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【19】私も作戦思いついたんだよね【27】


 ◆ ◆ ◆



『強い雨が降り頻る中でも王都中央公園には多くの人が訪れていた。時折、献花に並ぶ人々から咽び泣く声も聞こえる。どれほど国民の心の中にバセット様への敬意があったのかが窺い知れた。』

 ──朝刊見出『凶刃 雨の中でも国民献花』、国営都報社新聞、記事より抜粋。



 ◆ ◆ ◆


 『反政府(テロ)事件』。

 それは今から四年前の夏に起きた事件だ。

 犯人は身柄の確保はされていたが、当初公表されなかった。数日の後に公表されたのは、ある貴族の一派に属する人物であった。

 曰く、ラッセル王の政治活動に不信感を抱いた犯行だったという。


 報道によると、『国王ラッセル』の寝所に賊が侵入。貴族であったが故、勇者たちは油断し、その隙に姿消し魔法や昏睡の魔法で警護をすり抜けたという発言がされた。

 だが、寝所に侵入すると国王ラッセルしかいない筈の部屋に『王弟バセット』がおり、もみ合いとなった。

 その最中、王弟バセットはラッセル王に向けられた凶刃を、その身を挺して防いだ。

 王を庇い、バセットはその命を落とした──。


 王国の歴史の中でも『王族が城内で殺された』という事件はこれが初である。

 戦後、最も有名な事件であると同時に、王国史の中でも最も恥ずべき汚点と言われている。


 ◆ ◆ ◆


「かいつまんで説明すると、こんな感じよん」

 上腕二頭筋をゴリゴリに隆起させたヴァネシオスは説明を終えた。

 マスカラが吹き飛びそうな分厚いウィンクをして見せると、ラニアン王子は音が出ないように拍手をしていた。


「ヴァネシオス殿、良く知っているのだ」

「そりゃ、(あたい)はこう見えて元隠者(しのび)よ? 

市井の情報収集は朝のスクワットと同じくらい欠かさないワ!」

 朝のスクワットってなんなのだ、とラニアン王子が苦笑いを浮かべた。


 ふと、ヴァネシオスとラニアンの二人は隣の少女を見る。

 ヴィオレッタ。彼女は珍しく神妙な面持ちで、目を閉じ腕を組んでいた。


 ヴィオレッタが聡明なのは、まだ関りの浅いラニアン王子も理解していた。

 四年前の出来事を聞いてきたということは、その出来事を今から行うことに何か利用するつもりなのだろう。


「……何か、手掛かりになっただろうか?」

「ちなみに、この出来事がきっかけで防御魔法は進化したのよね」

「そうなのだ」


 ヴィオレッタはまだ答えない。

 じっと、ヴァネシオスとラニアン王子は彼女を見据える。


 ……。





 ──鼻提灯。ぷくぅと大きく。





「レッタちゃんッ!?」「ヴィオレッタ殿ッ!?」

 パンッ、と鼻提灯が割れた。


「ぇぅ? あ、うん? ああ、ごめんね。

なんか人の名前がたくさん出て来て寝ちゃった」


「ちょっともぉー! レッタちゃんが興味持ったから教えたんじゃないのーっ!」

「ごめんごめん。大丈夫、ちゃんと聞いてはいたから」

「寝ながら聞ける物なのだ???」


「くすくす。まぁ、よくわかんないけどさ」

 よくわかんないんじゃん! とラニアン王子が内心で叫んでいた。


「私たちが王様拉致ったら、王国は汚点まみれになりそうだね」

「そ、れは──そうなのだ」

「くすくす。まぁ、やるんだけどね。ね、一個質問していい、オスちゃん?」

「何かしらん?」


「その賊って、一人で侵入したの?」


「ほんとに寝ながら聞いてたのだ」

「一人? いいえ? 新聞じゃ十数人って言われてたわよん。公開処刑も行われてたし」

「ふぅん」

「レッタちゃん、どうしたの?」

「ううん。……くすくす。十数人ねぇ」

「?」



「もし、本当にそんな大所帯で侵入なんてしたら。

流石にこんな警備でも、すぐにバレちゃいそうだなぁ、って思うけどねぇ」



 その言葉に、二人は少し硬直した。

 くすくすとヴィオレッタは笑ってから、言葉を続ける。

「ただ当時の状況なんて知らないし分からないから、確信じゃないよ。

ただの直感だし所感。ま、どーでもいいよね」


 ヴィオレッタは翳った月が浮かぶ窓の外を見る。



「とりあえず、侵入しよっか。王子、瓶ちょーだい。眠らせる奴」

「は、はいなのだ。えーっと」


「レッタちゃん。ちょっと待ってもらえるかしら」


「?」

(あたい)──やっぱり作戦の修正をすべきだと思うわ」

「そーなの?」

「ええ。──あの二人、手強そうだわ。

よく燻されたベーコンのようなエロさと、新鮮な馬刺しのような秘められた精力を感じるわ」


「……意味が分からないのだ」「くすくす」


「瓶の効果が発揮されるより早く、戦闘になると思うワ。

この空間じゃなければ、不意打ちも出来ただろうけど……王の部屋の前、遮蔽物が少なすぎるのよ。

ごめんなさい、下調べが甘かったわ。(あたい)が組んだ作戦を急に変えるなんて」


「いいよ。作戦変えよっか」


「切り替え早いのだっ」

「というか、私も作戦思いついたんだよね」

「え、そうなの??」

「うん。まー、見てて。超簡単だよ。くすくす。二人とも耳貸して──」


 ヴィオレッタは、自分の策を伝えてから──あっけにとられた二人を置いて、大理石の柱から跳び出した。

 ラニアン王子はその背中を見て──思った。

(ヴィオレッタ殿! その作戦はっ……! その作戦は!)


 王の寝室の前には二人の勇者と、赤い騎士と、攻撃的服装(パンク・ファッション)女子。

 ギロリと鋭い視線が、四人同時に『少女』を捉える。

 一階の最も開けた踊り場に立つ黒緑髪の少女ヴィオレッタは、四人を見てにやりと笑った。




「くすくす。王様の部屋、そこでしょ。未来の魔王様が遊びに来たって、伝えてくれるかな」




 ──『私が跳び出すじゃん。そしたら四人全員こっち見るから、後はその隙に、だーって部屋に入っちゃう感じでお願いね』





 囮になるというもの。

 しかし、イコール。




(ほぼ無策ッ!!)

(ほぼ無策じゃないのんっ!?!?)


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