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【19】取り消せ。その言葉!【43】


 ◆ ◆ ◆


「も。もう止めるのだッ! これ以上はッ!」

「王子……ちょっと下がってて。(あたい)は大丈夫だから」

「だ、大丈夫な筈ないのだッ! そんな怪我でッ!」

 駆け寄って来た王子にヴァネシオスは慌てて──「ッ! ごめんなさいッ!!」と怒鳴ったように叫び、王子の胴を蹴り飛ばす。

「うぐっ!」


「ぶひゅひゅぅ。酷いですねぇ、怪我の具合を見に来た優しい子供に対してそんな蹴りを入れるなんて! 悪党ですねぇ! ぶひゅひゅ!!」


「っ……あんたが今、殺そうとしたからっ……仕方ない、じゃないのッ」


 肥満の巨漢。顔に食い込む四角い眼鏡。口元は薄汚く曲がり、涎が這った汚い跡がある。

 パバト・グッピ。その男は汚らしい笑顔を浮かべて右拳を前に突き出す。

 その拳から鮮明過激(ショッキングピンク)の液体が湧き出していた。地面に数滴落ちた雫が、鉄板で水が蒸発するような音を立てている。

 それは地面も岩も溶かす猛毒。皮膚に触れれば焼け爛れてしまう──ヴァネシオスの両腕のように。



「っ、ぁ……くっ」



「ぶひゅひゅ! その腕どう!? 皮膚が剥がされてるみたいに痛いでしょ! 

僕朕(ぼくちん)が調合した猛毒の魔法ッ! 皮を剥いだような痛みと、皮膚の下を蛇が這いまわるような怖気! 

そしてこの毒の凄い所は、痛すぎて痛みを感じなくなるという現象が起こらないように鎮痛物質を同時調合しているんだァ……! 

だから常にちょうどいい(・・・・・・)痛みが続くんだァぁ、どう!?」


「ぺら、ぺらと……お喋りな、男。あんたみたいな男は嫌い、よ」


「良かったよ。僕朕(ぼくちん)もキミみたいなオカマは嫌いだ。

何故嫌いかって? 単純さァ。オカマの叫び声は大概、エロくないんだねぇ!!」


 拳を薙いだ。そして拳から飛沫が飛ぶ。

 ヴァネシオスは真横に避け──避けた先で足が縺れた。

 泥濘。ただの泥濘じゃなく、この戦闘が始まった当初に出来た『毒の泥』。


「っ、があああああっ!!」


「ほら、エロくない。さながらチンパンジーが■■■の毛を毟られたような声だ。僕朕(ぼくちん)が聞きたいのはやっぱり少女の泣き叫ぶ声だけなんだよなァ……ああ、また聞きたいィ」


 下品な思い出し笑いの笑顔を浮かべ──ヴァネシオスに背を向けた。

 王と、蹲る王子に近づく。

 王はまだ昏睡しているようだ。薄目こそ開いているが半覚醒。


「ち、近づくなっ!」

 ラニアン王子が涙目で叫び、どこから持ってきたのかナイフを握っていた。

 震える手で持つナイフを見て、パバトはニタリと笑う。


「ぶひゅひゅ。怖いなぁ、そんな睨まないでよぉ」

 一歩ずつ近づき、にやにやと笑う。


「そんな刃物はしまって欲しいなぁ。ほら、そんな震えて睨むなんて、僕朕(ぼくちん)、怖くて怖くてぇ……」

「よ、よるなッ!」



「殺しちゃいそうだぁ」



「っ……!」


「ぶひゅ。ぶひゅひゅ。たださぁ。ねぇ、王子様、一ついい話をしてあげようか」


 ラニアン王子は言葉を一つも発さず、ただ険しい顔でナイフを握っていた。

 空しい程に懸命な王子を見て、ニタニタと笑ってパバトは唾液まみれの言葉を続けた。


「王を殺せとは言われたけど、王子──キミを殺せとは言われていないんだよねぇ」


「……」

「ぶひゅひゅ。そこを退いてくれれば、キミは殺さないよ。

神にだって誓ってあげるよ。実際、オスを甚振る趣味もないしねぇえ」


「王を、見殺しにすれば。余方(わたし)は助かる、と……」


「そうだよ。まー、言っちゃなんだけどさァ。その王は愚王だよねぇ。

政治も下手、外交もダメ。オマケに酒中毒(アルちゅう)で、薬漬け(ヤクちゅう)

実際、死んでしまった方が王国の繁栄の為になると僕朕(ぼくちん)は思うけどぉ?」

「……せ」

「?」



「取り消せ。その言葉!

……アーリマニア王国、国王ラッセル・J・アーリマニア様に対して……不敬だ!」



「……ぶ、ぶひゅひゅ!!! ぶひゅっ、ぶひゃひゃっ!!

不敬!? 不敬と来たのかぁあ!! 凄い! 難しい言葉知ってるじゃああん」

 パバトは腹を抱えて涙を流して大笑いした。



「この人はッ! 王国を少しでも良くしようと努力してきた人だッ! 

余方(わたし)は知っている! 今、確かに落ちぶれている。

だが、この人が美術館を多く作ったこと! 図書館を一般に開放したこと! 少しでも! 

……おじい様を超える為に。勇者(たいせつなひと)の背に届こうと! 

この人は努力してきた!! それを笑うことは、余方(わたし)が許さないッ!」


 王子は、ナイフを強く握っていた。血が滲む程に、強く強く。


「王は──父上は、余方(わたし)が守る……ッ!」


「ぶひゅひゅ! ああ、いい目だね。ダイヤモンドみたいにまっすぐな光で。……ああ──」

 パバトはぐしゃぐしゃな顔で──笑った。



「──壊したいなぁ」



 涎が、溢れた。

「なんでも自分の思い通りになると。いや、自分の力で未来を切り拓こうとする輝く目だぁ。

そういう目が、僕朕(ぼくちん)は大好きなんだよ……その目から光が潰える瞬間! 

四号金(さんおく)する宝石が泥に汚れていくのが好きなんだよ!

分かるかなぁ。高価な宝石が僕朕(ぼくちん)と同じ泥の中にあることに安心感を覚える感覚が! 

そして、安心は幸福だ! 幸福を感じ、幸福する(・・・・)んだ!」


 支離滅裂に、パバトは叫び笑う。


「だから、王子様ぁ! 守って見せてくれよぉおおお!

禁欲粉砕の毒拳法(ラブ・ベノ・フォーティーエイト)』ぉおお!」


 パバトは笑う。汚らわしく笑い、涎が顎を伝って地面に落ちる。

 そして、その両拳を格闘家(ボクサー)のように構えた。

 拳から液体が溢れる。それは自然界に存在しないであろう鮮烈なピンク色の液体。


「ぶひゅひゅ! 先に、教えてあげるよぉ。

この毒拳は──48種類の毒を混ぜて作られた猛毒だ。僕朕(ぼくちん)ですら解毒は出来ない。

というのも、混ぜすぎて何が効くのかもう分からない状態だからだぁ──さて、本題。

王を守ると言っていたけどさぁあ。避けなきゃ死ぬけど、避けないのかなあ??」


「……覚悟は、出来てる」

「はっ……ふ、ぶ、ぶひゅふ! いいね。いいねぇ!!」


 そして、パバトは笑いながら突進する。


「それが虚勢じゃあないことを祈るよぉおお!! 『揚羽本手(りょうてせいけん)』!」

「う、うぉおおおおおおお!」


 ラニアンは叫ぶ。そしてナイフを震える手で突き出す。

 だが。目に見えている。

 この数瞬後、どんな惨劇になるか。





 だから。
















「退け、ガキ……。(おれ)の前に、突っ立ってんじゃねぇよ」











 どすん、と少年王子は体を突き飛ばされる。そして。


 ──毒の拳が、彼の腹を貫いた。




 

 






 ◆ ◇ ◆


いつも読んでいただき、本当にありがとうございます!

いいねや評価、ブックマークは本当に励みにさせていただいております! 本当にうれしいです!

重ねて御礼申し上げます!!


そして、誠に申し訳ございません。

作者の勤務環境が一時的に変更になってしまった都合により、

2月20日と2月21日の投稿をお休みさせていただきたいと思っております。

次回更新は2月22日に致します。


この度は急にお休みしてしまい誠に申し訳ございません。

以前のような体調不良ではないので、2月22日には間違いなく投稿出来るように調節致します。

誠に申し訳ございません。何卒よろしくお願い致します。



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