【19】ガーちゃん VS ハルル ⑥【17】
◇ ◇ ◇
この落とし穴だけどさ。オレが仕掛けた罠の中で、唯一、実験してない。
けども、落とし穴発動と同時に階下に木片が飛び散るのは容易に想像が付くし、落下予想地点に毛布引いてあっても怪我するのは分かり切っている。
から、足から降りた訳だ──けども、痛ぇっ。
腕擦り剥いたし、やっぱなんか木の欠片で左手引っ掻けたみたいだ。サックリ切っちゃったぜ……。こんな、あほらしいことで傷を負ったなんてレッタちゃんにバレたら……。
いや、傷の治療をするレッタちゃんの顔が近くで見れるから、幸せなんじゃね???
……とりあえず、ルッスは今、めっちゃ目ぇ痒い筈。仙日草は燃すと痒み成分がめっちゃ強くなる。
悪戯でも最後の手段だったが、まぁ、あの状況なら仕方ない。
後は、ハルルッスのことだ、追っかけてくるだろう。
木片だらけになった毛布の、木片を蹴飛ばし部屋の隅に飛ばす。
落ちてきた時に少しでも怪我しないようにね! まぁオレの方が怪我しちゃってるけどさっ!
後は、この部屋から出た所の罠にオレが掛からないようにして、外に出れば完璧だ。
黒塗りの鉄紐を握りながら、外に出る。
慎重に後ろ手で扉を閉めて廊下に出た。これで中から開けたら向こうの部屋から酒樽が転がって来る。
二階の罠はほっとんど全部無駄になっちまったけど……一階にもまだ少し罠の準備はある。
大丈夫。まだ今からでも狙い通りに出来る。だから──。
「爆機槍」
◇ ◇ ◇
月も静まる真夜中前。暗い廊下に上階から呪詛のように呟いた声が聞こえた。
身構える間もなく、その次の瞬間に爆音と煙が広がる。
(あー……やっべぇ。そうだよな、そう来るよなぁ……)
ハルルはガーの目の前にいる。
二階の床をぶち抜いて、ハルルは降りて来ていた。
「ガーーちゃぁーんさぁーん」
槍を引きずりながら赤く腫れ上がった目を擦り、ガーに向かってにじり寄る。
(オレがやった結果とはいえ、ルッスが悪堕ちしてしまった! いやゾンビ化!? いや待て! まだ知性は残ってるはずだ!)
「よ、よし。ルッス。落ち着こう。一回さ、落ち着いて部屋に戻って布団とか被りながら談笑しようぜ。な?」
「は、ははは。今更、何を仰います──ッスか」
一閃。槍の刺突を、ガーは辛うじて体を捻らせ避ける。
頬を掠めた。火傷のようなヒリヒリとした痛みがあった。
「あ、危なっ! ちょ、本気で殺す気の一撃じゃなかった!?」
「そんな訳無いッスよ」
(やっべぇ。8割くらい本気の目だ。い、いや、ビビるな。多分、そう見せて本当は手加減を──)
「花天絶景──」
絶景という技は──『疑似的な時間停止』である。
この技は、自身の感覚を引き延ばす技術だ。
そして、訓練によって『自身の引き延ばされた感覚の中』でも移動することが出来るようになる。
つまり絶景を使えない者にとっては、相手が『瞬間移動』したようにも『超高速移動』したようにも見える。
それも、『絶景』を全く知らない相手に使えば、効果は絶大であろう。
(いっ!!? なっ、なんで目の前にルッスがっ! やば──)
ハルルは大きく右手を広げ、槍を外側に向けて構えた。
そして、ガーの横をすれ違いざまに、独楽のように体を回し、振り下ろす。
「──『水切』!」
ガーの膝の後ろ側に槍の腹が叩きつけられた。
つまり。
(超強烈版、膝カックンかっ!!)
「ほげぇっ」
膝を付きながらガーは前のめりに倒れた。
そして、ハルルはガーに近づく。
──ちなみに、無意識である上、ハルル自身も気付いていないが、彼女の『絶景』には少しだけ変化があった。それは『このガーとの戦いによって』引き出されたものなのだが、本人は何も気づいていなかった。
「勝負ありッスね」
「は、はっ……まぁ、一対一で真正面から戦っちまったら、勝てる筈がねぇ訳よ……」
(……さっき、上の階で時計で確認した時は……11時50分だった。今、何分だ……くそ。予定時刻より少し早いけど、もう『準備オッケーな』筈だよな。もう『放つ』か? ……いや、駄目だ。万が一の為に、一応、もう少しだけ時間を稼ぐっ!)
ガーは苦く笑ってから、ハルルを見上げた。
「なぁ、ルッス。気付いてるか?」
「はい?」
「分岐点は、あの三階の『窓』だったんだぜ?」
「何の話ッスか?」
「何、簡単なことでよ。……ルッスは、オレと戦闘せずに、『窓』や『ベランダ』から跳び出して、外に出る方法があったんだ」
「あ」
「そうさせないように、立ち回ったんだ。ルッスから冷静さを奪ってさ」
「っ、でも別に結果的にガーちゃんさんを捕まえましたしっ! ガーちゃんさんなら、私に負けたら潔く皆の居場所を言うと思ってるッス!」
「そうだな。その通りだぜ。オレはそこんとこはフェアだ」
「なんで、潔く皆の居場所を言ってくださいッス」
「へっへ……そうだな。だけどまぁ」
ゴーン、ゴーンと真夜中を告げる鐘の音が響いた。
宿の中に響く古時計のこの音こそ、ガーの最後の仕掛けの合図だった。
一瞬、ハルルが音にたじろいだ時、ガーは即座に入口とは反対側に走る。
(最後の仕掛け──動いてくれよ! 『その正しい挙動』でよ!!)
廊下の一番奥の部屋のしまった扉へ。
そして、ドアノブに手を掛けた。




