【19】狙ってたとしか思えないんだけど【42】
◆ ◆ ◆
そして少女は舞うように鎌を操る。
容赦は無く、死神の鎌は振り下ろされる。
黒い夜を染める赤い血潮と、月光を吸い込む白すぎる肌。
紫色の瞳が輝き、放たれる火薬の光を切り裂いた。
雨のような矢が降り注ぐ。合わせて数人が同時に斬り掛かる。
しかし、誰の矢も誰の剣も少女には届かない。
まるでそこだけ切り取られた別の世界のようだ。
死神の鎌を操り、ヴィオレッタという少女は薄く微笑んだ。
艶やかな細い手で、死と血を撒き散らす少女。
蠱惑的。
その言葉の意味を、その光景を見ていた者たちは理解した。
わたしが掛けた『禁式』は……条件を達成しないと解除されない。
禁式を……受けた人間は『魔法が使えなくなる』。
ヴィオレッタには『禁式』を掛けていて──。
永遠に続きそうな死神の演目を、舞台袖から見る女性──黒革の派手な服装をしたセーリャは唖然としてその光景を見ていた。
──ヴィオレッタは魔法が一切使えないはずだ。
魔法──本当に、使えないんだよな……?
自分の魔法なのに、疑ってしまう。
魔法を一切使えない状態で……勇者をもう二十人以上倒してる……。
あの子が魔法を封じられるより前に大鎌へ『軽量化』や『切れ味補正』とかの魔法を掛けているとはいえ……あの子だって限界なんじゃ。
──舞台袖で見ていたセーリャがそう不安を抱いたのは、間違いではなかった。
よく見れば、輪舞のステップを踏む少女の細い足から血が出ている。
何かで切ったのか、擦り傷が多い。その細い腕にも、胴にも傷がない訳じゃない。
「……まだ援軍が来るんだ。ほんと、勇者の巣窟だねぇ」
ヴィオレッタはそう吐き捨ててから鎌を蹴り上げぐるりと回転させる。
鎌が弾き飛ばしたのは『銛』だった。青鉄で出来たその銛は、まるで筋肉魔女男の腕のように太かった。
「ン~。ン~~。こりゃA級以下じゃ相手にならンね。下がって大砲とか準備してくれ」
「赤騎士さんがやられたようですので、気を抜かずにお願いしますよ、青騎士さん。気を抜かずに戦えば勝てる確率20%です」
「ン~。低くない???」
青い鎧に身を包み、髑髏の甲冑を付けた騎士。
そして、緑色の鎧に身を包んだ騎士。その甲冑はカメレオンの目のように飛び出した形をしていた。
(AAA級の『海賊』の青騎士! それにAA級の緑騎士! 青騎士は城門警備で赤騎士に次ぐ実力者だ……それに緑騎士は術技も実力も謎の奴……。厄介な二人が出てきちまった……)
セーリャが爪を噛み──はたと我に返る。
(なんで、わたし、さっきからヴィオレッタを心配して──)
「くすくす。赤から始まって青緑……黄色と桃色もいるのかな?」
「な、何故、極秘事項をッ。秘密が漏洩する確率は86%以下なのにっ!」
「ン~、高くない???」
「くすくす。秘密戦隊ごっこならもういいから──下がってくんないかな?」
ヴィオレッタは空中に跳び上がり、ぐるりと体ごと捻る。
三回転。加速のついた黒い大鎌が振り下ろされた。
「ン~、古くない???」
その鎌を──青騎士は銛で受け止める。
「ッ!」
「怪我してなければ、対等だった確率50%」
「確率確率五月蠅いなっ!」
左側に回った緑騎士の兜を蹴飛ばし、ヴィオレッタは後ろに下がった。
「ン~……近接型魔法使い。それも相当な火力だけど」
「どうやら禁式を受けた確率100%のようです。魔法は使えないようで」
「ン~……なら。力で圧し折れるなあ」
突進。銛を構えた青騎士が突き進んできた。
早い。まるで地面が波のように飛沫を上げている。
ヴィオレッタは眼光鋭く鎌を構えた。薙ぎ払うつもりだ。
(っ! ダメだ! 青騎士の術技は【潜降】!)
一閃。ヴィオレッタは薙ぎ払う。だが青騎士はその場にいない。
土の中に沈んだ。そして、ヴィオレッタの背後から青騎士が飛び出す。
──ヴィオレッタの耳は、青騎士の動きを聞いていたが、半歩遅れていた。
(危ないッ!)
「【蜘蛛の糸】! 『鉄糸の盾』!」
銛を──ヴィオレッタに向かった銛を、『糸が固まって出来た盾』が防いでいた。
それは。
「セーリャ・ド・カデナ! 何をしているんですか、禁式姫!」
緑騎士が怒鳴った。
「あ、こ、これは」
(な。なんで。わたし、防いじゃって──)
「ン~、寝返ったのか。それとも最初から協力者なのか?」
「ち、違」
(て、敵だって分かってるけど。けど……)
「くすくす。馬鹿な青と緑だね」
セーリャと緑騎士の視線を遮るように、ヴィオレッタは間に入り──そのまま緑騎士へ襲い掛かった。
「ひっ! 避けれる確率──」
「0%だよ」
緑騎士が空中に斬り飛ばされる。鎧が砕け散り、右腕が斬り飛ばされ、血と破片が舞った。
「──くすくす。私に協力しないと殺すって脅してるから助けたに決まってるじゃん。そういう術技を私が持ってるかもしれないよ?」
「ン~! なるほど。ン~、捨てきれない可能性だなあ」
青騎士は銛を構えてそう言った。
「そーだよ。まぁ私を倒せば答えが分かるんじゃないかなぁ」
「ン~、その通り」
ヴィオレッタがくすりと笑った瞬間──彼女は目を見開き血を吐いた。
「かっ……」
腹部に拳が突き刺さるようにめり込んでいる。その拳は──『緑騎士』の腕。
(!? 何の術技だ、あれはっ!?)
腕が空中に浮いている。そして、その腕は──緑騎士の肩に戻った。
「【戦闘用人型機械】! 変形合体自在な術技である確率濃厚! 奇襲は申し訳ないですがね!
そして」
噴出火音が響き、緑騎士の左腕がセーリャの口を押えた。
(痛っ! しまった、口を抑えられたッ)
「禁式姫が脅されている状態なら、それを抑えてから行動するまで!」
そして、ヴィオレッタが膝をついた隙を──青騎士は逃さない。
銛が振り下ろされる。
ただ、それが届くより早く。その刹那──ヴィオレッタはため息を吐いていた。
「随分と怪我してんじゃねぇか。流石に侵入は重荷だったか?」
金の火炎。銀の黒刀。音を置き去りにした抜刀術。
銛を左手に握った刀で弾き飛ばし、その男──ジンは笑ってヴィオレッタを見た。
口の血を腕で拭い、ヴィオレッタは立ち上がる。
「なんか助けるタイミングを計ってたみたいで、ムカつくんですけど」
「はぁ?? んだその言い草」
「こんな丁度良く助けにくることある?? ベストタイミング狙ってたとしか思えないんだけど」
二刀を携えたジンにヴィオレッタは悪態をついて呆れた笑いを浮かべた。




