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【18】交渉【39】


 ◆ ◆ ◆


「何だったんだ、今の。空になんか塊があった気がしたんだけど」

 一瞬で消えた。オレの見間違いか??

「くすくす。派手な戦闘だねぇ」

「あ、やっぱり戦闘??」

「うん、そーだね。でももう終わったみたい」

「空気の震え方ヤバかったわね……今のあれかしら。爆弾の魔法かしら」

 空気震えたか? オレは感じなかったが……。

 腕を組んだのは、ハッチ。今は警護人(エスピー)みたいなカッコに黒眼鏡(グラサン)をしている。そんなハッチが苦笑いすると、レッタちゃんが首を横に振った。


「今のは氷の魔法だったよ」

 オレの隣に立って神妙(かつ愛くるしく、そういう知的な憂い顔も本当に可愛さ無限大)な顔を浮かべているレッタちゃん。

 黒いレースと刺繍で繕われたみたいなドレスを着ている。

 しっかりと身体のラインが出てて、細い足がミニスカートからもう大胆に、それはもう、大胆に露出しているのだ。

 もうね、絵画だよ。可愛さが。分かる? 分からなくていいけど、もう可愛すぎて死にそう。目が釘付けで息が荒くなるぜ。

 っと。隣で赤金髪のお目付け役系女子であるハッチ様が睨んでいるのが見なくても分かるぜ。

 背筋を伸ばしますよっと!


「え、氷の魔法だったの? 全然わかんなかったけど」

「私は見えた。……氷の造形魔法だね。くすくす。ルキは水の造形魔法で巨大な槍作ってた。

アレみたいなやつ」


「そうなのか?」 オレは知らないけど、レッタちゃんは心当たりがあるようだ。

「うん。ただ、あの一瞬であの量作れるのは凄い。目測だけど2万から3万はあったよ」


「え? 2万から3万って……何が?」

「氷の矛かな。それを一度に叩き付けてた」

 ……えー。どういうことだ。想像し難い。


「普通なら骨も残らず死んじゃうね」

「まじか」

「でも、多分……ジンが止めたね。じゃないと町が壊れてないのが変」

 そうか。ジンさんヤベェなぁ。


「ねぇえ? 助けに行かなくていいのかしらん??」

 いまだにメイド服を着用している筋肉魔女男(マッヂョマン)のオスちゃんが問う。

 レッタちゃんはくすくすと笑う。


「別に、助けに行かなくてもジンならこれくらい負けないと思うけどなぁ」

「まぁ、確かにそうだけどさ。一応、一緒に行動してるし」

「それはそーだけど。ただね。退路確保しておいた方が賢明かなぁって思うんだよね」

「え??」

「嫌な足音がたくさんする。勇者の群れだね。くすくす。流石に多勢に無勢は嫌かなぁって」



 ◆ ◆ ◆



「ユウ。分かっているとは思うが、暴れるなよ。暴れたら脚の5・6本叩き折るからな」

「等脚類じゃないんですから、そんなに脚持ってないですよぉ……」

「じゃあ手も含める」

「それでも足りないんですよねぇ……」

 ジンはユウの腕を後ろ手で縛り上げる。


「痛たたたたっ、隊長ッ! 容赦、容赦ッ! 捕獲した相手の腕折れるッ!」

「折れろ。どうせ高魔力の人間は回復が早いんだろ。誰かから聞いた」

「いや、それ回復魔法の効きが良いってそういう話で……まぁ確かに結果的にそうだけどっ、……! 

ちょっ! そんな荒縄で皮膚、痛てててて」


「うちの従業員が世話になったからな。

もうちょっと痛めつけてから倒すべきだったと今更後悔してるんだよ」

「それただの八つ当たりィっ!」

「あんまり暴れるなよ暴れたら──あ」

 ユウの肩の辺りからあまり聞かないようなバリンという音が響いた。

 彼の耳にはガラスでも割れたように聞こえただろう。肩と腕の筋肉が外れた。

 あくまで一時的なお別れであるが、丁寧かつ激痛が残るようにわざと調整された腕外しはユウの目を白黒させるには十分であった。


「あんましっ……こんなカヨワイ捕虜を痛めつけるとっ……痛たたっ! 

こ、交渉の時に弱みになりますよっ……」

「はっ。交渉? 王子は取り返したろ。何の交渉だ──」


 ジンはそこまで言葉を出してから、自然と口が止まった。

 捕虜という単語と交渉という単語から、ジンはすぐに嫌な連想が出来ていた。


(ユウはブラフを使うヤツだが間抜けな虚勢は張らない。それも俺相手なら。

……つまり『この後、交渉がある』というのは真実として。……交渉が成り立つ前提。

俺の手にはユウ。なら──)





「ルキ・マギ・ナギリを、拘束している」





 その低い声は──ジンのよく知る人物であった。

 空間が蜃気楼のように歪んだ。転移魔法の歪みだ。


 王都内には暗殺防止の観点から『転移魔法を使えなくする不響(ジャミング)』が施されている。

 だが、完全に使えない訳じゃない。

 ルキのような超次元魔法使いの魔法による『力技』を除けば、この王都で『転移魔法』は二種類の方法で発動出来る。


 『王族専用の杖』を用いて使う方法。王族の杖には不響(ジャミング)を無効化して魔法発動を行う術式が組み込まれている。王族の暗殺回避用である。


 そして、もう一つ。職務上に必要という観点から疑似王族の杖である『鍵』が存在する。

 参謀府のみが使える鍵であり、それを用いれば王城を除く場所への転移魔法が許される。


 つまり。

 堂々と転移魔法を使って来れる人物は、ただ一人しかいない。



「ナズクルっ……」

「ジン。ユウを返して貰おうか」


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