【19】ジン VS ロクザ ④【23】
◆ ◆ ◆
──俺の師匠は、破天荒な女性だった。
『ライヴェルグ。お前に七つの絶景技を教える』
『はい』
『七眺絶景というが──お前、この技を覚えたら八眺絶景にしろ』
『は、え? 師匠。いつにもまして意味わかんないんですけど』
『分かれ』『んな無茶苦茶な……』
『天裂流の技は、血よりも濃く繋がれた物だ』
『え、何の話が始まったんですか?』
『天裂流の人間は、大体が何か大きな枠組みから外れた人間だ。
そして大きな何かを、どうにかしようと足掻いた人間だ』
『……えっと』
『だから、技に全てを託した。次の誰かにこの技を繋ぎ、脈々と力を繋げてきた。
絆という言い方でもいい。だが、その言葉よりももっと血の色に近い繋がりだと思っている』
『それって──』
俺が答えると、師匠は口をすぼめたり細めたりした。
照れてる時の顔である。
『いや、……それはそういういい方でもいいけど。それ、恥ずかしいじゃん』
『??』
『まぁ、だから、人の技を受け継ぐっていうのは、まぁ、そういうことだ。まぁ!』
『よく分からないけど分かりました、師匠』
『よろしい! そして、特に今から教える七眺絶景は、天裂流の師範クラスの人間が遺した『奥義』みたいなものだ』
『へぇ』
『ちなみに私が遺したのは『科戸の風』! 難易度激高の技だからな!』
『じゃぁコツから教えてください』
『まったく。最近は何でも楽しようとして! ゼロから頑張れゼロから!』
◆ ◆ ◆
ジンとロクザ。
二人の戦いは閃光のような戦いであった。
刀は振る度に白い輝きを放ち、目にも止まらぬ技の応酬。
そして、今。
二人の動きは停止していた。
そして、同時に動いた。
ジンは一閃。抜刀術を。
ロクザは一突。刺突術を。
そして、お互いは完全に動きを止めた。
ロクザの刀が──その赤黒い切っ先が、ジンの腹に突き刺さっていた。
「その技も、凄いですね。先端、ぐるぐるしてましたよ」
「ほっほ。手首でのう、回転を加えて『絶景』を使って目で追うに追えないようにする技じゃ」
ジンは後ろに一歩下がる──腹に刺さった刀が抜け、ぼとぼとと血が落ちた。
(やべぇな。傷は浅いが、血ぃ結構出てるな。嫌な場所に刺さったみたいだな。
ただ、それより)
「……鞘に戻すまでが、居合じゃよ」
「ええ……そうですね」
ジンは腹の痛みを堪えながら、目を閉じる。
──刀を鞘に戻す。
きん、という優しい音と共に。
ロクザの右腕から血が跳び散った。
ロクザは膝から崩れる。左手で右手の傷を押さえるも、赤々とした血はとめどなく溢れる。
それでも尚、金烏は握り続けていた。
「どう、じゃったかな。一刀翔、使ってみて」
「……良い技ですね。一刀翔は『絶景』の攻撃技の『模範解答』みたいな気がします」
「ほっほ。それは褒めてるのかのう」
(もちろん褒めてるけど、褒めるって言葉使うと上から目線になっちゃうんだよなぁ)
「そうですね。思わず使ってみたくなるような技ですよ。
使い易いし、絶景同士での戦いで有利に働くようになっていると思いました」
「使ってみたく、なったのかい」
「ん? ええ、まぁ」
(久しく見た『絶景』で使える技で、思わず真似してしまったけど、そうか、嫌だったんだろうか?)
「……すみません、駄目でしたかね?」
「いや。違うんじゃ。そうか……ほほ。そうか」
ロクザは遠い目をして笑う。
「ライヴェルグくん。ありがとうのぅ。キミが真似したいのならキミの師匠も。
『仁華』も、真似したいかのう?」
「ああ、あの人は新技好きですからね。真似したがると思いま──」
(『仁華』、だって?)
ジンは言葉の最中に、言葉が詰まった。
そして、目を丸くした。
「ロクザさん。なんで俺の師匠の『本名』、知ってるんですか」
(俺の師匠は、殆どの人に『天裂』という偽名で通していた。なのに)
「ほっほっ。話したことも無かったのう。
……仁華・天裂とは、キミよりも長い間の仲なんじゃよ」
「そ、それは本当に初耳なんですが」
「キミには言わんで欲しいと言っていたのう。師匠としてのメンツが云々と」
(カッコつけだったからな、あの人。
いや、というか。そうか。なるほど)
「髭オジって、ロクザさんのことか」
「え、ワシ、そんな呼び名で呼ばれてたの???」
ロクザは笑ってから、刀を──鞘に戻した。
「はぁ……しかし、参ったわい。ワシの、負けじゃな」
「ありがとうございます。最後まで、色々と教えてくださって」
ジンが目を閉じて頭を下げると、ロクザはひらひらと手を振った。
「何も教えとらんよ」
「いいえ。一刀翔。
この技は俺に教える為に使ってくれたんじゃないかなと思いまして」
「まぁ、そうじゃな。……仁華との約束でもあったんじゃよ」
「約束?」
「ああ……まぁその話は、少し医務室に行きながら話そうかのう」
「……確かに」
「まったく。お互い、年甲斐もなく全力でやりすぎじゃよ。危うく死ぬぞい」
ジンはロクザに肩を貸して立ち上がる。
「ははは。確かに、やりすぎましたね」
「はぁ……動いたらお腹が空いたのう……」
「おいおい。ロクザさん。夕飯なら一昨日食べただろ」
「おお、そうかそ──いや、飯は毎日食わせてくれんかのう」
(なんだ。進み具合、戦ったらもしかして少しは改善されたか?)
ふっと、ジンが笑い、ロクザも笑った。
扉を押し開ける。二人で横並びで上るには少し狭い長い上りの階段があった。
一段ずつ上っていく二人。
「どうも。横槍&戦闘終了後に登場することでおなじみのユウ・ラシャギリです」
その背後と左右上下と正面から『氷柱』が一度にジンとロクザに襲い掛かった。
「戦闘後には必ず僕が現れる、っていう位置づけも嫌なんですけどねぇ……。
卑怯キャラで定着しないで欲しいなぁ」




