【19】金烏飛翔【40】
◆ ◆ ◆
「もう時間が無いでしょうから、先に説明しますけどね。
僕って、こう見えて、正面から一対一の戦闘が好きなんですよ。本当ですよ??」
誰もいない虚空に向かって弁明するのは、彼の癖である。
寂しい奴……と言ったら彼は急に喚きだすかキレるだろう。
目を見張る程の青い髪。顔立ちは童顔で柔和。平均男性よりも少し背が低く、肌も白い『少年然とした』青年は、自らをユウと名乗っている。
彼は魔族の諜者にして、王国の二重諜報員。
そして、『魔王討伐隊《雷の翼》』に所属していた実力者であり、『魔族最高幹部《四翼》』に入る予定でもあった優秀な逸材である。
そして、彼が名乗る名前は数多い。
『王国執政官補佐の名前』や『魔族の名前』、『王国勤務勇者の名前』など、無数にあるが──彼は自らを『ユウ』と呼ぶ。
『ユウ・ラシャギリ』。それは魔王討伐隊時代の彼の名前だ。
「ただあれなんですよ?? 僕、長いこと諜報活動してますから、隠密行動が物凄い得意なんですよ。
それで魔法発動速度だってそこそこ早いですし。
向いてるっていうんですかね~、『後ろからの一刺し』。あはは」
氷結し凍結した毒々しい水色の『氷塊』の先へと弁明を語りながら、彼は薄く笑っていた。
『氷塊』は、『地下練習場』の階段を塞いでいる。彼が塞いだのだ。
「卑怯という意見もあるでしょう。しかしですね、皆さん。冷静に考えましょ?
相手は、あの隊長ですよ?? なら不意打ちしよーが、罠仕掛けよーが、許されると思いません??
『絶景』とかいう疑似時間停止みたいな力持ってて、こっちの攻撃は全部撃墜されるんですよ?
三万二千発の槍マシンガンも無効にされる訳じゃないですかー? もうどないせいっちゅねん~ってやつですよね」
キシキシと、氷がずれる音がする。
それを見て、ユウは呆れ半分に笑い──腰にある本を広げた。
「はぁ──折れないといいなぁ、僕の希少武器……。
頼みますよー、『銀雹契の矛』」
本が銀に煌めいて──『銀の矛』に変わった。
同時に──氷が砕け散った。
「ほーーーら、時間切れ! もー分かってますよ!
この後の展開でー、どーーーせ、僕の魔法をぶっ壊して隊長が出てくると思いますので!
巻きで説明しておきますが、僕の今使った魔法は海すら凍らせる超強力古代魔法の──」
火山噴火でもしたような派手な地響きと同時に、氷が巻き上げられた。
無選別に尖った氷の破片がユウに向かい、ため息交じりの彼の手前で溶ける。
「何、ぎゃあぎゃあ騒いでんだ、お前はよ」
──氷を打ち砕き、地面を踏み。
ジンがそこに降り立った。
二刀を携え、左に握った『黒銀刀』を一振りしながら、ユウを見据えた。
「ほれ見たことか……ほれ見たことかァ!」
「うっせぇな。今日も今日とて楽しい一人芝居繰り広げてんじゃねぇよ。
ここじゃなくて共和国の海浜公園でパフォーマンスしてこいよ」
「独り言でも喋ってないとやってられないんですよーーー!」
「悪かったな。とりあえず、退いてくれ」
「やーだもーーー!」
ジンはまっすぐに『黒刀』で薙ぎ払い──それを銀の矛でユウは受けた。
攻撃を受けてユウは、少しだけ本気の目でその刀を見た。
「──これはこれは……マジ厄介な、剣のようですね」
「剣じゃなくて刀な?」
「そっ、それはどうでもいいですよ!!」
「そうだな。どうでもいいな」
互いに武器を弾き──一歩だけ距離を取る。
ユウは苦い顔で矛を左手に持ち換えた。
そして、右手の掌から立ち込める肉の焦げた臭いに──すぐさま右手を凍らせ、奥歯を噛む。
(……『金烏』。ロクザさんの愛刀。調査済みです。あれは物質を斬れば斬る程、発熱していく刀です。
刀身が、斬れば斬る程『黒から徐々に赤』へ変わっていく。最終的に炎を纏う……と伺っていたんですが)
「なんで金色に輝いてるんですか?」
──その刀身は、太陽の如き金色に輝いていた。
「知らねえよ。けど……俺、金色が凄い好きな奴って思われるな、これじゃ」
「……好きじゃなかったんですか、金色? 兜が金獅子だから」
「一番好きな色は黒だよ」
「随分と陰キャですねぇ」
「黒が好きイコール陰キャと結び付ける奴が陰キャだ、バーカ」
空気が乾く。地面が干上がり割れる。氷が全て蒸発している。
(……極高温まで高まった刀身。一瞬で矛を伝って掌が大火傷。
……一体、何度なのやら。ともあれ。あっちは武器の効果みたいなもの。
氷魔法を連発して温度を下げていけば立ち回れるし、何より僕の槍だって)
「ユウ。悪いが、急いでるんだ。だから構う時間もない。
つーわけだ。……くれぐれも、気ィ付けてくれよ──」
「何に気を付けろと」
──ジンは刀を鞘に戻す。鞘までも、赤くなっている。
「ちゃんと防がなきゃ死ぬからな」
風の音より素早く動き──ジンはユウの目の前にいた。
それは、太陽を反射した鏡のような閃光だった。
色を認識するより早く眩しいと目を覆ってしまう程の極金光。
一刀翔り。ロクザの使っていた居合技がユウの矛ごと燃断ち斬った。
「悪いな。お前の武器コレクション、お釈迦にしちまった」
「っはあ──!!」
間一髪。
矛で防いで氷を生み出し盾を作って、ともかく色々と多重魔法障壁加算氷結によって、ユウの首と胴はまだ奇跡的に繋がっていた。
「ユウ。悪いけど、俺的にはお前を後五・六行で片づけたい。急いでるからな」
「いやいや、タイトルVS①②③④使って戦いましょうよ。せっかくですし、ね? ね?」
「何が折角だ。ともかく──ここでお開きにしようぜ。『八眺絶景──」
片方の黒銀刀を空中に投げ、ジンは金烏を両手で構えた。王国剣術、定石の構え。
「ぬぁあああああ、クソ隊長めぇええッ!」
「──極陽世界』」
昼間の太陽の如き輝きが破裂するように庭園を照らし尽くした。




