人の目も、こういう場で喋るのも、慣れてはいる。

 緊張も特に無い。喋るべき台本(ないよう)は頭の中にある。


 あるのだが。


 余方(わたし)は、数瞬にも満たない間だけ、口を閉ざした。

 何を語れば、戦争にならないか、打ち合わせはしてある。

 その通りに喋れば解決に向かえる。


 だが、最後──『ジン様』とハルル殿、ヴィオレッタ殿たちに異口同音に言われたのだ。


 『思ったことを喋っていい』と。

 父の死は伏せた方が後々に都合が良いということだったが、公開してもいい、そう言ってくれた。

 パバトやナズクルたちに許さないと叫んでもいいと。

 結果、それでどうなろうと、構わないと。


 一週間、彼らと過ごして……とても。とても良い人たちだった。

 それぞれがどこか変ではあるが、こんな子供に常に真剣に向き合ってくれたのだ。

 ああ、ジン様が『ライヴェルグ様』だったのは一番驚いたのだ。

 ともあれ。


 みんなは、余方(わたし)の気持ちを汲んでくれたのだ。


 余方(わたし)は……ぶっちゃけ、父を殺したことを、許していない。


 いっそ、全面戦争でお前をぶっ殺すのだ! 

 って言ってしまいたい気持ちも──無いなんて言ったら、嘘になってしまうのだ。


 だけど。その気持ちよりも、余方(わたし)は強い気持ちがある。





 誰も死んでほしくない。





 父が死ぬ所を見て、強く思った。

 もうこれ以上、誰かが死ぬのを見たくないのだ。

 そして死が当たり前であってはいけないし──簡単であってはいけない。


 何故、簡単に殺せる。どうして奪える。教えて欲しいのだ。


 昨日まで笑ってた人が、突然、笑わなくなるのだ。

 そこに居て、くだらないことを言いあえた人が、もう居ないのだ。


 単純に。

 単純に悲しいではないか。


 まだ何も。何もその人から教わってなかった。

 もっと、その人が好きだったことを知りたかった。どんな歌が趣味なのか、どんな場所が好きだったのか。

 他の誰かから伝え聞き、そこにその人が居たのかと噛みしめ過ごすだけ。


 こんなの辛いのだ。


 辛くて、嫌じゃないか。

 余方(わたし)は、嫌だ。


 皆が嫌じゃないとしても、余方(わたし)は嫌なんだ。

 だから、これは余方(わたし)の我儘だ。


 もう、嫌な思いを人にさせないで欲しい。

 もっと明確に言うなら、戦わないで欲しい。

 もう誰かが誰かを殺すのは。誰かが死ぬのは見たくない。


 家族を奪われた苦しみを、もう誰かに与えるのは止めてくれ。

 お願いだ。


 ──ふと、ラニアン王子が顔を上げると、誰かが拍手をしていた。

 会場にいた魔族の誰かが拍手をし、拍手は連鎖しながら音量上げていった。

 王子は涙目の顔を上げた。


「あれ?」

 っと声を出した。


(わ、わ、余方(わたし)……どこから『喋っていたのだ!?』

あ、あわわ。いつの間に喋っていたのだ……やば。感情のままに喋ってしまった、のだ)


 ◆ ◆ ◆



 ナズクルは、壇上に王子が上がった瞬間、混乱と動揺を隠せなかった。



 予定では、老王(ロォワン)が壇上に上がり、開戦を宣言する筈だ。

 勇者の警備隊はどうなった。共和国の監視からの報告は一体なんだ。



 魔族自治領──耳心地よく綺麗に彩られた言葉だが、実際は属国化を意味する。

 元は、魔王国。戦後、指導者が居ない魔王国の()に、王国が介入した結果、国を解体するということになった。

 つまり、自治領発足がした日というのは魔王国という名前が完全に消滅した日を──魔族側が完全に敗北した日を指す。


 魔族に生まれた者、全ての感情に触れるこの日に、老王(ロォワン)が戦争をすると発言すれば、魔族たちは一挙に戦争を始める。

 それがナズクルたちの狙いであり、『彼ら』も理解した内容だった。



 様々な思いが錯綜した後、演説で王子が名前を名乗った瞬間に──ナズクルは弾けるように混乱から抜け出した。



(機械的に、一つずつ処理する。

まずは、この演説を国民の目に触れさせない。

後に演説が公開されても、王子が洗脳されていたとでもいえばいいだけだ)


 耳飾り型通信機(イヤリング・フォン)を手に取った。



「王国内の全映像を切れ。大至急だ。次に現場の撮影隊も撮影を中止させろ。

今ならまだ国民の目に触れるのは、最初だけだ。この数分なら何とでも出来る」



(そして、次は──王子を保護する為に挙兵で十分問題ない。結果的に開戦出来る)

 

 そして──板面(がめん)に映る少年が平和を訴えている姿を見て、ナズクルはギリッと奥歯を噛んだ。




 




 ◆ ◇ ◆


 いつも読んでいただき、誠にありがとうございます!

 今回は一部修正させていただきましたので報告させていただきます。


 本ページ【20-05】を読み直し確認していましたら時系列がややこしく見える点がありましたので、文章の前後を入れ替えました。


 ナズクルさんはポメ王子が演説開始すぐ後に放送中止して欲しいと

 現場に発言するシーンだったのですが、分かりづらくなってしまい申し訳ございません。

 内容の変更は特にありません。よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ