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【19】ガーちゃん VS ハルル ②【13】


 ◇ ◇ ◇


 ハルルッスってどんな奴だろうって考えた。

 寝顔こそ可愛い女の子だが、意外とクレイジーだ。

 大好きな師匠と付き合ったことが相当嬉しいんだろう。

 ハルルッスは尻尾振りまくりの犬の如くジンさんに付いて回っている。


 だからこそ。

 目が覚めて、一人取り残されたと知ったら。

 怒ったり嘆いたりするより先に、絶対に、何かあったと判断する。

 犬並みの嗅覚でジンさんたちが王城に行ったと分かっちゃうかもしれない。


 ……骨折してるから休んで欲しくて置いてった。って説明した所で無理するだろうなぁ。

 関わった時間こそ少ないが……何となくわかる。


 理論より感情優先。

 なんで分かるかって? まー似てるんだろうなぁ。好きな人に全力な感じ。

 オレもレッタちゃんに全力だし。


 ってなったらよ。

 時計を確認する。ハッチの処方した薬は後三時間くらい効くって言ってた。現在、夜の9時か。

 ハルルのバケモノみたいな生命力考えたら、後一・二時間で起きるだろうし、そうだな。


 この一・二時間で、出来るだけのことをしてみるか。


 ◇ ◇ ◇


「結局、ハルルッス。お前が起きるまでに二時間あったんだよ」

「え?」


「ルッス。お前は絶対に、起きたらジンさんの元に向かうって聞かないだろ? 

だけど、オレはレッタちゃんに頼まれたことは絶対に遂行したい。

だから、オレはこの二時間で──ハルルッスを逃がさない為のありとあらゆる工作をし尽くした!」


 オリーブオイル塗れの廊下。ここで足を滑らせたハルルは、向かいの部屋に倒れ込んだ。

 そして、倒れ込んだ先には布団が敷かれており、その下に板と滑車で作られた簡易な台車があった。

 倒れ込んだ慣性を利用し、そのままベッド際まで強制的に連行されたハルルは苦笑いを浮かべる。


「こ……こんな壮大な小細工してまで寝かしつけたいと言うんスかっ!」

「おうよ!」

「っ!」

 ハルルは苦笑いする。

 滑車にレール。何回か練習されたと思われる痕跡。

 無駄に手の込んだ仕掛けだ。



(なんという才能の無駄遣いッ……!)



「仕方ないッス……こんなにガッツを見せられたら諦めるしかないッス。

大人しく布団で寝てるッスよね……」


 ハルルはしげしげと座り込んだ。





「なぁあんて、言う訳ないッスよ!! 

意地でもここを抜けて師匠の元へ行くッス!!」





 直後、そのまま扉の方へ跳ぶ。

 床に何か仕掛けがあるかもしれない。だから一足飛びで扉の前に着地──と同時に、べちゃっ、と音がする。


 丁寧に木目に合わせた色が塗られた泥のような液体。


「っ! 接着剤ぃぃッ!!」


「うし! 引っかかったなっ!」


「こんなのっ!」

 靴を脱ぎ、ハルルは廊下に出る。


 ガーの姿が見えないが──オリーブオイルを踏む。

(裸足になったことでオリーブオイルで滑りずらいッスね……ただ)


 廊下の灯りは全て消されている。

 背後の窓と、一番奥の窓から差すうっすらとした外の灯りだけで、視界がとても悪い。


 目を凝らしながら、周囲を確認した。


(私が寝てた部屋は、目の前。階段から一番遠い部屋でした。

ここは古びた宿屋の三階。……階段は一つしかないッス。この階の部屋は四つ)


 最初に居た部屋からは灯りが漏れている。

 だが、罠が何かしら仕掛けてあるかもしれないし、戻る意味がない。

 オリーブオイル塗れの床を歩いて階段に向かうしかない。


(警戒するッス。この暗がりに乗じて何かしてくる筈……)


 ぺた、ぺたと、音を立てながら歩いていく。

 走ると転ぶ。その為、ゆっくりと足を動かして。


 ──風が頬を通り抜けた気がした。

 枕だ。


 次の投げられた枕を片手で受け止める。

 柔らかい枕だ。

「枕投げッスか、なら投げ返……!」


 瞬間、ハルルはしゃがむ。真上を何かが通り抜けた。

 動体視力でそれが何か見えた。枕だったが、受け止めなかった。

 それは、今時珍しい木で出来た硬い枕。当たったら痛いだろう。


「危な……」


 ハルルは立ち上がり、投げたであろう暗がりのガーに向き直る。


「は、ははっ! 最初に小さいの投げて、最後に本命ッスね。

でも、そんな姑息な戦法じゃ、私には当たらな──ごっつんっ!?」


 後頭部に木の枕が『戻って来た』。


 ハルルはしゃがみ後頭部を抑えながら上を見上げる。

 ぶらん、ぶらーんと、揺れる木の枕。

 天井の、カンテラに紐で括りつけられていたらしい。

 投げられた後、振り子の原理で戻って来てハルルの後頭部を狙う為に。


(さ、最初に枕を投げたのは……油断させる為の、誘導ッスかっ……!!)


 次も『何か』が飛んで来た。


「っ、なら、ぶっ壊すまでッス!!」


 ハルルは右手に持った槍で、正確にそれを貫いた。

 枕──ではなく。


「げぶぅ!」


 小麦粉。


 一瞬で辺りが煙塗れになり、ハルルの顔面も真っ白になる。

 そして、ハルルは気付く。結構有名な罠を仕掛けられた、と。


(ポムさんに習ったッス……粉塵爆発ってヤツ!! 

粉がある時に爆発なんて使ったら、宿ごとぶっ飛ぶって言うッ!)


 ハルルは警戒しているが、粉塵爆発は空間に一定量の粉と密閉空間という環境が揃わなければ比較的に爆発は起き難い。

 現状も密閉された空間には近いが、二つほど部屋が空いており、その部屋の窓も開いている。

 粉の量も一袋では引火する程度だろう。


 ただ、ガーにとって、ハルルが爆発を警戒して『爆機槍』の発動を躊躇さえしてくれればよかった。


 ハルルは腕で顔の小麦粉汚れを落とし闇の中を睨む。




「逆に俄然……突破したいと思って来たッスよ……!」




 正面突破。ハルルは、裸足のまま走った。


(師匠曰くっ!! 大抵の罠は、力技で押し切れるッス!!)


「あー、そうだ。

マカリスターの末っ子のように眺めててもいいんだけどよ。

このガーちゃんからのありがたーい忠告ね。

ハルルッスー、裸足は危ないと思うぜー? 

進むより、部屋に戻って布団に入った方が安全だぞ」



 暗闇の中、ハルルは右からした声に意識を持っていかれた。



「なっ」




 同時に、踏む。




「積み木って、踏むと滅茶苦茶痛いよな~。ま、足ツボマッサージと思って、しっかりと踏んでくれ」

 僅かに空いた扉からにっこり笑うガー。

 そして裸足で掌サイズの積み木たちを踏んだハルル。






 ハルルの悲鳴が響き渡った。





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