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【19】ジン VS ロクザ ③【22】


 ◆ ◆ ◆


 居合って強いのだろうか?


 鞘から刀を抜き、その一太刀または返しの刀で相手を斬る技であり、抜刀術とも呼ばれる。


 先制出来るタイミングであれば、先制を取って一撃で勝てるかもしれない。相手に太刀筋を一切読ませないという優位性(メリット)もあるだろう。

 また、刀を抜く気配を見せない所から抜刀を行う『奇襲』故、相手が対応出来ないのも居合の強みと言っていいだろう。

 研鑽を積んだ達人ならば、片手の居合斬りですら両手での打ち込みと同等の威力の斬撃になると言われている。


 だが、本当にそれは強いのだろうか。

 実際、居合という技は武芸における『芸事』とされることが多い。


 実戦において、『鞘から抜刀して相手を斬る』という局面が『少なすぎる』のだ。


 実際、相手が抜刀術を行うと分かっていれば『その間合い』に入らなければいい。


 居合を得意とする剣士の一番の弱点と言えば『その場から動けない』ということ。勿論、多少は動けるが、歩きながらの不整地で『理想の居合』は出来ない。


 そう考えれば、命を賭けた戦いにおいて抜刀術の『普通なら』居合は使い勝手は良くない技であると言える。



 ◆ ◆ ◆



走抜(そうばつ)──」



 ──『普通なら』居合は使い勝手が良くないのだろう。

 だが。


 ロクザ・ガルディア・リガーレは気付けば『音も無く刀を鞘に仕舞っていた』。

 靴裏から火花散る程に走った。ジンの前で立ち止まり大足を広げ、腰の刀を抜く構え、引き抜く。



 ──世界をゆっくり見ることが出来る『異常』な技術である『絶景』。

 ──そして、ゆっくりと流れる世界の中でも自在に動ける『膂力(りょりょく)』。



 ──『異常なら』その居合術は『必殺の芸術的技巧』となる。



 仰々しく描かれているが──ロクザのやっていることは単純明快。

 刀を鞘に仕舞う。相手の目の前まで走る。

 改めて抜刀の構えをする。抜刀して首を狙う。


 それを、『1秒の1000分1にも満たない瞬間』でやってのける。

 それが。





「── 一刀翔(いっとうかけり)





「っ!」

(『間合いに入ってきた相手に反撃する』んじゃなくて、『相手を間合いに入れて無理矢理に居合斬り』! エグイ技だな、おいっ!)


 その上、その抜刀術は本来なら、『絶景』を使えない人の目では追えない速度。

 ジンは真っ直ぐに首に向かって進んできた刀を、汗を掻きながら刀で受けて防ぐ。

 防いだが、勢いを殺しきれない。


 ジンはそのまま、真横に吹っ飛んだ。


 厳密には、踏ん張るのを辞めて、そのまま吹き飛んで威力を軽減して見せたのだ。

 床を擦りながら着地した。ジンは自身の足の裏が燃えるように熱かった。


 だが、厄介だったのはその後も変わらない。

 ロクザは壁を走ってジンの真横に飛び掛かる。


「── 一刀翔(いっとうかけり)


 空中で『鞘に納め』、『構えの後』、『抜刀』。

 これもまた一瞬よりも短い間に行われた。


 舌打ちをし、ジンはその抜刀術も防ぎきる。

 またも額から汗を掻きながら、距離を取って着地。

 ジンも刀を構え直す。



(まるで『追尾機能付きの大砲』だ。それも、相手に近づいたら通常の防御くらいじゃ貫通する斬撃を放つっていう性能(おまけ)付きか)



「けど。目が慣れて来た。次はその一撃、弾くぜ」

「流石じゃのう。ライヴェルグくん。キミは昔から順応する力が高かったからのう。

しかし──着実にキミを追い詰めていくぞい」

「追い詰める?」


 問いながら、ジンは汗ばんだ手で刀を握り直す。

 ──汗ばんだ? と、ジンは不意に手元を見た。何故、汗の玉が皮膚から零れているのか。

 身体の感覚を確かめていく──喉も僅かに乾いていた。体温も上がっているような気がする。


(体に熱が籠ってる? いや違う。これは──)




「空間が『熱されてる』……? あ、いや。マジか。クソ。

なんで目に見えてるのに、俺気付いてねぇんだ。

戦いから離れすぎてたのかな。戦闘考察が下手になってた。っとに嫌になる」




 ジンは今更その変化に気付いたことを恥じつつも、視界内にある『刀』を見つめ直す。

 ロクザの握る黒刀『だった物』。



「気付いたようじゃのう。この黒刀『金烏(きんう)』は──斬れば斬る程に『刃が赤くなってゆく』。

そして空間を『燃やす』んじゃ」


「おいおい。ありかよ、そんな刀……」

「ありじゃろ。キミの聖剣よりかは、幾分もまともじゃよ」

(それ言われると何も言えねぇけどさ。けど今は持ってないけどね??)



「酸素を食い、体力を奪い、そして最後は相手の思考を焼き切る。

太陽に住むという金色の烏の名を冠する『(あま)()の刀』。

それが『金烏(きんう)』じゃ」



 『赤黒い刀身』──火の粉を撒き散らしながら、その金烏(かたな)をロクザは構えた。

 いままで隠していたのか蓄えられていたのかは分からないが、金烏はその本性を現わしていた。

 空間を物理的に焼き焦がす発熱。

 ロクザが一振りすると、彼の後ろの空間が蜃気楼のように歪んだ。


「触れれば火傷では済まないじゃろう」

「怖ぇ刀だな」


「しかし……あと二振りじゃったんじゃがのぅ」

「何?」


「キミが正常な思考を出来なくなるまでの回数じゃよ。

金烏の燃焼でこの空間の酸素を少しずつ焼いておったのじゃよ。

キミの周りの空気を優先的にのう」


(俺の周りだけ焼くとか出来るのか。すげぇな)


「……すまんのう。キミの意識を混濁させるという老獪で卑怯な戦いをしてしまってのう」


「いいや? 真剣勝負なんだ。老獪結構。

殺す気で掛かるし、手の内を明かさないのが常道だろ」


「そうか。ありがとうのぅ。そう言って貰えるなら──容赦なく焼こうかのう」


 鬼が、煉獄を引き連れて這い出てきたような光景だ。

 ジンはそのあまりにも過ぎる状態を見てから、肩の力を抜いて笑った。



「恐れ入ったよ、ロクザさん」

「ふむ?」


「必殺居合の一刀翔(いっとうかけり)。煉獄を作っちゃう炎の刀。

間合い取りが上手い突き技。流石、王国の守護神。やりたい放題だな」




「ほっほっ。キミ相手に手を抜くのは失礼じゃろうからな。絶望したかい?」

「いいや──」


 ジンは刀を鞘に納める。




「──滾るね」




 嬉しくて堪らない──そう言ってるような爛々と輝く目をジンはしていた。

 童心に帰ったような。それでいて──獅子が獲物を狩るかの如き、無邪気な気迫。


 そして、彼は構えた。

 足を大きく広げて柄を握る『居合』の構え。


(鞘に──それにその構え。まさか、キミ!)


「やらせて貰いますよ」


「……ほっほ、よいだろう」


(戦闘中に『見て覚えた』のかね? だとしたら。是非、見せて貰いたいものだ……!)


 ロクザは『直感的』に、居合で応戦しなかった。

 剣士の勘で、あるいは客観的評価からか。

 同じ技での対決では自身が力負けするのが分かっていたのだ。



 それ故、ロクザの構えは右手で柄を握り、左掌で柄の下部を押さえる『突きに特化した構え』。




嘴突(しとつ)の構え──紅鏡(こうきょう)の相」




 そして先に動いたのはジンだった。

 傍から見れば瞬間移動でもしたように見えた。

 ジンはロクザの右斜め下側。

 同時、ロクザもまたジンを視界に捉えている。


 二人の技は同時に放たれた。





「『一刀翔(いっとうかけり)』!!」


「『振薙・烏有帰(フリキリ・ウユウニキス)』!!」




 

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