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【19】いっそのこと王様拉致っちゃお大作戦【02】


 ◆ ◆ ◆


 王城の周りには堀がある。

 水が張った堀ではなく、単純な溝的な堀だ。


 ここが王都になってから改めて作られた堀は人間が走り幅跳びで越せないであろう程度には広い堀になっている。

 溝の底だが、石畳が引かれている。踏んだら跳び出す槍か、はたまた落とし穴か。

 何かしらの罠が仕掛けてあるのは間違いないだろう。

 物理的な罠なら搔い潜れるだろうが、魔法的な罠だったら落ちた時点で相当厄介だろうな。

 ともあれ、落ちないようにするのが最適だ。


 次に橋。

 橋は東門に当たる中央の正門、それから西にあたる裏門の前にだけある。

 夜間は裏門の跳ね橋は上がっている。

 裏門は基本的に使われない為、施錠もされているそうだ。

 だが、正門に次ぐ唯一の出入り口である為、門の内側に警備が常駐している。


 無論、正門にも夜間の警備近衛たちが計二十人以上詰めている。

 王国は、伝統的(・・・)に守備が下手な国だ。

 守備より攻撃に重きを置く文化性とも言える。

 だが、そんな国であっても王国の中心、王城の警備だけは万全を期しているのが分かる。



 ……と言っても、やはり、守備が下手な国の万全。

 警備体制は『出入口の完全警備』と『王の寝室の警備』くらいだそうだ。



 さて。最初の問題である距離四メートルくらいの幅の普通の人間が越えられなさそうな堀。

 これの突破だ。この突破方法は考えてある。知能犯だ。


「よし、行くぞ。しっかり捕まってろよ」

「わ、分かったのだ」


 ──背中に少年王子を乗せた状態で、加速。



 『力技で跳び越える』。



 知能犯と言ったな。あれは嘘だ。

 続いてもう一組も『力技で跳び越えた』。

「ご、ごめんね、背負わせちゃって」

「くすくす。全然平気だよ。ハッチ軽いもん」

 俺たちは上下黒色で統一した服を着ている。

 ヒラヒラした服が好きなヴィオレッタですら、背負っているハッチとおそろいのズボンスタイルだ。

 厳密にいうと黒眼鏡(サングラス)まで掛けて諜報員の格好(スパイ・スタイル)らしい。



「んもぅ。貴方達、潜入は超人技で解決しないでよんっ。じゃないとぉ」



 おお。俺達の頭上を見事に跳んだのは縄付きの鉤爪。鉤縄という道具だな。

 高所に登ったり縄を張ってこういう溝を越える為に使われる乱破素破(にんじゃ)道具だったはずだ。

 本当に元隠密稼業(そのみちのプロ)なんだな。



(あたい)が潜入の引率者の意味が無くなっちゃうじゃないっ」



 筋骨隆々。俺より背のある元隠密(にんじゃ)

 身体は男だが、心は女性(というのが俺の認識だが厳密には違うのかもしれない)──ヴァネシオスだ。


 纏う衣服は……ニジイロクワガタのような七色の光沢のあるド派手なワンピース。

 忍者の額当て、もとい、黄金に輝くスカーフを鉢巻のように額に巻いている。

 どこで買うんだろうな、そういう服とそういうスカーフ。


「……本当に隠密(プロ)だったのか疑いたくなる程の派手さだな」


「失礼ねぇ! プロ中のプロよ! ふぅ、素人の子猫ちゃんねぇ、貴方。いいこと? 

本物のプロだからこそこれくらい派手な服装をしてもバレずに潜入できちゃうって訳ヨ」


 な、なるほど。

 一理あるようにも聞こえる。


「……まぁ、確かにさっきの鉤縄使いは上手かったな」

「でしょ! (あたい)、縄を使った前戯(プレイ)、超得意なのよ!」

「? 縄を使った遊び(プレー)? 何なのだ、それは」

「おい、俺の背中の王子(7歳)が興味持っちまったじゃねぇか」

「教えてあげるワ。きっと素養があるワヨ!」

「おーい、ハッチ、こいつどうにかしてくれ。お前保護者だろー」

「アタシに振らないでよっ」

「くすくす。仲いいねぇ」

 よくねぇよ……。


「ま、いいわ。SM入門は後日丁寧にやるとして。

まずは、さっさとやっちゃいましょう。王子ちゃん、どの窓かしら」


「あの二階の三つ目の窓なのだ! 

丁度、上の階の窓には鉄格子があって、いつもそこに布を引っ掻けて降りていたのだ。

……でも」

「うん? どうしたのかしら、王子ちゃん」

 ヴァネシオスが訊ねると、ラニアン王子が目を細くする。


「こんな暗い中で、ひっかけられるのだ? あの鉄格子……。

打合せの時にも話したのだが、あの格子の隙間は余方(わたし)の拳程しか隙間が無いのだ。

手が滑って窓を割ってしまったら……」


「あら。心配してくれるのねぇん。可愛い。ありがと! でも、大丈夫よん」

 ヴァネシオスは自信満々に鉤縄を回転させ投げた。


「猫の眉間くらいの隙間さえあれば、(あたい)の鉤縄、外さないわよん」


 音が無かった。

 俺は素直に驚いたし、何て言うんだろう。

 綺麗な武術を見た時に思う凄いっていう気持ち。ああ、感動か。


 無駄のない投げの技術は訓練された賜物だろう──一つの音も無く、その鉤縄は三階の窓際の鉄柵に引っかかった。


「凄! オスちゃん、あんた、本当に忍者だったのねっ!」

「ハッチにまで褒められちゃうなんて、(あたい)嬉しいわぁ」

「くすくす。綺麗な投げ技。ジンが腰抜かしてるよ」

「抜かしてねぇよ。まぁ感動したけどな」

 綺麗な技っていうのは素直に感動しちまうんだよ。

「え? (あたい)に腰砕かれたい? え? 腰振っていいって!?」

 綺麗な技に、汚ぇ発言……。


 ……ため息一つしてから、俺は一歩前に出る。


「よし。じゃあ、始めるぞ」

「『いっそのこと王様拉致っちゃお大作戦』。くすくす、開始ね」


 おお! と小さく鬨の声を上げるラニアン王子に、ハッチとヴァネシオス。




 ……俺が言って締める所だった気がするぞ、ヴィオレッタァ!




 まぁ、いいか。ヴィオレッタ勢が多いし。

 ──そう、俺たちは今、王城に『不法侵入』して『王様を拉致る』作戦をしている。


 それも、ナズクルと接触したその日の夜に、である。

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