【18】ルキ VS ナズクル④【25】
◆ ◆ ◆
ボクは、キミが嫌いだ。
喋り方が鼻に付く。気取ってる感じが妙にムカつく。
ボクに対して言いたいことがあるのに言わない所が嫌いだ。
ボクの性格まで加味して、言い返さないで、それすら作戦に織り込んである感じが、厭味ったらしくて嫌いだ。
ボクは、あんまり感情を表に出さないタイプだった。
だから、ボクから直情的な感情を引き出させるキミが、大嫌いだ。
誰よりも早く起きて、剣の鍛錬をしていた。剣術では隊長に敵わないと、剣の試合でボコボコにされたキミは語った。
強さを分析してあれは人間じゃないと自虐した癖に、それ以降毎日欠かさずに鍛錬をしていた。
誰にもバレないように、足跡や寝袋まで偽装する徹底ぶり。
誰も届かない高い頂き。名前の通り雷降り頻る高き山。
人は、馬と走りで競わない。『比較』とは『近い物』としか出来ないからだ。
だから、剣呑な山の麓に触れた時、誰もが笑って諦める。彼には勝てないと、自虐を吹く中で──どうにかして最強に追いつこうと、キミは真剣な眼差しを向けていた。
キミのその眼差しがあったから《雷の翼》には、『真剣』な仲間が一気に増えたんだとボクは思っている。
ボクはキミが嫌いだ。だけど──
◆ ◆ ◆
俺はお前が嫌いだ。
言い回しが鼻に付く。キザったらしい言葉遣いが気に食わない。
立てた作戦には難癖付ける。言葉に配慮の欠片も無い。
正論を言うことが正しいと信じて止まず、言い返すと五倍にも十倍にもなって返って来るのが面倒だ。
特に、第三者が話に絡む時、こいつは本当に面倒くさくなる。
作戦を無視すればお前の命が危ない。そんな極限の状況下でさえ、作戦を無視して人助けをする。
仲間の鬼人がある村で魔族女と差別的な言葉を浴びせられた時、誰より先に怒って喧嘩したのはお前だったな。
正面立っての喧嘩は嫌いな癖に、そういう時だけ誰より素早い。それで相手をぶっ飛ばした後、震えを隠していたりするのがまた面倒だ。
自分のことはぐっと堪えて後で怒り散らす。だが誰かのことになると当事者よりも感情を露わにする。
我儘で、自由奔放。野良猫を連想した。だが、ただの野良猫じゃない。
誰にでも喉を鳴らすことは無い。腹が減っても貰う相手は決めている。決して群れに染まらず自分を貫く。気高い野良猫だ。
そんなものもう面倒くさいと形容する以外他になにがある?
誰に対しても本気で向き合い、どんな相手をも助けようとする覚悟がある。
俺はお前が嫌いだ。だから──
◆ ◆ ◆
「炎と水を合わせれば、どちらの性質も消滅し、霧を生む。
俺たちみたいじゃないか。お互いが揃えば衝突し合い煙となって消滅するのだからな」
霧は濃かった。室内に突如として拡散した霧は視界を奪う。
同時に、この霧は『ルキの透明化』を暴く。
(っ! 居場所を! マズい、一旦この場を離れて──)
「樹氷を、知っているか? 雪禍嶺近くの大雪原辺りで見たあの光景が忘れられなくて、今でも好きな光景の一つだ。だから『それをイメージ』したのだが」
「な──ッ!」
ナズクルの言葉に反応したつもりはなかった。だが、身体の異変に気付き、自身の脚を見た時に、思わず声を出して驚いてしまったのだ。
「上手い具合に、凍ったようだな」
(何故、いや、あの霧かッ!)
「樹氷の原理の一つを真似た。『着氷性の霧』。氷点下で発生した霧が、枝葉に衝突し徐々に氷を蓄えさせる。それを加速させたスケールで行えば相手を捕らえる魔法となると思ったのだが。ふむ。実験は成功だな」
ナズクルは、階段の下から見上げる。
踊り場の辺りに氷が見えた。それはまるで展示されたブーツのような氷。
その手の銃をゆっくりと構える。
この距離なら、外すことは無い。
銃声は一度。
その一撃は『氷を砕いた』。
「ッチ」
同時にナズクルは、舌打ちをした。
(ダミーだ。氷で身動きが取れなくなった直後に、氷の造形魔法で自分と似た背丈の氷人形を作ったのだろう。だが、霧の発動からそう遠くへは逃げられない。ルキはどこに)
ナズクルは上のフロアを見た。
(上に逃げたか。……体格差もある俺と正面戦闘はする筈がないか)
ナズクルは階段を上る。足元を凝視し、警戒を怠らない。
(今、俺が最も避けたいのは、『設置系の魔法』だ。
ルキの魔法の真価と言ってもいい。
さっきのように術技を含めた罠が設置されていれば恐ろしい。
無音と透明化で設置された『地雷魔法』なんて、想像するだけでも面倒だ。そうして俺を損耗させれば、ルキはいずれ必ず勝利できる。
こうなると、なるべく早くルキを発見しなければ──)
「ナズクルッ!!」
「なっ!?」
そして、『真正面』から鋼鉄の右拳がナズクルの顎に突き刺さった。
背中から地面に叩き付けられ、ナズクルは肺の空気を吐き出す。
「炎と水を合わせれば、どちらの性質も消滅する。そう言ったね……」
ギシギシと、軋んだ音が鳴っていた。肩で息をし、鋼鉄の義肢を強く握り締め、ルキはそこに立っていた。唇を強く結び、ギリッとナズクルを睨む。
「ボクらは、炎と水だ。だけどそれでも、仲間だろうッ!
消滅する訳じゃないッ! 沸騰して強く形を変える! そういう仲間だった筈だろ、ナズクルッ!!」




