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【19】簡単じゃん?【53】


 ■ ■ ■


王都中央社『王都中央新聞』(陽月(じゅうがつ)1日 朝刊)

【強い非難と抗議 西方への派兵確実】

 本日7時、王国参謀本部は外有区(たいしかん)を介し魔族側への強い非難と抗議を表明。

 及び、実質的な措置として西方区域への守備を目的とした軍備の拡大を行う旨を発表した。

 (中略)

 勇者の国営兵力としての配置は今回が初であり、魔族への武力行使も示唆される内容となった。


 ■ ■ ■


周都社『周都新聞』(陽月(じゅうがつ)1日 号外朝刊)

【第二次人魔戦争か】

 本日7時、魔族側に対して条約に基づいた協力がなされていないことを趣旨にした抗議が行われた。

 これに伴い、王国は勇者法に基づく徴兵制度を初めて行使。

 西方に大きく展開することを発表している。

 魔族側から回答が得られないことに王国の焦燥と苛立ちは目に見えている。


■ ■ ■


央論社『平論新聞』(陽月(じゅうがつ)1日 夕刊)

【王の安否は未だ不明】

 国王ラッセル陛下が誘拐されて数日が経つが、未だに安否は不明だ。

 数日が経っていても未だに犯行グループからの要求や声明が出ないことから様々な憶測が飛び交っているのは事実だ。

 また周辺諸外国は捜査協力を受け入れており、共和国においては警兵の派兵を行う用意を示した。

 しかしながら、唯一捜査協力に対しても返答をしていない地区がある。

 魔族自治領は、一刻も早く返答をすべきである。そして、何故、今日のこの日まで返答がないのか。

 後ろ暗いことがあるのではないかと邪推されてしまうのは、仕方がないことだといえるだろう。


 ■ ■ ■


王都中央社『王都中央新聞』(陽月(じゅうがつ)1日 朝刊)

【魔族自治領、民間組織が軍事的配備】

 本日(陽月(じゅうがつ)1日)9時発表の参謀本部の発表によると、魔族の民間組織が防衛の体制に入っていることが分かった。

 魔族側はあくまで領土内の治安悪化を懸念しての措置と発表しているが、実質の防衛的な軍事的配備であることは明らかである。

 録報通信(共和国新聞社)の撮影した写真には明らかに大砲に類する砲撃設備が映っている。


 ■ ■ ■


周都社『周都新聞』(陽月(じゅうがつ)1日 夕刊)

【王国 映像開示】

 本日(陽月(じゅうがつ)1日)、13時の会見で参謀本部は崖沿いの町(イガケゾ)の映像を公開した。

 それは彩月(くがつ)に起こった崖沿いの町(イガケゾ)大虐殺の映像である。

 内容は集まった記者陣を騒然とさせた。半人(デミ)たちが一般人を虐殺している映像だった。

 本来は公開する予定が無かった映像だが、参謀本部からは魔族側への交渉に必要になる為、開示を行ったと発表。

 魔族側に対して参謀本部は内務省との連名で、更なる抗議を行った。

 魔族自治領の『12本の杖』は未だ捜査への協力の回答は行っていない。

 だが参謀本部は、陽月(じゅうがつ)7日に行われる自治領発足式典において今後の方針を発表するとの連絡を受けたと情報を明らかにした。


 魔族側は遅い対応ではある。

 今更どのようなことを魔族側が語るのか。全世界が注目している。


 ◆ ◆ ◆


「お帰りルキ。悪かったな、買い出しさせて」

「申し訳ないッス、ルキさん」

「気にしないでくれ。ボク以外の誰に買い出しさせてもトラブルを起こす未来しか見えないからね」

 車椅子に乗った女性は、出迎えに来た男に対して皮肉に笑いかけた。

 彼女の名前はルキ。元魔王討伐の勇者の一人だ。


「それは……ははは」「えへへ」

 苦笑いを浮かべた男ジン。そしてハルル。

 ジンは元勇者──元魔王討伐の勇者ライヴェルグである。

 ハルルはジンの自称弟子──。


「まったく。姿隠しや変装の魔法くらい誰か使えるようになったらどうだい?」

「えへへ。数分なら使えるんッスけどね。やっぱり魔法って難しいッス」

「ふむふむ、ハルルは筋がいい方だよ。さてその師匠の方は」

「異次元の難しさだったぞ」

「……まぁいいさ。ともかく、早く夕飯にしよう。ヴィオレッタたちは?」

「ああ。さっき風呂に入ってたぞ」

「今日は勝手に泡風呂(ジャグジー)にしてないだろうな? もうこりごりだぞあの惨状」

「だ、大丈夫ッス! 注意はしだんで!」

「いや、ごめん。キミを責めてるわけじゃないんだ。ふふ。たまには泡も良かったけどね」

 ルキは指を振る。

 それを合図にして彼女の目の前に食材がもりもりと入った紙袋が現れる。

 鮮やかな果物に、鮮魚に肉類。これも空間魔法というもののようだ。

 ジンは紙袋を手に持ちながら、ルキを見た。


「王都の様子、どうだった」


「……戦争一色だね。ただ王都の様子というよりかは、王国の様子、というべきだね」

「そう、か」

「新聞も凄い色々と書かれてるッスもんね」

「ああ。それは、ボクの個人的な見解だけど、中央新聞以外は何かしら圧か賄賂でも貰ってるんだと思うよ。

意図的に魔族をこき下ろす記事が増えた」

「それってつまり……戦争を煽ってるってことッスか?」

「そうだね。少なくとも反戦を唱える記事を書く気はなさそうだ」


「なんで、そんなに戦争がしたいんだよ」


 ジンは絞り出すように声を出した。

「……正直。ボクにも、分からないね。

ボクらは戦って、魔王を討ち果たした。そうしてようやく世界に平和が訪れた。

ただ、魔王がいなくなったから世界は平和になった、という『訳じゃない』。

その後、ナズクルを含めた多くの人間が知恵を出し合い協力して、ようやく今の平和が出来た。

……その苦労を理解しているナズクルが自ら戦争を起こすというのは」


「戦争を始める方法は誰でも知ってる。剣で敵を斬れば開戦だ。

だけど、終わらせる方法は誰も知らない。何がゴールで、何が決着なのか、どこにも答えがない。

……魔王討伐で戦争が終わったのは、幸運以外の何物でもない」

「……ああ」


「俺は……この平和を。手に入れた平和を、守るべきだと思ってる。

──ナズクルを張り倒してでも。な」

 ジンは静かに言葉を紡いだ。

 ルキは目を細くした。

「張り倒すがメインになりそうだな」

「まぁ、そうだな。……サシャラや多くの奴が命を懸けて作ったこの今を……。

何やってくれてんだ、ってのが俺の気持ちだ」


「……ふふ。キミらしい。ボクだってそうさ。だけどね。

このままじゃ、戦争は間違いなく起こるだろうね」

「……そう、なんスね」

「ああ。そういう空気が立ち込めてる」




「──どうにか、戦争を回避する手立てはないだろうか」




 その問いをしたのは、扉の向こう側から来た少年だ。

 金髪の少年──この国の王子である、ラニアン・P・アーリマニア王子だ。

 齢7歳。

 だが、彼は特殊な術技(スキル)の効果により14歳程の精神年齢を有している。

 ……されど。年齢を引き上げる術技(スキル)を用いているが、それでも14歳の少年だ。


 国王の、つまり父の死を目の当たりにして、数日は塞ぎ込んでいた。

 

「大丈夫ッスか?」

「ああ、大丈夫だ。心配を掛けてしまったのだ。もう、大丈夫なのだ」

 微笑む少年王子に、ジンはそうかと優しく微笑みかけた。


「……賢者、ルキ殿。何か。手はないだろうか……戦争回避の」


「それは。……」

 ルキが少し口籠った時だった。





「くすくす。戦争回避? 簡単じゃん? 戦争しません! って堂々と言えばいいだけじゃん」




 髪の毛をごしごしと乾かしながら、少女がぴちゃぴちゃと濡れた足のまま歩いてきた。

 黒いワンピース姿の彼女は、ヴィオレッタ。

 湯上りらしく頬もほんのり赤い。


「お前な。んな簡単に」


「難しく考えるから変になるんだよ。なーんも難しくないじゃん。

こっちには未来の王様がいるんだから、バチっと言ったら解決じゃない?」


「……そ、れは。まぁそうだが」

「ねぇ、ジン。ハルル。それにおばさん」

「ルキお姉さんな??」


「私は、ナズクルに取られてる魔王書を取り返したい。

ジンは平和を守りたくて、ポメ王子は戦争を回避したい」


「ついに余方(わたし)の名の一文字も合わなくなったのだ……」



「意外と全員、同じ方向を向いてる気がするんだよね」



 くすくすと、ヴィオレッタは微笑んだ。

  


 


 

◆ ◇ ◆


いつも読んでいただき、本当にありがとうございます!

ようやくこの長い物語も一つの地点が見える場所に来ました。

この場所に来れたのは、本当に読んでくださって、応援してくださる皆様のおかげです。

心から。本当にありがとうございます!


また、勝手ながら作品の調節を行いたい為、お休みを頂きたいと思います。

申し訳ございません。

3/5(火)の7時頃の投稿を予定させていただきます。


今後も精一杯、頑張らせていただきます!

何卒、よろしくお願い致します!

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