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【19】採用【06】


 ◆ ◆ ◆


 この国には『勇者』という職業がある。

 そして『騎士』という職業は存在しない。

 しかしながら、『騎士』という言葉は未だに存在し、『称号』という扱いで一部の人間たちが名乗っている。


 騎士とは過去にあった職業である。


 勇者法により、軍人も冒険者も旅人も……そして、騎士ですら全てが『勇者』と括られた。


 にも関わらず、いまだに公の場で『騎士』と名乗る勇者は多い。

 それは、騎士に所属する者が全て貴族階級だからであるのも無関係ではないだろう。


 歴史を辿れば、騎士は軍より歴史がある。

 民草を守る自警団から始まり、大戦期には最前線の指揮官。


 また武勲を上げた時に、王から与えられる称号も『騎士』の名を冠する物が多い。

 実際、名称に関しては最後まで『勇者法』か『騎士法』か揉めた程である。


 しかしながら、『騎士で統一にはならかった』。

 『勇者』で統一された理由はひとえに、今の時代で騎士を名乗る多くの者たちに当時の騎士の気高さがないからと言える。


 例外もあるが、ほとんどの騎士たちが『貴族じゃない者を見下していた』。

 つまりは、偏った貴族主義者が多かったのだ。

 貴族主義が悪い訳でも無く、偏見と差別をふんだん(・・・・)に持っていても、この世界では咎められることは無い。


 ただ一つ明確なのは、『痩せ細る』という事実。


 例えば。一般出自の賢者が作った無数の『便利な魔法』。

 例えば。流浪の民が開祖となり(つよきもの)裂く(たおす)為の磨かれた剣の流派。

 例えば。参謀府のお抱えである『混血の超技術者(はつめいか)』が作り出した幾つもの『武装(デバイス)』。



 その全てを『貴族が作っていないから』という理由だけで切り捨てるのは──自身らの『土壌(ちから)』を確実に痩せ細らせることに繋がるのは自明の理である。



 結果、貴族主義を貫き続ける彼ら騎士たちは弱い。

 勇者の階級で言えば、9〜8級……目立つ者ですら、7級が良いところであろう。



 そんな者たちが束になった所で、ヴィオレッタは止まらない。



 ◇ ◇ ◇



 ──そして付け髭の兜だけを残して、上鎧が砕け跳ぶ。

 ヴィオレッタは拳を退いた。

 彼女の拳は黒い手袋を纏っているように見える。

 厳密にはその指の先から肘までが『靄舞(スキル)』を布のように薄く腕に纏わせている。指の先から肘まで、パーティー用の手袋(グローブ)のようだ。



「のっ……つ……強ぉ……」

 騎士は膝から崩れ落ち、頭を垂れるように倒れた。

「お、オフィシャル団長がやられた!!」「団長ッ!」「髭団長!!」「あーあ」






「くすくす──どうする? まだ続ける? 後ろで見てる騎士さんたち、加勢するのかなぁ?」






 ヴィオレッタがくすくすと微笑んだ、丁度その時。


「何やってんだお前ら?」

「あ、おかえり、ハルル。ジン。……あれ、その子」

「説明は後だ。一回王都の外に出る。悪いがこの子の腕の」

「酷い魔法だね。中からの炎上」

「ああ。だから」

「いいよ。一回、出ようか」

 ヴィオレッタとジンはそのまま王都の外へ向かい──いや足早すぎんよ、と叫び声のような悲鳴を上げながらガーたちもその後に続いた。



 騎士団員たちは、まるで嵐が去った後を見ていたような状態だった。



 ともかく、降って湧いた脅威が去り、団員たちは一騎打ちでボロボロにされた団長に駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか、隊長!」

「大丈夫な訳……なかろぅ……」

「そんな」「今までありがとうございます」「惜しい人を無くしました」「次の団長は僕が」


「死んでは無かろう??? っ……何、この鍛え上げられた屈強な三段腹(ふっきん)で、拳など防ぎ切ったわ……っ!」


「強い三段腹?」「いやいや」「かなり遊ばれてたように見えたし」

「手加減されたんだろうなぁ」「でも優しいから口には出さないでおこうな」


「めっちゃ口に出すじゃん部下……」


 団員たちは団長を抱えて歩き出す。

 最寄りの詰所は、第一層と第二層を区分する関所と通称される詰所だ。

 団長をその関所に運び込み椅子に座らせて、騎士団員たちはふぅと息を吐く。


「しかし、強かったなさっきの少女」「ああ、バケモンだった」

「新種の魔物は一緒に居たけどな」「ゴリラ型人間」


 他愛もない会話が続いた。

 一人が、そういえば見た気がする、と声を出す。

「手配書に居なかったか、あんな顔の子」「いたっけ?」「あの壁に貼ってある子じゃね?」


 酒樽の上に手配書(ビンゴ)があった。

 屈強な男たちや半人(デミ)たちが並ぶ中、一際異色な手配書があった。

 カメラ目線で、ウィンクをした少女。


 金貨100枚以上の懸賞金でA級と呼ばれる賞金首の中で、昨今の最大懸賞金である金貨500枚を打ち出されたその手配書。


「……あの手配書、さっきの子じゃない?」

「ヴぃ、ヴィオレッタっ!」「おい、ヴィオレッタだって?」「あのA級賞金首のヴィオレッタか!」

「確か南の国境破壊とかした?」「その後、捕まったって聞いたけどな」「馬鹿、脱獄したんだってよ」


「や、ヤバいよ! これ、すぐに参謀府に大至急で連絡を──」



「ば、馬鹿者っ!」



 腹を抑えながら騎士団長は声を荒げた。

「連絡は、するな」

「え、いや。しかし、団長!」

「駄目だっ! 考えて見ろ! 今日は三層から一層まで、全部『騎士団』の仕切りだ! どういうことか分かるかッ!」

「はい! 我々が獲得した昇格のチャンスです!」「色々根回ししてなぁ」「苦労したよなぁ」


「違うッ! それはあってるが違うッ!! 痛てて……」

 騎士団長はまだ鈍く痛む腹を抑えながら立ち上がった。

「今、……我々がここで『ヴィオレッタが現れた』と連絡したらどうなると思う?」

「軍部から勇者がたくさん来てくれるです!」

「馬鹿っ、三周回ってマジの大馬鹿っ……!!

ここは第一層だぞ! 第三層、第二層を跳び越えられる訳が無いだろう……?」

「……は!」「あ~」「アイツら手抜きしたなぁ~」



「そうだ……。我ら騎士団の検問が『ザル』だったことの証明になってしまう。

検問もまともに出来ないのかと、軍部の人間に揶揄されれば……騎士団は終わりだ」

 団長は苦々しく吐き捨てる。




「じゃぁ、どうしたら」「一応、国に伝える方が」「いっそ隠蔽しちやえば?」「え、流石に」


「採用」


「「「え?」」」


「採用だ……!隠蔽しよう。それがいい」

 団長はぐっと拳を握った。

「ま、マジですか」

「大マジだ! よく考えて見ろ……あいつら、何か分からないけど『王都を出た』ぞ」

「そういえば、そうですね」

「今、居ないなら……証拠はない……! おい、すぐに騎士団全員に通達。我々はヴィオレッタと交戦もしていないし『見てもいない』」


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