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【18】ルキ VS ナズクル③【24】


 赤黒く燃える炎の蛇。それは、『生きていた』。

 シュロシュロと舌を出し、それでいて『炎の魔法だ』と認識できる。


(なんだ、その魔法は──)


 その暗く燃える炎を、ルキは観察した。

 ルキは『人間が作り出した魔法』の全てを知っていると豪語出来る。その理由は、人間の魔法には基本的に『基礎となる魔法』があるからだ。

 有名な『火・水・土・風』の四大元素に、『回復・強弱化』の属性を加えた六種の基本的な魔法が存在する。多くの魔法は、それらの掛け合わせ、または足し引きしていくことで作られる。

 それが原則であり限界だ。


(どうやったら生物のような動きを。組み合わせ……いや、違う。そうか、これは『尺度』が違うか)


 ──ルキはすぐに観察を終えた。


「……キミは、魔族の魔法を使えるようになったのか」


 『人間の魔法ではない』。

 なら答えは単純だ。魔族の、それも『魔王の魔法』だ。


「練習は必要だったが、【魔王書】を発動すれば使用できる」


「……キミはッ。あの日、人間が作った大量虐殺魔法に対して、本気で怒りを持っていた」

「そうだな」

「キミは、世界から悲しみが無くなる様に、戦争を終わらせると本気で言っていたじゃないか」

「ああ。終わらせた」

「なのに。魔王の力まで得て、また戦争をする気か、ナズクル」

「そうなるな。また戦争をすることになる」

「……本気なのか」

「本気だ。失くしたもの全てを手に入れる為には、こうするしか他に無く、こうしなければならない」

「人が死ぬんだぞ」

「そうだな。だが人魔戦争よりか数は少なく終わるだろう。計画は綿密に」


「命を数で数えるなッ!!」


 最早、詠唱すら無かった。

 怒気で放った魔法は、力任せに殴ったような拳撃と似ている。

 形と呼べる形はない。風魔法に近い空気の塊がナズクルの身体を押しやり、壁に叩き付けた。


「っち、『炎蛇(ほへび)』ッ!」


 ナズクルは蛇を天井へ放る。天井にべたんと大蛇が張り付いた。

 腕程に太く、人の背丈ほどに長い大蛇は身体を捻りながらシュロシュロと舌を出し──天井を張って進んだ。


(物理法則無視とか、もうその辺では驚かない。炎の質量を持つ、生きた蛇なんだろう。無茶苦茶だがそういう解釈で行く。そう言えば聞いたことがあるな。蛇は温度変化で相手を見つけられると)


 ルキは透明化している。

 ただその透明化の魔法は万能ではない。

 あくまで姿が相手から見えなくなるだけ。その場にルキの身体は存在する。


(あの『炎の蛇』がどういう効果を持っているか分からない。探査系か攻撃系か不明。距離を取ってその行動を予測するのが定石──と、考えるのが普通だ。だが分析すれば効果の推察など、容易)


 ルキは指を大きく振り、空中で輪を描く。


(地面を這いながらこちらへ向かってくるという『足枷(デメリット)』がある時点で、攻撃範囲で発動する系か反撃(カウンター)系の魔法であることは間違いない。故に)


「打ち付けろ『固定の矢(ポーズ・アロー)』」


 まるで雷のような光が一閃した。それはまだ光を持つ赤く光る鉄の矢だった。

 壁の鉄を凝縮し、加熱されたその矢で蛇の胴を上から地面に縫い付けた。

 炎の蛇がまるで蚯蚓のようにのたうつ様を横目に、更に手をくるりと回す。

 鉛色に光る鉄の矢を、ナズクルの背後から嗾けた。


 ナズクルはその場にしゃがみ込み回避した。


(なるほど。理解してきた。よくある制限まで付いている。『炎蛇』は高性能な攻撃能力を有しているようだが、発動中は他の魔法は発動出来ないと見える。ボクの矢の魔法で身動きを封じたのに解除しないということは、即ち、条件達成か魔力切れまで解除できない類!)


 ルキの魔法の読みは、八割以上の正解だった。

 ナズクルの放った『炎蛇(ほへび)』は相手を追尾追跡する魔法であり、至近距離で効果を発動する。


 ただ、解除は出来た。──ナズクルは、解除しなかった。


 ルキはすぐさま手の中で次の魔法を編み終わる。


「硬度は鉄。性質は蜘蛛の糸。貼り付けろ『接着の糸(ペースト・ウェブ)


「なっ。ちっ!」

 それは鋼鉄の蜘蛛の巣。


(魔法発動が早すぎる上に、透明化で背後に回れると対処が出来んな)

 左足が床にべったりとくっつき離れない。

 空気が切れるような音がした。来ると直感し、ナズクルは『判断した』。ぐきり、と嫌な音が体に響く。無理矢理、左足を捻り身体を真横に倒した。


 その一瞬でナズクルの頬に掠れたような痛みが走った。

 ナズクルは知る由も無いが、それはルキが作った見えざる風の鉄槌(ハンマー)だった。

 身体を横に避けていなければ後頭部へ命中し意識が狩り取られていたであろう。

 頬に擦りむいたような血怪我。その怪我には目もくれず、左手を伸ばし足元の鉄の蜘蛛の糸を、熱する。焼き切る。


 ルキはその時、丁度ナズクルの頭の上を飛び越していた。

 飛行の魔法で、さながら空を泳ぐ魚のように自在に飛び回る。


(動きを殺した。後はこのまま、無力化するだけ!)


「流石、賢者ルキだな。無音と透明化は、本当に恐ろしい魔法だ」


 ナズクルが腕を動かす──より素早く、その腕が地面に吸い寄せられるように縫い付けられた。反撃防止の為に風圧の魔法で抑えつけていた。



「熱は……伝う。割れて、焦土を生み出せ、悪魔!」



 ナズクルの合図(ことば)と同時──炎の蛇が悲鳴のような声を上げた。

 ゴッと詰まったような音を上げ、炎が一気に燃え広がる。それはまるで波のように床全体に広がった。


 ナズクル自身の身体も炎が撫でる。この階の床全体が赤黒く燃えていた。


(なるほど。消滅した時に地面全体に炎を撒く魔法だったか。全体攻撃でなら捉えられると思った訳か。ならば残念。運が無かったな。ボクは飛行魔法を使っている。その程度では)


「ルキ。お前は最高の魔法使いだ。

俺では、魔王の魔法を使っても見つけることが出来ないのは分かっている。

故に、少しだけ捻ったんだ」


 彼の左手の周りがキラリと光りを反射した。

 その独特な、粒だった光り方をルキは知っていた。



(極低温……氷点下に至るほどの冷気の魔法。

いや熱の魔法で空気の温度を下げたのか? 空気の温度……)




「上手くいけばいいがね。地面に蓄えられた熱が放射され、冷気によって生まれる自然現象」




「……!」



「霧だ」



 それはたった一瞬で広がった。

 水蒸気のような霧。それはまるで爆炎の如く一瞬で広がり、階層全体を覆った。



 

 

 




◆ ◇ ◆


いつも読んで頂きありがとうございます!

いいねやブックマーク、それに評価も、とても励みにさせて頂いております!

本当にありがとうございます!


明日の更新ですが、夕方以降に掲載とさせていただくかもしれません。

作者都合で申し訳ないのですが、明日、泊りがけでの深夜労働となってしまい

作品が間に合わない可能性が高い為です。極力、間に合うように頑張ります。

私事で誠に申し訳ございません……何卒、よろしくお願い致します。

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