【19】父と子【51】
ラニアンが、余の子供かどうか。
調べる方法は何かしらあるだろうが、そうしなかった。
それは。
「……ずっと、怖かったんだ……ずっと」
ただ、怖かっただけだ。
周りの声がうるさい。誰の声か、分からん。
余が目を覚ましたことに喜んでいるのか?
ああ、そうか医者か。余は、魔族に腹を。ああ、思い出してきたぞ。
やけにガキが多いな。何喋ってんだ。聞こえないな。
ああ、でも、分かるぞ。余の手を握ってるのは。
ガキだ。ああ……。
なあ。ラニアン。
「お前は、余の……息子、なのか……。
それとも、バセットの子供なのか……ずっと、怖くて聞けなかった」
◇ ◇ ◇
ラッセル王は──目を覚ました。
ラニアン王子は、その手を強く握っていた。
「教えてくれ……。お前は……誰の子供なんだ?」
王の目の焦点はもう定まっていない。
その質問に回答のしようが無いことは、その場の誰もが理解していた。
だが、ラニアン王子だけは、泣きそうな顔で微笑んで強く手を握った。
「父上の、貴方の子供ですよ」
「そう……そうか。余はずっと……。ずっと、弟の、子供なんじゃないかと、思ってたんだ」
冷たい手を、ラニアン王子は力の限りに握っていた。
「もしも、誰かがそうだと言っても。余方は、父上の子供です」
「そう。か」
「……父上。先ほどの『誰の子供なのか』という問いの答えを余方が選んでいいのなら。
父上。余方は、他の誰でもなく、貴方の子供がいいです」
「……そうか。……それは、うれしいな」
そして、ラッセル王もその手を握り返した。
決して強いとは言えない力で。でも、間違いなく、握り返していた。
「余方も……父上の子供で嬉しいですよ」
「さっき。な。……嫌な……所が、遺伝したと思ったよ」
「え?」
「余も、巨乳好きだからな……」
「……父の性癖は聞きたくなかったなぁ……」
「は、はは……それなら余だって、ガキの性癖なんか、聞きたくなかったぞ」
ラッセル王は微笑んでから目を瞑った。
「父上」
「……ラニアン。余……お前に、して欲しいことがあったんだ。聞いてくれるか……?」
「ええ、いいですよ」
「……余のこと、パパって呼んでくれ」
思わず、ラニアン王子は噴き出した。
「そ、そんなに変か? ……ロクザ、も……笑っていたが」
「いえ。いや、変ですけど……なんでしょう。父上ってやっぱり、面白いですよ」
「……そう、か?」
「それに……少し恥ずかしいですよ。パパ……。パパ上」
「……パパ上、と来たか」
「ちょ、ちょっとでも緩和したくて」
「そう……か。……パパ上か。……いいな。うれしいよ……」
「それなら、よかったです。パパ上」
「……なあ……ラニ、アン……ごめんな」
「え?」
「ずっと……余に、自信が、無かったから。ずっと、冷たく当たって」
「そんなことないですよ。……冷たく、されてはいたけど。
ずっと王城に置いてくれたのは……優しさだって分かってます」
「……それでも、もっと。もっと……話しておけば、よかったな」
「これから、話しましょう。まだ下ネタくらいしか、喋ってないんですから」
「……そうだな。ちゃんと、伝えないとな。……女は、胸の大きさじゃなくて、その奥にある心の大きさが一番大切だ……」
「パパ上。もう、こればっか喋ってますよ。どんだけ巨乳好きなんですか」
「……だな……」
「もっと。もっと、色々喋りましょうよ。真面目なことも、未来のことも」
「……ああ」
「パパ上」
「余の……とこに、産まれてきたのが……お前で、よかった」
「余方も、父の。パパ上の子供に産まれてこれて、よかったです。
だから、パパ上。もっと、色々教えてください。パパ上のことも、いろんなことを」
強く、強くその手を握った。
「パパ上。……パパ……上……っ!」
手は離さなかった。
涙で何も見えなくても、その手だけは離さなかった。
ただ、叫び続けた。ラニアン王子は叫び続けた。




