【19】世論形成【52】
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出来れば、業界に十年くらい居て燻っている奴がいい。
信念や夢を持っていたり、いい記事を当てたことがある奴でない方がいい。またはいい記事を書いたのが遥か昔だといい。
昨今は書くことで生計を立ててギリギリで生きている──そういう記者を探せ。
間違いなく欲しているだろう。
記者として書いた記事が当たるという成功体験。
そして、何より金を欲しているはずだ。
だから、後は、握らせてやればいい。そのどちらとも。
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王都中央社『中央新聞』(彩月29日 朝刊)
【国王誘拐事件発生】
昨日深夜(彩月28日)にラッセル・J・アーリマニア国王が誘拐される事件が発生した。
犯人の逮捕と国王の保護に注力すると王国内務省は参謀本部を通して発表している。
また犯人からの要求など明らかにされていない。参謀本部は勇者三百名体制での捜査が始めたと発表された。
犯人については現状捜査中の為、秘匿された。
しかしながら事件発生時に対応に当たった勇者たちの証言によると、この犯行には魔族の関与があったという発言もあった。
王城内での事件は四年前の反政府事件以来となるが、別種族が王城に侵入したということであった場合、王国の首都が現王城を中心とする王都に変遷して百年以上の歴史の中で初めてのことだ。
戦後十年の節目であるが、魔族自治領の雇用の問題はいまだ解決しておらず、多くの不満や問題は山積みである。我々独自の調査によると、魔族自治領内での現王政への支持率は四割を下回っているという数値が出た。
また多くの王国民が気になるのは警備体制についてだろう。
防衛魔法研究家のカタル・ネシカシによると、四年前の反政府事件時にも指摘された夜間警備の脆弱性が改善されていない。兵という概念がなくなった結果であり遺憾だ、と語った。
いずれにせよ、ラッセル王の安否を心配した王国民たちは王城に押し寄せている。参謀本部からの今後の発言に注目をしていく。
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周都社『周都新聞』(彩月29日 号外)
【国王誘拐! 魔族の陰!】
彩月28日、深夜。国王ラッセル・J・アーリマニア殿下が誘拐された。犯人は未だ捕まっておらず、勇者の懸命な捜査は続いている。
また、当時の城門を警備していた勇者に話を伺うことが出来た。
突然に魔族たちは襲撃してきたという。そして勇者を人質に取り、城門を強行突破。王城内で魔族と勇者の激しい戦いが行われた。
その戦闘のどさくさに紛れて魔族たちはラッセル王を拉致したのではないかと王城警備に詳しいベル・ヨクシヤは分析した。
また現場に残った痕跡から半人や獣人の混成部隊による作戦だった可能性が高い。
参謀本部としてもその線を調査中とのことだ。
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央論社『平論新聞』(彩月29日 夕刊)
【揺れる王都】
国王ラッセル陛下が拉致誘拐され半日が経つ。
14時頃に発表された参謀本部の対応内容は、魔族側へ捜査協力と特定魔族の任意招集だった。
参謀本部が魔族側に特定魔族の任意招集をして意見を聞こうとしたということは、魔族側の関与が疑わしいだろう。
ここで取り上げたいのが、西方レンヴァータ地区だ。
西方地区では『なし崩し的に』一部の申請ある魔族は生活を許されている。
しかしながら、レンヴァータ地区で起こる事件や事故を紐解くと、申請ない魔族の多さに驚くこととなる。
西方レンヴァータ地区の事件事故に関与した魔族の内、なんと5割も不法滞在か滞在期限切れの魔族が関わっているのだ。
十年の平和で我々はお互いが同じ目線に立っていると考えていた。
しかしながら、今一度、魔族の危険性というものを改めて問われている場面だ。
この先、我々は危機感を持って判断をしなければならない。そういう警告ともいえるだろう。
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王都中央社『王都中央新聞』(彩月30日 朝刊)
【魔族 外相 関与か?】
本日7時に国王ラッセル陛下の捜査経過の会見が行われた。
参謀本部参謀長(ナズクル・A・ディガルド)から、29日に王国は外有区を通じて魔族側へ向けて国王の誘拐事件解決に向けての捜査協力を求めたが、魔族自治領の意思決定機関『12本の杖』からの返答が滞っているとの発表があった。
魔族側が国王の捜査に協力を行えない可能性が示唆されており、参謀本部としては強い非難と抗議を行う見込みである。
魔族側が返答を滞らせているのは、どういう効果を期待してのことなのか。
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周都新聞『周都新聞』(彩月30日 号外)※翌月1日に内容が偏向的過ぎると王都中央新聞社に指摘され謝罪と自主回収を発表。
【反人論 ~脱王国を目指す魔族~】
本日の会見での12本の杖の対応に、我々は落胆を隠せなかった。
国王の捜査に協力を行えない可能性というのは、国際社会であっていいことだろうか?
これには魔族側の悲願である『独立の夢』が隠れているのではないかと筆者は邪推してしまう。
戦後処理法『トラルセン条約』。
人魔戦争後に結ばれた条約であり、これは人間が魔族に対して幾つもの制限を与える条約である。
そしてこの条約があるからこそ、魔族側に独立が無い。
魔族たちはこれを『鎖の足枷だ』という。しかし、正しく理解して頂きたいのは、この条約は魔族にとってただの鎖ではなく、『鎖帷子』なのだ。
王国の解釈では、この条約によって魔族は王国の庇護下に置かれている。
第四条 軍隊の解散、第五条 武器の放棄で定める内容は、魔族側の生命の危機に王国側の勇者が助ける仕組みを作る為に必要な物であり、賛同しないのはいかがなものかと考えるのが通常だ。
また、魔族側は『軍事力の放棄』を頑なに拒絶している。
軍隊の解散は行ったが『自治領防衛を目的とした護衛隊』の組織は存在する。そして第五条 武器の放棄に関しては、形骸化しており守られていることはない。
魔族は戦後、常に不満を抱えた爆弾だ。
この十年の節目、そして国王不在に乗じて、彼らは自由と独立を掲げて立ち上がろうとしているのではないかと考えてしまう。
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「世論は、魔族を目の敵にし始めたな」
赤い褐色の髪、切れ長の目。黒いスーツに赤いネクタイを締めた男、ナズクル・A・ディガルドは静かに問う。
「ははは。そう仕向けたのは貴方の癖に。怖いですねぇ、ナズクルさん」
「情報を与えただけだ。判断したのは国民だ」
「偏った情報ですけどね。与えたのは。──ちょっとだけバラまいただけなのに、凄い効果でしたね」
「ふん。……人間は、基本的には誰かを責めようとしない生き物だからな」
「??」
「だが、一度、責められている相手を見つけたら、そこを散々攻撃する。先生に怒られている生徒を、周りの友人が怒っていい奴だと認識するのと同じだ。『誰かが責めた』なら『自分も責めていい』ということになってしまうのが人間だ」
「……ああ、それで」
「誰でもいいから『それなりに有名な奴』に『敵は魔族』と書かせれば──後はもう、世間はそっちに目を向ける。一つ抜けば、後は──積み木のように崩れるだけだ」




