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【19】ジン VS ロクザ ②【21】


嘴突(しとつ)──啄木突(きつつ)き」


 風が摩擦音を上げる程のロクザの突きは、素早く正確だ。

 まるで鋭利な弾丸のように打ち出される突きを、ジンは『辛うじて』捌く。


(っ! 本当に、凄い剣士だ、ロクザさんはッ……!)


 その『突き』を防御するのは容易だ。

 しかし、ここから反撃に転じるには、高い技術が要求される。

 突きに対して反撃を取るなら、刀の間合まで相手に詰め寄らなければならない。

 だが、刀を回して反撃を取りに行くも、ロクザは半歩ずつ後ろに下がる。

 ロクザは突きを放ち、間合いを取り続けることでジンに反撃も攻勢にも出させないよう立ち回っていた。



(マジにやり辛い! ならっ──やるべきことは『一つ』!)


 ジンは『ある覚悟』を決めて回避と防御に専念する。

 対してロクザは正着を持って戦いを続ける。ジンの間合いをよく知っているからこそ出来る芸当だ。

 反撃の選択肢を奪えば、躱すか防御か、大幅に逃げて攻勢に移るのみ。

 しかし逃がさず、攻撃の手も緩めず、ジンのリズムを崩し続ける。

 それこそが、ロクザが攻め続ける理由。


(ライヴェルグくんの天裂流は、『化物を討つ流派』と聞く。それは『対人』を主とせず、魔族や竜種を討ち崩す為の流派。故に、十年前は試せなかったが、この『突き間合い』──ワシの『対人技』こそ、弱点(かつろ)ではないかと思うていたのじゃ)


 突きを無理に防ぎ、軋むような音が響いた。そこから力技で押すジン。

 その鍔迫り合いの後、刀光一閃、互いの刀がお互いの目の高さをすれ違う。

 合わせて刀刃(きっぱ)を回し、ロクザは身を低くし『目を見開く』。

 彼の目も『時の流れが全て緩やかに見える世界』を見ていた。


(ライヴェルグくん。キミほど弱点を晒さない人間は始めて見た。じゃが、今が一つの間隙じゃ!)


 ジンは、後ろ手に回した刀の切っ先を『地面に向けてしまっていた』。

 連続の突きと攻撃の応酬。反撃を決める為に大きく横薙ぎをした後、刀を構え直す為の『一瞬の予備動作』。

 ロクザはそれを見落とさず、ジンの胸に目掛けて突きを放──



「八眺絶景──」



(しま──ワシが見えていた『隙』は、囮かっ!)


 切先は石床の地面に向いていた。だが、それは隙ではない。

 彼の技の狙い通りだ。

 刀が地面を斬り、そのまま地面を斬通させ『振り上げた』。



「──火吹山」



 ロクザの突きを上に弾く。

 地面、床板、岩盤が砕け散る中、金烏(かたな)が空へと弾き飛ばされた。


 地面ごと斬り裂く『斬り上げの技』。

 常識的に不可能な位置からの反撃技で、敵の虚を衝き、足から腰に掛けて斬り裂く技。


(なんだけど、流石。上手く避けられたわ)


 だが、間髪入れず、ロクザは跳び、空中で刀をキャッチしてから、着地する。

 ジンは苦く笑って見せた。


「すげぇな。ロクザさん。俺、正直今、勝負決める気だったんですけどね。

『刀と腕ごとぶっ壊すつもり』で斬り上げだったんですが──流石、守護神ですね」


「ほっ。いや、正直に間一髪じゃわい。というか、手加減無く腕を吹っ飛ばす気じゃったんか??」


「ははは。心臓を一突きにしようとした人がよく言いますね」

「大丈夫じゃよ。刺さりすぎる手前で抜く気じゃった。まぁ手が滑ったら貫いちゃうんじゃが」

「可愛く言わないでくださいよ、死にますからねそれ?」

「大丈夫じゃて。10人に1人くらいは手が滑らんから」

「それ逆の言い間違いであってくれ。9人死んでんぞ」


(しかし……弱点晒して一撃でカウンター決める気だったんだけど、駄目だったか)

 ジンは内心で舌打ちをしてから刀を構え直す。


「……十年前、ロクザさん、本気じゃなかったんじゃないですか?」

「ほっほ……それを言うなら逆じゃろ。ライヴェルグくんこそ、一割も本気で無かったと見受けておる」


「そ──れは本気でしたよ」

「嘘が苦手なのは変わらんのう。故に太刀筋も正直かつ強いんじゃが」


 ロクザはそう笑ってから、刀を鞘に戻す。

 (しま)いですか? とジンは冗談を言う寸前で言葉を止めた。


(一切、戦意に衰え無しだな。その目と身のこなし)


「王国剣術は、兵士の質の向上で作られた剣術じゃ。

指南通りに訓練を積めば剣士として一流に近い所に辿り着けるように、多くの王国剣士が積み上げて作ったのじゃ」

「ほぼロクザさんが編成してましたけどね」

「いいや、ワシだけの力じゃないのじゃ。ワシが見て来た多くの剣士があってこそ、王国剣術の書も道も出来た」


 鞘に収まった刀の柄を、ロクザは握り直す。


「編成の中、ワシの得意とする突きを主体とした『嘴突(しとつ)の構え』は皆苦手でのう。

難度が高いと言われ、王国剣術指南書から抜いた。

そして他にも『高難度の剣術』は抜いたのじゃ──ワシの研鑽の結果。

その『研鑽の技』は弟子にこそ伝授したが……キミにはまだ見せてない技じゃな、いうなれば『秘伝の剣技』じゃな」


 燃え立つ空気に、ジンは刀を両手で構えて、目線は一切逸らさない。

「秘伝……ですか」

「恐ろしいか?」

「いえ。素直に嬉しいです。その技を見れるなんて」


「そうかそうか。本心から出た綺麗な言葉じゃのう。いい子じゃ。

なら、この一撃目はご褒美(サービス)としよう。上手く避けることを期待するのじゃ。

『走抜』。技の名を──」



 その場に他の者がいたのなら、ロクザが消えたように見えただろう。

 ジンは対応出来ていた。『絶景』という技術が無ければ認知不可能な世界の速度。

 左右にフェイントを入れて、一瞬で相手に近づくこの『姿が消えたように見える』走法は、絶景と相性が良くジンも得意技としている。


 そして、その何千分の一秒にも満たない『刹那』と呼ぶべき時間に。

 ジンの目の前で身体を深く低くし、柄に力を入れているロクザの姿があった。



 それは、抜刀術。






「──『一刀翔(いっとうかけり)』」






 居合。

 目にも止まらぬ黒刃がジンの首に目掛けて一直線に走った。


 全てが遅く見える『絶景の世界』にあってすら、『その刃は速い』。

 ジンが見る世界の中で、過去一番に素早いその刀戟に。



「ッ!」



「ほっほ……それでも『回避』は間に合うのか。凄まじいのぅ。

今ので『かすり傷』とはのう」


 首を狙ったその一撃を回避した。だが。

 頬に斜め一文字の太刀傷──頬から流れ滴る血。



「……へっ」

(なんだその技、ヤバいな)


 久しく(まみ)えた本気を出せる相手に対しての悪態に似た称賛を胸で呟きながら。



 ジンは笑った。

 獅子の如く、獰猛に。



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