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【19】ガーちゃんの真似【29】



 ヴィオレッタは目の前にいる二人の敵を視界内に常に捉えている。

 ロホ、と名乗った赤い騎士。

 セーリャ、と呼ばれた攻撃的服装(パンクファッション)女子。


「くすくす。お行儀よく見てなくていいよ。貴女も挑んで来たら?」

 ヴィオレッタが挑発すると、セーリャは鼻で笑い──赤い騎士ロホを見る。


「……セーリャ様は、見ていてください。きょ、強敵との一対一。

望む所ではありますゆえ」


 少し臆病そうに赤騎士のロホは喋る。彼は多少どもりの気質があった。

 それゆえ、彼は少し言葉を均してからゆっくりと喋る。


「だとさ」

「ふぅん。いいね、そういう『コダワリ』。面白いね。真剣勝負っていう奴なのかな?」

 ヴィオレッタは首を回し──拳を握る。

 赤騎士のロホは『鉄球鉄槌(ハンマー)』を構え直す。

「え、ええ、そうです」

「くすくす。王国勇者さんたちの戦いって、基本的には集団で周りを固めて物量で圧殺したり銃殺するだけかと思ってたよ」

 ヴィオレッタは目を細めて──かつてヴィーヘが狙撃された時のことを思い返しながらそう言葉を吐いた。

「き、基本的には、王国勇者はそれが前提ですが。矜持を持って戦いに挑むこともありますよ」

「ふぅん。それが今なのかな」

「ええ、まぁ──そうですね」

 眼光が交差する。


「ね。貴方の術技(スキル)は武器を何種類か自在に出し入れできるの?」


 不意にヴィオレッタが問いかける。

 すると、赤騎士のロホは苦笑いを浮かべた。


「す、術技(スキル)は普通、い、隠匿する物ですが……」

「あ、そうなんだ。まぁそうだよね」


「え、ええ。ただ。あ、貴方も答えてくれましたのでお答えしますよ。

一対一で、貴方の靄の術技(スキル)の説明を先に聞いてしまいましたしね。

……自分の術技(スキル)の名は【十二騎士絵物語(ラウンズ・テーブル)】。

別空間に保管されている十数種類の武器を、自在に出し入れ出来ます。

か、換装、とも言えます。はい」



 赤騎士のロホは鉄球が付いたような異様な形の鉄槌(ハンマー)をくるりと回すと──鉄槌は『片手剣』に代わった。



「へぇ。難しそうな術技(スキル)だね。何種類も武器を使い慣れないといけない訳だもんね」

「ええ。その通りです。こ、この術技(スキル)とも付き合いが長いので、ま、まぁ──」


 片手剣を空中へ回して投げる。おどおどと自信なく喋っているが、その武器裁きは一級品。

 回りながら落ちて来た『鋼鉄の棍棒』。

 ただの棍棒ではなく、まるで二つの棍棒がくっついたような長さ(リーチ)のある棍棒だ。


 キャッチすると同時に、ヴィオレッタに棍棒の突きが放たれる。

 槍より間合いは短いが、その分だけ重たい一撃となる。


「──『このように』自在には扱えております」


「くすくす。次は棍棒? 面白いね。見てて飽きないよ」

「そ、それは幸いです」

 ヴィオレッタの両腕を黒い靄が覆う。

 鋼鉄の強度を持った靄、それを纏う右拳で棍棒を上方向へ殴り弾いた。

 その様を見ながら、赤騎士ロホはヴィオレッタを分析していた。


(か、彼女の戦法は『魔法』と『近接格闘(インファイト)』を合わせた独自の戦闘方法のようですね。

身軽で素早い。常時身体強化の魔法を発動している。うーん、なるほど。

並大抵の勇者では歯が立たなさそうですね。とりあえず、試すべき行動は──)


 赤騎士ロホは、まったりと言いながらも棍棒を幾度も打ち付ける。

 連続攻撃。絶え間なく振り下ろした三連打を、ヴィオレッタは流れるような『裏拳』、『肘鉄』、『掌底』の三打撃(コンボ)で弾いて見せた。


(連撃は対応可能。じゃぁ、やはり、流れは決まりました)


 赤騎士のロホは、すぐさま一歩引きながら次の一撃を振り下ろす。

 ヴィオレッタは食らい付いてくる。距離を縮めてきた。


(『絡め捕らえて』リズムを崩す。攻撃が拳メインですから、腕を押さえれば、動揺がある筈)


 狙いすました棍棒の突きを放つその瞬間。


「【靄舞(あいまい)】、舞い上がれ」


 ──先手を打ったのはヴィオレッタだった。

 瞬間、靄がぼわっと部屋中に広がった。真っ黒な靄だ。視界が全て奪われた。

 何かが割れる音。地面も剥がれる音。


(! 煙幕! それに足音が分からないように攪乱!? まずい、来る!)


 ──赤騎士のロホは、AAA(トリプル)の階級にある勇者だ。

 彼は、人魔戦争の戦場を知る勇者の一人であり、場数や経験は豊富である。

 だからこそ『相手が煙幕を張った時』の対処法が、すぐに頭に出た。

 いや『出てしまった』というべきか。


 煙幕を張られた場合、普通なら、たじろいで後ろに下がる。


 後退は愚策。敵は後ろを取りに来るはずだからだ。

 待機は次善の策。その場で周囲を警戒していても、全方位を見れる訳ではない。

 奇策すぎる正面突破もあるが、通常の対処法は、左右どちらかへと跳ぶことだ。


(この次元の濃い靄なら、ヴィオレッタもこちらを見えない筈だ。ならば)

 心の中で決め、左にフェイントを入れてから右に跳ぶ。音は最小限に、身体も風を切らないように丁寧な身のこなし。完璧な体捌きだった──


 ──だが、赤騎士は視界の端に捉えた。




「くすくす。言ったよ、私。耳、滅茶苦茶いいって」




 赤騎士が下がった先に、黒い靄を両の拳に纏ったヴィオレッタがいた。

 腰の下に、引き絞った黒拳。


(しかしっ、まだ!)


 赤騎士は無理な体勢のまま棍棒で薙ぎの一撃を加える。

 だが、その一撃は右腕で防いだ。さながら、鉄化の魔法を使うある混血(ハーフ)の──


「──ガーちゃんの真似。自分の右腕だけ……、って──あれ」


 違和感が走った。右腕が蛇のような『鉄革』がぐるぐるに巻きついていた。

 痛みは無い。しかしながら、ある感覚が右腕にあった。


(冷たいね。右腕。これは……なんか嫌な魔法が掛かってるね。鉄化解いたらヤバいかも)


「ふ、『連接棍棒(フレイル)』と呼ばれる棍棒です。中の鉄革は、ちょ、ちょっと色々改造してま──」



 一瞬だった。赤騎士の目の前にヴィオレッタが飛び込んできていた。



「なっ!?」


(な、なんで!? う、腕に『虚脱』の魔法を巻いたのですから、慌てて解くか一歩下がる筈なのにっ)


 赤騎士は右腕が鉄化されていると言う所にまでは頭は回っていなかった。

 それが、その一瞬の硬直を生んだ。


「【靄舞(あいまい)】身衣──」


 ヴィオレッタは、真っ直ぐに赤騎士の懐へ潜り込む。

 ダメージ覚悟、リスク承知の近接格闘(インファイト)

 それは、『大正解』であった。


 そして、左の拳をより硬く握り──その胴鎧に絞り放った。






「──砕爆(マイン)ッ!」






 赤騎士のロホは歯を組縛り目を閉じていた。

 がしゃっ、という音が鎧からするまでは。

 その音はまるで『華奢な少女が鎧を殴ったような音』だった。


 ぽたり、ぽたりと、血が滴る。


 ヴィオレッタの左拳から、血が数滴零れた。

 苦く、ヴィオレッタは笑い──靄が消えた左腕を見た。


「その左手の魔法を禁ず」


 セーリャが呟く声が響く頃、ちょうど濃く黒い靄が晴れ始めていた。



 

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