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【19】ええ光やね【11】


 ◆ ◆ ◆


 命って何なんやろね。


 ウチね、生まれつき生き物の身体の中に光ってる物が見えるんさ。

 身体の中にね、丸っぽい光の塊があってね。ああでも完全な丸の人は()らんくてね。

 強い光だったり、弱い光だったり、色が違ったり……生き物ごとに似た色やけど、よおく見るとそれぞれが違う色に見える。


 光が揺らげば、動揺が。光が陰れば、嘘が。

 ウチには隠し事出来んで~、なんて、十年前の10代のウチが言ったらまだ可愛かったかもやけど、20後半のウチが言っても痛いだけやね。


 命が見える。

 揺らぎで嘘もなんとなーく分かる。心の状態も、感情も、感傷も。


 ……不気味よね。分かるわー。ウチも気味悪かったもん。

 今でも、ウチは、この光が見えるんは気味悪いよ? 誰にも言ったことはないけどね。


 でね。この力は『命を光として見ている』って偉い人に言われてね。

 ああ、そうなのかも。って思ったさ。

 でも、不思議と納得にはなってなかったんは、なんでやろね。


 そこからね。命を光として見ることが出来るから、魔王の身体にある無数の命の個数をも見破れる、って言われてね。

 司教サンのお告げらしいけど、まぁ魔王と戦って来いっていう業務命令よな。実際、それで残機(ストック)は見破れたしねー。


 ウチはね、いっぱい殺したんさ。

 助けられる命を見捨ててさ。光が消えるのを見送ってさ。

 後悔はある。でも自分の中で落とし所が出来てる。


 ただ、その光が消える旅の道すがらにね。

 ウチはたくさん見たんよ。


 小さく点滅して、それでも尚、光ろうとして。

 がんばれ、がんばれ、って応援したくなる光。

 その光って本当に『弱い』んかな。弱いって言っていいんかな。


 もう消え去りそうな、風に揺らぐような光で。

 身体からは脈々と血が流れて、もう助けられないくらいの男性がいて。

 喉が抉られていて。肺も無い。もう喋ることが出来ない筈なのに。『その人の大切な人』に、『大切な声』を遺した時。

 その人の身体の中には、誰より強い光が迸った。

 それで、ぱっと消えた。


 ウチが見ている光は、命……やけど。

 その人の、意志なんやないかな。


 命って、何なんやろか。

 若輩のウチには答えは出んけどさ。


 命の、側面の一つには『意志』がある。って思うんよ。

 意志が命を創ることもある。

 だから、ウチの目さ。もし『人の意志を見る力』なら、嬉しいなぁ、と思うんよね。

 ああ、でも。それやと、《雷の翼》で友達が出来なかったかな?


 だからかさー。

 温かい光が見えると、ついつい気に成っちゃうんよね。

 あ、アラサーおばはんの野次馬根性かもね。いひひ~。



 ◆ ◆ ◆



「凄いなぁ、この紅茶。ウチが淹れた何倍も美味しいわぁ」

「大聖女様のお口にあったのなら幸いです」

「大聖女やのうて、ウィンって呼んでーな」


「い、いえ、それは恐れ多いと言うか」

教会(がっこう)で『ガチの偉人』で教科書に紹介されているような人を名前で呼ぶのはちょっと臆す(チキ)るかな、アタシ。いやまぁ、現れた瞬間は驚きすぎて呼び捨てたけどさ??)


 赤金髪の勇者──に扮するのは、元聖女にしてヴィオレッタという少女の仲間であるハッチだ。

 切れ長の目で微笑みながらウィンを見る。


(大聖女ウィン・アルテミシア様。この王国にいる最高の治癒魔法使いにして、《雷の翼》に所属していた勇者様。弓の腕も一級品だって聞くけど、問題はそこじゃない)


「あ、そうや、ポット一杯分作れん? 無理言ってごめんな」

「いえ、作れますよ。ただすぐ飲まない感じですかね?」

「あー、うーんと。部屋に運ぶんよ。そー、この後、部屋に友人が来るかもしれない? 

的な。だから冷めてもいいような感じのが欲しいんよ」

「ああ、はい、それなら淹れますね」


(嘘下手ぁ……というのは分かり易くていいね)

 ハッチは湯沸かしの魔法が掛けられた硝子のポットの前に立ちながら、生唾を飲む。


(大聖女様は島から出ないって聞いてる。……だから、きっと大聖女様が城に居るのは、ただの偶然じゃない筈。憶測だけど、彼女はルキさんの監視係なんじゃないかな。紅茶は、きっとルキさんに運ぶつもり……なら)


 ハッチはウィンの死角で腰布に隠した小瓶を指で撫でる。

 小瓶の数は4つ。


(今使えるのは……毒薬か、睡眠薬か。ううん、毒は得策じゃない。

ルキさんも飲むだろうし。睡眠薬の方なら)


「なんか友達多そうねー」

「え──?」

「真面目で、気が利いて。ちょっとガサツなのも味よねぇ。友達、多そうやなぁ思ってね」

「あはは……いや、少ないですよ」

「そうなん?」

「はい。今は、4・5人……くらい、ですかね」


(レッタちゃん、ガー、オスちゃん。ハルルちゃんとジンさんも入れていいかなぁ。もし駄目なら動物だけど、ノア、シャル丸で5人ってことで)


「ねぇ、もしも話しぃひん?」

「もしも話?」


「そ。もしも。

もしも、その友達が誰かに誘拐されたら、助けに行く?」


 ごくっと、見えないように唾を飲んだ。

(バレてる。いや、そうだとしたら、もっと直接的に来るんじゃ。なら、とりあえず答える、しか)


「……行きますね」

「そっか。じゃぁ、友達、大切なんやね」

「そりゃ、そうです」

「友達じゃなくて知り合いだったら、どうなん?」

「……それは」





「知り合いにも、命賭けるん?」





(……これ、バレてる、よね。ううん。でも)

 ハッチは、ウィンを見た。

 そこに居る大聖女は、優しい顔をしていて、誰かを追い詰めるような気は一つもないように感じられた。

(もちろん、これが全部演技というか、感情を隠した台詞……だったらマジ怖いけどね)

 ハッチは、ふぅ、と息を吐く。


「……知り合い、には。命賭けたり、出来ないかもしれないですね」

「せやろ。命を賭けるにしては心許ない賭けやね」


「でも。その知り合いに、よりますよね」


 ハッチは、紅茶のポットを持って、机の上に置く。


「昔っから、なんですけど。アタシが何をしたいとか、どうしたいとかって、何にもないんですよ。

ただ一緒に居て楽しいから一緒に居るだけ。アタシって人に流されやすくて。今の位置も、なんとなく居るだけなんです。

それを、指摘してくれた人がいるんです」

「そかそか」

「指摘、お節介ですけどね。でも、優しいお節介でした。

色々と、アタシ自身に考える機会をくれた人で。……大きく言えば、恩があるんですよ」


 ウィンは膝の上にある自分の手を重ねて、静かに微笑む。



「アタシは。受けた恩をどうでもいいや、って思える馬鹿にはなりたくないんです」



「……ほんに、ええ光やね」

「え?」


「ううん。何でもないよ。さてと。

ウチ、そろそろ戻るね。紅茶、ありがとね~」

 ウィンはよっこらせ、と言って立ち上がる。

「あ、はい」

「あ、そうさ。丁度いいねぇ。紅茶、持ってついてきてほしいんけど、いいかな?」

「え?」

「目が良く見えんから、頼みたくてさ~。駄目~?」

「だ、大丈夫ですけど」

(……これ、どっちなんだろ。バレてるのは確定っぽいけど。

見逃してくれてる? それとも、連れ込んで殺される系??)



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