【19】王城に侵入した人は死刑【28】
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カイセ・マーヌ。
24歳、男性。勇者階級A級。剣士。王城勤め五年目。
身長166センチ。顔に複数の傷がある厳つい男である。
王国剣術四段。得意魔法は身体強化。趣味お菓子作り。
所持術技【強靭】は自身の体および、その装備品を強化する術技である。剣なら切れ味も増し、壊れ難くなる。鎧ならその防御力は槍すら通さぬ程に堅牢となる。
王都三層西ギルドでの若手エースであり、単独での蘇りし犬の群れ50頭の討伐記録は歴代5位の討伐記録であった。
──硬質化された剣を握り潰された。カイセは胸倉を掴まれ、柱に頭から埋められて意識を失った。
ワキャク・イーナデウモ。
29歳、男性。勇者階級A級。魔法使い。王城勤め八年目。
身長190センチ。ひょろりと背が高く眼鏡が特徴的。
得意魔法は火魔法。尊敬する人物は賢者ルキ・マギ・ナギリ。
所持術技【抽出】は生物ではない物体の持つ水分を外に絞り出すことが出来る。
例えば新鮮な蜜柑に触れればそこから純粋な果汁だけを抜き取ることも可能。鮮度の良い蜜柑飲料水を作るのに2秒も掛からない。
冗談のような術技だが彼の扱う火魔法とは相性がとても良かった。
空気中から水分を抜き取り、乾燥状態を生み出すことにより火の魔法の威力は絶大に上がる。
木や草から水分を抜き、着火しやすくする等、戦闘方法は多岐に渡る。
──火の魔法は靄に触れると同時に消失した。ワキャクは顎を拳で殴ち抜かれ、シャンデリアに吊られるような形で意識を失った。
「おいおい、ギャグみたいに蹴散らしてくれるじゃん?」
「け、決して弱い警備勇者ではなかった筈ですが。
──と、というか、貴方。手配書にあった、金貨五百枚じゃないですか??
名前は、えっと。ヴァヨ、ヴァロ、ヴァエ?」
「ヴィオレッタだけど。私の名前。というか私の賞金って金貨五百枚の賞金なんだ?」
くすくすと笑い小首をかしげながら黒緑色の髪の少女はその場に悠然と立っている。
その両腕からは煙のような黒い靄が放出されている。
赤い鎧の騎士は、ヴィオレッタから目を離さないまま、その靄をよく観察した。
(も、靄の術技ですか。ワキャクの魔法が消失したことから見ると魔法関係の術技。魔法攻撃は無駄かな?)
騎士が観察する中。
「その靄、魔法消せんの?」
直球で攻撃的服装のセーリャが問いかけた。
「せ、セーリャ様! 直接聞いても答えてくれる訳が──」
「うーん。靄が消してるんじゃないよ。対逆効果っていう奴で打ち消してるだけ」
「答えてくれるんです!?」
「赤騎士五月蠅い。──その靄は魔法じゃなくて術技なの?」
「そーだよ。術技。靄舞」
「ね。術技の詳細、教えて良かったの?」
「うん。知りたがってくれたから。貴方も魔法使いなんでしょ。
見たことのない物を見て、ワクワクしてる心音がしたよ」
「音? それも術技?」
「ううん。耳が滅茶苦茶いいんだ、私」
「へぇ。凄えな。で──ヴィオレッタ。あんたは何しにここに来たんだ?」
「くすくす。言ったじゃん。未来の魔王様が遊びに来て上げたんだってば」
「そうか。あー、未来の魔王様。一つ、わたしが知ってる王国の法律を教えてやるよ」
「なぁに?」
「王城に侵入した人は死刑、らしいぜ」
パンク少女の言葉に合わせて、赤い騎士が跳び出した。
その武器は腕の長さ程の片手剣。
「ちゃ、ちゃんと法に照らしてからですよ、死刑は!
王国を野蛮な国に思わないでください! 先ずは、捕縛します!」
「くすくす。死刑でも捕縛でも、出来る物なら、どうぞ?」
ヴィオレッタは片手剣を蹴り上げる。
──その瞬間、ヴィオレッタは『直感的に』後ろに跳び下がった。
その判断は正しかった。風切る音と同時に、ヴィオレッタの鼻先を『長刀剣』が掠める。
彼の身の丈よりも長い刀だ。それを鞘から抜いた瞬間を見ていないどころか、『どこから出したのか』を見ていない。
ヴィオレッタは表情を真剣にしてから、着地し向き直る。
「じ、自分はロホ・カヴァリェーロ。階級はAAA級です。貴方への恨みはありませんが、懸賞首でもあります。法に従い、討たせて頂きます」
赤い騎士は『長刀剣』を振り下ろす。
「靄舞──防げ」
ヴィオレッタの術技は単体では決して強い物ではない。
彼女の場合、その靄で出来ることは二つ。
一つ、靄の形を自由に出来る。二つ、自分の発動した魔法を靄に吸収させることが出来る。
──鋼鉄の魔法を靄に吸わせ、靄は『鋼鉄の強度を持った盾』となる。
確かに攻撃は速いが『もっと迅い男と戦ったばかり』だ。
防ぐことなどヴィオレッタにとって造作もなかった。
刀が斬り裂ける強度ではない。振り下ろされた刀から火花が散った。
そして同時に。
「【十二騎士絵物語】──【鉄球の鉄槌】」
瞬間、剣が消え──代わりに鉄球が先頭に付いた鉄槌に変わった。
『靄の盾ごと』、鉄球鉄槌が大理石を叩き砕く。
「──な、なるほど。早いですね。避けられましたか」
赤い騎士は苦い声で呟き、土煙の上がった先を見る。
ヴィオレッタは頬に付いた汚れを擦りながら、くすくすと笑う。
間一髪、その一撃をすり抜けたヴィオレッタは正面に居る二人を交互に見る。
攻撃的服装の女の子はまだ動いてすら居らず、騎士も余裕の顔をしている。
「謝るよ。ごめんね──雑魚だと思って、手、抜きすぎたね。
長刀剣が突然現れたんだから、武器、警戒すべきだった」
「……こちらこそです。貴方のことを一介の賊だと思ってしまいました。
重犯罪者級の少女が、この程度で討てるはずがない。
もっと確実に、と、捕らえる武器を選べばよかった」




