表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

470/843

【19】とっても好きだよ【35】


 ◆ ◆ ◆


 負けた。

 強いわ……普通に、わたしの負けだ。

 戦闘のセンス……わたしじゃ、あの子の足元にも及ばない。


 だけど。

 戦闘で負けただけ──まだ『終わりじゃない』。


 ◆ ◆ ◆


 王城の長い階段の先にある踊り場。

 この先にある扉が王の寝室。

 ふと、月明りが二人に差し込んできた。


 月明りに照らされながら、大鎌を振り、血を払うヴィオレッタ。


 風が強い。


 その強い風が雲を払って月と夜を連れてきた。

 壁一面の分厚い窓の向こう側にある紫色の夜を横目に、彼女を見る。

 

「……動かない方がいいと思うよ。止めを刺すつもりはないから、安心して倒れてて」


 大窓の前で、セーリャは立ち上がっていた。

 彼女は何かを言おうとしたが声の代わりに血を吐き出すだけ。

 だが、それでも、拳を握っていた。


「致命傷になるほど深い傷じゃないけどさ、動けるような傷じゃない。手加減はしたけど、手を抜いた攻撃じゃないよ」


 血が地面を濡らす。窓ガラスに手をつき、窓に血がべっとりとついた。

 ヴィオレッタの言葉に答える代わりに、セーリャは人差し指を突き出す。

 血まみれの手で、彼女はヴィオレッタ──の背後にある扉を見据えていた。


「っ……その、扉は……重い。軽い、扉じゃない」


「何キロくらい?」

「はっ……そういう、意味じゃねぇよ……」

「くすくす。知ってる──ねぇ、セーちゃん」

「その呼び方はやめろや……」

「セーちゃんがナズクルに繋がってないみたいだから、信頼して言うんだけどさ。

私は、王様を守る為に拉致しようとしてる」

「あ……?」

「私は王を傷つけないから。信じてくれないかな」


「……信じる信じない、の話しじゃねぇな」

「ううん。私が王を守るって話だから。信じて欲しいな。

少なくとも一致してると思う。王を守りたいって思いは」

「……はっ。あんたは神か? あんたなんか、信仰できねぇよ」


「……まだ戦う気みたいだから。もう、止めてほしいなって」

「わたしの心配するたぁ……余裕だな」

 セーリャは奥歯を噛む。


「……いいか、ヴィオレッタ。その扉を開けて賊が入ったことは……過去に。四年前の、たった一度だけだ。

それは『この先も』だ。誰が何をしても、二度目があってはいけない……ッ! 決してだっ!」


 その瞬間──カチッと錠前が合わさるような音が響いた。

 一つの音に呼応するように──次々に無数の音の重なりに代わる。


 ヴィオレッタが振り返り扉を見ると、茨が付いた金の蔦が扉を覆っている。よく見ればその蔦は壁の中にも潜行している。

 扉だけじゃなくその部屋全体にその蔦が張っているのだろう。


「『純粋禁式』。これは、わたししか、使えない技。

蜘蛛の糸(スキル)で、崩魔術式と非破壊の魔法も混ぜた……これで、いかなる攻撃も魔法も……一定期間は完全に無効化できる……」


 何かが軋む音がする。それは嫌な音だった。

 誰もが甲高い嫌悪を抱く音だ。


「解除方法は……二つだけ。一つは、中にいる人間が扉を開けること。そしてもう一つは、『わたしが直接触れる』。この二つ以外で解除する方法は、何もない。

そして──『わたし』は、生きていなきゃ『わたし』じゃない。

死体は『わたし』ではなく、『死体』だ。死体では決して開かない。決してだ」


「……待って。貴方、何を」


(戦いには負けた。だけど。『覚悟』では負けない)


「絶対、あんたをこの先に入れさせないッ!!」


 窓ガラスが割れた──破砕し飛び散ったガラスに合わせて、セーリャは外に飛び出した。


(純粋禁式の解除ができるわたしが死ねば、開ける方法は中にいる王が起きる以外ない。これで何があっても絶対に開かない)


 彼女は落ちていく。ガラスの欠片の雨と共に。


(わたしが鍵だからヴィオレッタは追いかけてくる? ううん、ありえない。あの子は賢い。

地雷禁式を打ってあるから、使える魔法は小さな魔法が後2回だけ。空を飛ぶ魔法はそもそも発動が出来ない)


 だから。







「──いいね。本当に。そういう覚悟、とっても好きだよ!」






(なっ!)


 ヴィオレッタも窓の外に飛び出した。

「ば、馬鹿なのかっ!? あんたは空を飛ぶ魔法なんかもうッ──」


「【靄舞(あいまい)】、奔れ!」


 落下しながらヴィオレッタは靄を出した。

 素早く生み出された靄は、セーリャの体を縛る。


(造形魔法で──紐状に。でもっ、持ち上げるのは無理だろっ!?)


 ヴィオレッタは落下しながら、壁を走る。

 左腕に靄の紐をぐるぐるに巻き、無理やりにセーリャを引き上げようとするが──落下した人間を空中で巻き上げるのは不可能だ。

 それも肉体強化の魔法も無しでは、重力加速(ぶつりてき)に不可能。

 ヴィオレッタはセーリャに追いつく。そして。セーリャを抱きしめ。

 吸い込まれるように二人は地面へ──。




 ◆ ◆ ◆




 セーリャが目を覚ましたのは──ほんの数分後だった。

 死んでいなかった。


「くすくす。ものすごい無茶苦茶な人だね、セーちゃん」

 セーリャの目の前にはヴィオレッタがいた。くすくすと笑いながら、座っていた。

「大丈夫。私はもう王様の所に行かない。というか行けないから。魔法、欠片も出ないや」

「……四回、使い切ったのか」

「うん。でも永遠に使えなくなった訳じゃないんでしょ?」

「ああ。……夜に使ったから、朝日を浴びるまで、だな」

「そっか。じゃぁ朝までがんばるよ」

 くすっと笑ったヴィオレッタは大鎌を支えにして立ち上がる。


「……あんた、その左腕」

「くすくす。かすり傷だよ」

「いや、ぴくりとも動いて無ぇじゃねぇか」

「動かしてないだけだし」

「いやいや、強がりが分かりやす過ぎ……る」


 セーリャはすっと立ち上がった。──立ち上がれた。

「……傷が」

 塞がっている。血の一つも出ていない。


「くすくす。よかった。

大丈夫そうだね(・・・・・・・)。じゃ、私は行くかな」


 鎌を支えにして、ヴィオレッタは立ち上がる。

「どこに、行くんだ」

 セーリャが問うと、ヴィオレッタは笑った。


「外。私はもうあの階段上らないし、疲れたし、休む」

「……何で、自分の傷を治さなかったんだよ。……四回目の魔法、わたしに」

「気分。それだけだよ」


 ──ヴィオレッタは大鎌を引きずって歩き出す。


「わたしが……傷が治ったわたしが、あんたに襲い掛かるとか、思わなかったの?」


「くすくす。そうしたかったら、そうすればいいんじゃない? 大鎌(グリパー)あるし、戦えるもん」

「……はっ。……つーか、その鎌の名前、そうは略さんだろ」

「こう略すと可愛いけどなぁ……と──あーあ、あんまりに派手にやり過ぎたね」

「? 何の──」


 ヴィオレッタは足で鎌を蹴り上げ、ぐるりと回転させた。


 飛んできた弾丸たちを切り弾き──大鎌を肩に乗せて笑う。

 暗がりの中に、隠れ潜む足音。十か、二十か。


「警備の勇者サンたちかな。くすくす。挨拶抜きで撃ってくるなんて、酷い人たちだねぇ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ