【20】魔族自治領発足式典①【03】
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──その日、王国中の人間は皆、白樹で作られた四角い板面へ向かっていた。
その板面は──曰く映像中継術式という代物だそうだ。
『映像転写魔法』、板に写真のように鮮明な映像が連続的に描かれて動いているように見える──つまり、別の場所で起こっていることを生中継で見ることが出来る魔法である。
そして、音声まで同期させ、別の映像として見ることが可能である。
この技術については一昨昨日、試運転時に『国王代理であるナズクル』が国民に向けて説明を行った。
画期的な魔法技術であり、この技術を用いて『今日この日の式典』を国民全員が見られるようにすると話し──王国中に設置した。
広場に公園、ギルドハウスに人気食堂から大型の旅館に至るまで。
『板面』は準備された。
その日は王都中央通りを歩いている人がいなかったとも言われている。山賊や海賊すら悪行を止めて板面に食いついていた、とも後に語られる程──国民全員が注目していたのだ。
実際、この公園では『式典』が始まる三十分以上前だというのに、人だかりが出来ていた。まだ何も映っていない白い板面を今か今かと老人も子供も見ていた。
国王と王子、その両名が消息不明になってから、七日。
魔族側の代表である老王はようやくこの日の『式典』で発言を行う。
国王は愚王で、王子はまだあまり表に出てきていない少年だ。
それでも、噂通り王と王子が誘拐されているならば、国民感情として許せない。
誰もが真実を知りたく思い、その板面を見ていた。
その裏で──暗躍があったことをどれほどの人間が知っているのだろう。
暗躍を行った人間の一人──国王代理、ナズクルは王城内の執務室にて珈琲を淹れた。
香り高く、部屋中に軽やかな香りが舞う。
「なるほど。手負のジンたちは、共和国に逃げ込んでから国境を超えていないんだな?」
「はい。ジンとヴィオレッタ、そしてルキを確認とのことです」
両腕が傷だらけの勇者──ナズクルの部下の一人であるコルテロという男はそう告げた。
「三人だけか?」
「いえ、ラニアン王子らしき少年も目撃されてます」
「なるほど……他は?」
「他は未確認ですが共に行動してるかと思われます」
「ふむ。なるほど。
その後、共和国の宿から出てきてない。間違い無いんだな?」
「ええ。監視が常に見ておりますので」
「転移魔法使用の有無は?」
「それも大丈夫と思われます。転移魔法を即時警戒して周辺に不響の魔法を展開済みです」
「なるほどな。……とはいえ相手はあのルキたちだ。何かしてくるかもしれん。引き続き監視は緩めぬように指示を頼む」
「はい。では、別室で待機します」
コルテロはそう言い、部屋の中にいるもう一人の男を汚い物でも見るような目で見てから、部屋を出ていった。
「ぶひゅひゅ。嫌われたようですねぇ」
「……お前を嫌わない奴はいないだろうからな」
「酷いですねぇええ」
「それより。パバト。大丈夫なんだな?」
「ぶひゅ?」
「ユウに掛けた術技が式典中に解除されることは無いな?」
「ぶひゅひゅ。何度目の確認ですか?? 大丈夫ですよお。
僕朕の【物質変形】は解除されたら分かりますし、例えばユウが死んでも解除されません。解除には上に飛び上がる必要がありますので」
「なら、いいが」
壁にある白い板面の向かい側にあるソファに、ナズクルは腰かけた。
パバトは部屋の隅で胡坐をかいて座り、汗まみれの手で『木で編まれた人形』を握っていた。
「あーもー、遠隔制約だるいよぉおおお。なああんで、老王の顔写真みながらずーっと人形持ってなきゃいけないだよぉお」
「すまないな」
──木編みの人形。それは特殊な魔道具である。
魔法や術技を同じ木編みの人形を有する相手に掛けることが出来るその人形を応用し、この場にはいないユウにパバトの術技を掛けていた。
人形と顔写真を交互に見て、パバトは発狂するように叫んでいた。
そうユウは今、変装しているのだ。
土で作った四肢と顔を被っている。ただパバトの術技だけでは土人形と近づけば分かってしまうのだ。
それに変装魔法を更に掛け、生きている老王に変装する。それが今のユウの仕事である。
『では式典会場に入ります』
ユウからの通信が入った。
「ああ。了解した」
ナズクルは机の上にある耳飾り型通信機にそう声を放つ。
そして、ノイズが走り──次の声が聞こえる。
『定時連絡です。周辺警備、問題無し──映像の中継を開始します』。
『ザザァ! ザッ』
板面にノイズが走った。
そして──映し出される。式典会場の様子が映し出される。
画面には勇者の女性が写っていた。彼女は深呼吸を一つしてから何度も練習したであろう言葉を紡ぎ始めた。
『皆さんこんにちは。映像は見えていますでしょうか。ここが魔族自治領式典会場です。
壇上の上をご覧ください。魔族中央議会の12本の杖、並びに各魔族の族長たちが並んでおります。彼らはインタビューには答えてくださりませんが、殺伐とした空気が伝わってきます』
白黒の画面に映った彼らは、まさに殺気立っていた。
『後、30分もせずに式典は始まります。平和の式典ですが、我々王国民が注目するのは彼ら魔族が我々に納得のいく説明をしてくれるのかどうかです。
王と王子はどうなったのか。今も答えを求め──』
「ねぇ、ナズクルさん。そろそろ聞いていいですかねぇ?」
パバトは画面を見れない。人形を見続けながらナズクルに声を飛ばした。
「なんだ?」
「何故、これほどまでに戦争に拘るんですぅ?
獣の国を滅ぼしてもある意味、ナズクルさんに利益ないですよねぇ?」
「……前も言っただろ。私怨と実利だ」
「私怨の方は、なんとなく察してるんでいいですよぉ~。
ただ、その実利の中身が気になるんですよねぇ。教えてくださいよ。もうどうせ戦争は秒読みな訳ですし」
「……何故、そんなことを知りたがるのか理解できない」
「簡単ですよ。上司の大義名分くらい知りたいと思うのは部下の心情ですからねぇ。ぶひゅひゅ」
「部下だと? お前が俺の? ふっ、意外だな。俺に対して上司と思っていたのか」
「ええ、思ってますともぉ。こう見えて結構、忠実なんですよぉ、僕朕は。まぁ二番手とか三番手が好きなんですよぉ。王がいて輝けるタイプなんでぇ」
「……ふん」
「貴方の言う実利──貴方が欲しい物がなんなのか。先に知っておかないと誤って壊してしまうかもしれませんからねぇ。ぶひゅひゅ」
「……そう来たか」
「ええ。だから話してくれてもいいじゃないですか。獣の国を攻める理由。式典が始まるまでの暇潰しで語ってくださいよ」
「ふっ……暇潰しか」
ナズクルは笑う。そして板面の向かいにあるソファに腰かけた。
「気に障りました?」
「いや……逆だ。暇潰しなら……語ってもいいな。……魔王、フェンズヴェイの論文にあるのだが」
ナズクルは珈琲を一口飲む。
「王国は8割以上。南にある獣人の皇国は、4割程度だそうだ」
「?」
「術技保有者の数さ」
「……? どういうことですぅ???」




