表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/841

【06】そんな優しく扱わなくても【04】

 

 ハルルの脇腹の辺りを、拭く。

 女の子のパジャマの中に手を入れる。それだけでもドキドキしているのに。


 ベッドの上。ハルルは、胡坐で座ってる俺を、背もたれにして、寄りかかっている。

 そして、その状態で、ハルルの体を……体の前部分も、拭くことになっている。


「ひっぁ……くすぐったいッス」

「あ、ああ。す、すまん」

 ハルルが振り返り、熱で潤んだ目を向けてくる。


「次は、鳩尾の」

 息が、荒くなって。

 理性で、抑えないと。抗わないと。


「胸の下、汗ばんじゃうんスよね。結構」

「む、胸の下」

 親指の辺りに、柔らかく温かい何かが当たる。


「ぅ、んっ」

 気付くと、ハルルと密着していた。

 抱き寄せるようにして、そして、ハルルも少し近づくようで。

 腕から、体から、体温を直に感じる。


「次は、その上、ッス」

 頭がくらくらする。


「でも。その、拭いてもらう前に。ししょう、……胸、苦しくて」

 ハルルの手が俺の手の甲に触れる。

 細い指先が、俺の手の甲を中指から手首に向けて、そーっと動いた。


 ぞくぞくと、俺の体の芯が、熱くなっていくのが分かる。


下着(ブラ)、外して、欲しいッス」


「!? そ、それは、えっと」

「まずは、その。背中の、ホックを」


 タオルが、布団に転がる。

 背中の真ん中あたり。ホックが、ある。


 あれ。外れない。

 引っ張っても外れないし、これ、どういう構造に。

「内側に、ちょっと思い切りグイっと、やってみてくださいス」

「あ、ああ。こう、か」

 ぷつ。

 小さい音と一緒に外れた。

 よかった、外れた、と安堵した。

 直後、これが女性の下着だと、ハルルが今その瞬間まで付けていたものだと。

 衝撃が走った。


 そして、その白いブラを、ゆっくりと、パジャマから抜いて、布団の上に置く。

 また、ハルルは振り返り、とろけそうな目と目が合う。

 そのまま、ハルルはこっちを向いて、そのまま、俺に抱き着いてきた。


「は、ハルル……?」

「ししょう」


 ぎゅっと、抱き締められた。倒れないように支える。

 2ミリにも満たない布を挟んで体が密着する。

 これは。


 そういう、こと、なんだろうか。


 いや。でも、俺たち、付き合ってるわけじゃない。

 師弟関係な訳で、いや、師弟でもなく、従業員とオーナーというか。

 やばい。思考が回らない。


 俺の顎の横、肩に顔を埋めるハルルは、顔を上げた。

 頬も耳も赤くして、目には薄らと涙を浮かべて。

 何も、声が出ない。

 


 正直に言う。俺は、童貞だ。

 二十六にもなってと言われるかもしれない。

 言い訳するなら、十六歳まで勇者として戦場にずっと居たんだ。

 女仲間が居ても、戦場という特殊な場所では、そういう関係にはなれないものだ。

 その後、十年、隠居生活。恋愛をすることも、夜遊びの店に行くことも無い生活だった。

 だから、童貞だ。


 正直、今、この状況、どう受け止めればいいかもはっきりとは分かっていない。

 俺は、どうするのが、正解なのか分からないでいた。


 だけど、本能的に。

 ハルルを、強く。強く抱き締めた。


 吐息が、耳に当たる。


「ししょう」

「な、んだ?」

 答えの代わりに、ただ、ためらいがちな瞳が、俺を見てから、目を背ける。

 それから、ハルルは、恥ずかしそうに、照れた笑顔を浮かべた。


「パジャマも、その、苦しくて」


 ボタンを、外して。


 そう言われて。上から一つずつ、ボタンを外していく。

 谷間が見える。へそが見えるまで、外した。

 ハルルは、手で前を隠す。

 ハルルも息が荒い。

 言葉が出ない。


 目が合い、視線をそらしては、また目が合う。

「あの」

「な、んだ?」

「……え、えへへ」

「なんだ、よ」


「そんなに、その。そんな優しく扱わなくても、いいんスよ?」


 目を細めて、優しくて、熱っぽい顔で見られたら。

「ハルル。悪い」

「え」


 流石に、俺はもう。


「もう。限界だ」


 ハルルの肩に触れ、押し倒す。

 はだけたパジャマを、ハルルが直そうとするが、その手を握る。


「ぁ……」


 肌が、白い。

 壊れてしまいそうだ。そう思いながらも、押さえられない。

 食べてしまいたい。


「んっ、ぁっ」

 ハルルの胸を、撫で、優しく。

 柔らかい。何より。

「っ……んっ」

 ハルルが。恥ずかしそうに声を抑えようと必死に身を捩るハルルが。

 

 堪らなく、可愛い。

 止まれる訳がない。

 見つめ合い、顔が近づく。唇を──。



『ジリリリッ!!』



 セミみたいな音のチャイムが鳴った。

 びくっと二人で背筋を伸ばした。

 ……。

 居留守を──。


『ジリリリッ!! ジリリジジリリ! ジリジリリリリリ!!!』


 この連打。


『ハルルー、ジンー! お見舞いに来たのだー!!』


 ポム。かよ。

 マジかよ。

 ……マジかよおおおおっ。


「……えっと、す、すぐ。ちょっと片付けるので、足止めをお願いするッス」

 ハルルが大慌てでパジャマの前を止め始め、自分のブラを枕の下に隠した。


 ……。

 …………俺は、扉の方へ歩いていく。


 いや。ハルル。今の、居留守で、よかったんじゃねえのかな。

 ……などと、言ったら、がっついているように見られるし、それは、言えないよな。くそ。

 くそおおおっ。


「ジンー! ハルル、大丈夫なのだ?」

「ああ、ただの風邪で……というか、お前、なんで知ってるんだ?」

「ギルドでジンが話してたのだ。その時、隣にいたのだー」


 え。そうだったっけ。


「まぁ、確かに、ジン、すごいテンパってたから覚えてないのも無理ないのだ? 凄い焦りながら、『ハルルが高熱で』って言ってたのだ」

「ばっ! あれは、医療術師の呼び方知らなくて!!」


 思い出した。

 ギルド窓口で少し焦ってる時にポムに話しかけられた。

 ちょっと今立て込んでて、悪い、と言って医療術師を呼んでいた。

 その後、すぐにポムも居なくなってたから気にも止めてなかった。

 そうか、俺が蒔いたタネだったか……。


「で、早く治って欲しいから、お見舞い、買って来たのだ」

「おお、ありがとうな」

 振り返る。

 ハルルは自分の服とベッドの乱れを直し終え、布団にくるまり寝込んでる人モードになった。


「じゃぁ、上がってくれ」

「お邪魔するのだー! ハルルー!」


「わ、わぁ、ポムさん、こんにちはッス。お見舞いありがとうございまス」

「熱、大丈夫なのだ? お見舞い買って来たのだ!」


「一応、熱はだいぶ落ち着いたんで、大丈夫そうッス」

「それならよかったのだー!」


 ハルルとポムは楽しそうにしている。

 俺は、その様子を見ながら、不意に、先ほどのハルルの顔を思い出してしまった。

 俺……いつの間に、ハルルのことを。


「師匠~、ポムさんが持ってきたリンゴ、剥いてくださいッス」

「あ、ああ。今、やるよ」


 リンゴを二、三個受け取って、台所へと行く。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ