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【05】ポムのこと、よろしくね【08】


◆ ◆ ◆


今、俺たちは、この駅で乗り合い馬車を待っている。

 駅といっても雨風を凌げる屋根みたいなものがあるだけの簡素なもので、王都から北部にかけて走る蒸気機関車の駅舎とは全然違う。


「じゃあ、また義足の運搬をお願いすると思うから、その時によろしく頼むよ」

「ああ。分かったよ」


「今度、交易都市にも遊び来てくださいッス!」

「そうだね。ポムッハを尋ねた時には遊びに行かせてもらうよ」

「おいおい、俺んち、人に見せられたもんじゃねぇぞ、狭すぎて」


「ふふ。二人の愛の巣にお邪魔するのは確かに気が引けるね」

「お、お前なっ」

「ふふ。冗談さ。たじろぐキミが見れてよかったよ」

 飄々と笑うルキに、俺は腕を組んで溜息を吐いた。


「そうだ。渡しそびれる所だったよ。これ」

「ん。ああ」


 ルキから渡されたのは、例の銀の剣だ。

 彼女の義足を使って作られた銀剣。

 今は、しっかりとした鈍色の鞘に収まっている。


「鞘、ありがとうな。これで持ち運べる」

「ふふ。礼には及ばないさ。造形魔法はボクの最も得意とする魔法だからね。朝飯前だよ」

 ルキは満足気に微笑んだ。


「大切に使わせてもらうよ。まぁ、俺が剣を使うタイミングがもう無いがね」

 勇者法とやらが、一般人の戦闘行為を固く禁じられている。

 ルキはあっけらかんと笑った。


「バレなきゃ問題ないよ」

「それ、賢者の言葉か?」


「まぁ、いよいよとなったらハルルに貸して、戦ってもらえばいいだろうね」

 ハルルが餌を目の前にした子犬みたいに目を光らせた。


「え! 借りていいんスか!」

「もちろん。師弟二人で仲良く使ってくれ」

「壊すなよ」

「えへへ、壊さないッスよ~!」


「刀身が薄い剣の使い方は?」

「防御に使用は不向きであり、速度に乗せて攻撃をする! そして、可能な限り太刀筋をまっすぐにし、力を分散させないこと、ッス!」


「よし正解」

「とはいえ、未だに、太刀筋なんてうまくいかないんスけどね」

「そうだな。槍の方が上手いし、剣は二の次。とはいえ、剣の訓練は続けるからな」

「はいッス!」


 ちなみに、ハルルには言えないが、この銀の剣、こいつには少し荷が重い。

 俺が使うことを前提にルキが魔法で作った為、普通の剣より軽量化されている。


 あの短時間で、そこまで考えて剣を作る、なんて、流石、超一流魔法使いか。

 ともかく、刀身が薄く、剣も軽すぎる為、ハルルが無茶な力を加えたら、砕け散ること必死だ。

 

 本人に、そんなこと言ったらムキになって剣を振り回しそうなので、言わない方向にする。


「まぁ……そうだ。ポムが新しい槍を作ってただろう?」

 新しい槍?


「なのだー! 色々、機能が詰め込まれた最強の槍なのだ!」

「それの試作品、ハルルに渡したらいいんじゃないか? データにもなるし」


「確かになのだ! ハルルー! 交易都市に戻ったら実験中の試作品を使ってほしいのだ!」

「え、えっと。気持ちは嬉しいんスけど」

 ちらりと俺を見るハルル。


 ああ。ハルルの手に握られてる槍を見て納得した。


「ハルル。気にせずにお借りすればいい。武器は何個もあっていい」

「そ、そうッスか! えへへ。じゃぁ、遠慮なく、お借りしたいッス!」

 俺があげた槍があるから、悩んだみたいだ。

 まぁ、武器は何個もあっていい、のは本心だ。


 どんな相手と戦うにしても、こちらが使える選択肢は多い方がいい。

 ふと、馬車が近づいてきたのか、鐘が軽い音を鳴らした。


 ルキは、ハルルに近づき、彼女の頭を撫でる。


「ポムのこと、よろしくね」

「は、はいッス!」

「ポムも撫でて欲しいのだー!」

「ふふ。はいはい」

 女子三人、仲良くなったみたいでよかった。


「ジンも。ポムのことをよろしく頼むよ」

「ああ。分かった」

「ふふ。キミも撫でようか?」

「っ……遠慮しとくよ」

「ふふ。照れて可愛いじゃないか」

 ルキにはいつもからかわれっぱなしだ……。

 馬車が到着する。

 馬が二頭。結構大きめの馬車だ。


「お師匠様! また来月、会いに来るのだ!」

 ポムがルキに抱き着いた。

「ふふ。ああ、楽しみにしてるよ」

 ルキはポムを撫でる。

 本当に、二人は師弟でありながら、家族なんだな。


「お師匠様! またなのだ!」

「お世話になりましたッス!」

「ああ。二人とも。また近いうちにね」

 手を振るルキ。

「じゃ、またな」

「ああ。キミもまたいつでも来なよ」

「そうするよ」

 微笑んだ。

 会えて良かった。

 素直に、そう思えた。


◆ ◆ ◆


 で、馬車の中。

 この二人は、よく寝ている。

 ポムはハルルの肩を枕にし、そのポムの頭をハルルは枕にしている。仲のいいことだ。

 滞在中に聞いたが、この二人は殆ど同い年だそうだ。


 まぁ、朝も早かったし、仕方ないのだが……ハルルよ。お前は護衛だろうに。

 ……まぁ、行きで相当、よく頑張ったってポムから聞いた。

 帰り道くらいは、俺が手を出すか。


 俺の『迅雷(スキル)』は、自身の体の一部、または全身を雷化することも出来る。

 それだけではなく、雷系の魔法や能力を向上させる。


 その恩恵があり、魔法があまり得意ではない俺でも、一部の雷系を付加できる魔法なら、強力なものを使用できる。

 『索敵(ソナー)』の魔法が特に顕著だ。

 通常で使えば、半径5メートルが限界な魔法なのだが、術技(スキル)発動状態の【雷域索敵(ソナーボルト)】なら、俺を中心に半径3㎞程の範囲を索敵できる。


 ──余談だが、ルキの索敵は、嘘か本当か、本気を出すと半径10㎞行けるらしい。流石、大魔法使いだ。


 【雷域索敵(ソナーボルト)】。

 森の中を行く、怪しげな影が五人ほど見えた。

 おもむろに立ち上がる。今日も、このルートの馬車のお客は少ないし、大体が王都に到着するまで暇をしており、眠っている人も多い。

 だから、立ち上がっても、誰も気づかない──いや。


「ししょー……?」

 ハルルだけ、目を醒ましたようだ。


「寝てていいぞ」

「えー……いえ、護衛ッスから」

 とろんとした目。かなり眠そうだ。

 実際、絶景を修得する為に、相当、ハードな練習だったしな。

 三日間、死の淵にさらされ続けるのは、精神も体力も相当、削れるものだ。


「気にするなって」

 そんなわけには、と立ち上がろうとする、ハルル。

 やれやれ、と溜息を吐いて、ハルルの頭を撫でる。


「じゃあ、この荷馬車を中で守っててくれ。外は俺がやってくるから。入ってきた敵を倒すように」

「りょうかいッス」

「ん。任せた」


 そう言ってから、俺は馬車から飛び出した。

 『迅雷(スキル)』を発動し、自身を雷化。空中へ跳び出し、幌の上へ──さてと、と、しっかりと紙袋を被る。


 いざ、山賊退治と行こうかね。


 

◆ ◆ ◆

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