【18】行ってもいいでしょうか?【16】
◆ ◆ ◆
……確かにそれは盲点だな。というか、そんな抜け道があったのか。
「まぁ、誰だって考えつく抜け道だよ。それに多用は出来ないしな」
まだ体が温い湯上り。俺たちはガーの作戦を聞いていた。
「なるほどな。確かにそれならかなりの確率で抜けられるな」
「だろ。というか抜けられなかったことないぜ」
「しかし……王都の関所の仕組みを熟知してないとそんなの気付かないだろ。
なんでお前がそれを知ってるんだ?」
「え? ああ、オレの昔の知り合いの技だよ。悪いことはよくしてたからな」
「問題はその協力者っていう人を見つけないといけないワねん」
「そうね。ガーはその協力者に当てはあるの?」
ハッチは、部屋に備え付けのお風呂に入ったらしい。
まだ髪を乾かしている最中の二人がそう訊ねて来た。
「当てっていうか、『城門抜けの専門業者』に依頼しようとは思ってる。
まぁ、前も頼んだことあるし、運良くオレの顔を覚えててくれれば、ラクに済むと思うけどな」
「名前からして怪しい業者だワね」
「準山賊かしら」 ハッチが心配そうな声を上げた。
「いや現役の山賊」
「ゴリゴリのアウトじゃねえか」
「まぁ、金さえ払えば悪い奴らじゃないよ。奴らの村があるから、そこで交渉だな」
「ならいいが……ガチめの不法集団とかだと色々と厄介そうだな」
「ね。やっぱりジンさんとハルルちゃんは真っ当に入った方がいいんじゃない?
アタシたちに合わせる必要はないんじゃ?」
「いや。合わせて一緒に行くよ。中で合流が難しくなりそうだしな。それに」
「それに?」
「綿密な計画を立てれば立てる程、トラブルに遭いやすくなるっていう持論があってね。
ヴィオレッタは特に何かしでかしそうだ」
そう言うとハッチは苦笑いした。
ちなみに……当のヴィオレッタはというと。
「ねー、ハルル。この牛乳、不良品。この瓶のとこの紙が取れる気しない」
「はーい。これはッスね、この針付き牛乳蓋開けを、こー水平めに差し込んで、かぽっと開けるんスよ!」
「わ、すご。開いた。ありがと、ハルル」
「えへへ~どういたしましてッス~」
俺の後ろで牛乳開けて、ごくごく飲んでいる。お前たちなぁ。
「っていうか、今更だけど、なんで俺の部屋に全員集まってんだよ」
「くすくす。当たり前じゃん。自分たちの部屋で飲み物とかお菓子食べて寛いだら、部屋汚れちゃうじゃん」
人の部屋なら汚していいし、と笑顔でいうヴィオレッタに対して俺の怒りゲージが最大まで溜まっていたのは言うまでもない。
「くすくす。ジン。怒らないで。ほら、お菓子あげるから。
バタークッキーだって、美味しそうだよ?」
「……それ俺が売店で買ってきたヤツじゃん???」
──などと騒がしく、時間が過ぎていった。
そこから一時間程か、暫く談笑していた。気付くとヴィオレッタが静かになっており、こくんこくんと首を動かしていた。正に櫂を漕ぐという表現がぴったりくる。
「疲れちゃったんスかね?」
「みたいだな」
「じゃ、寝かしてくるわ」
ガーがヴィオレッタを負んぶして、「そのままオレも寝るわ」と言って歩き出した。
ならお開きでまた明日に、とハッチとヴァネシオスも子猫と鴉を連れて部屋に戻って行く。
一瞬で部屋が静かになって、一息吐いた。
「っち。宣言通りに超汚くしていきやがったな」
どこでいつ買ったか分からんチョコレートだのキャンデーだの油菓子だのが散乱している。
「なんかあれッスね! 学舎の寮みたいで楽しかったッスね!」
「ったく。まぁ……そうだな」
ゴミをゴミ箱に投げ入れながら、俺はそう返した。
まぁ……ヴィオレッタ一行は、やかましいが……悪い連中じゃないのは、もう分かってのことだ。
だからこそ。ナズクルと会って何もないことを祈りたい。
そして……俺は……ナズクルを。
……ナズクルを、どうするべきなんだろうか。
アイツは……何かしようとしているのは間違いない。
胸騒ぎが止まないのは、アイツが取り返しのつかない何かをしようとしていることが分かるからだ。
まだ大丈夫なはずだ。まだ、言葉で、解決できる次元だ。
ナズクルの奴は、俺が敵対することは流石に恐れているはず。
だったら、それを交渉材料にして、無駄な戦いとかを防げるんじゃないかと思うんだ。
または、俺自身がアイツの望みを叶える形を取れる可能性だってある。
まだ、平和的に、解決できるはずだ。
甘いかもしれない。夢の見過ぎかもしれない。
それでも、まだ。今なら。
アイツがこのまま走り出したら、悪いことに転がりそうなのは間違いない。
煮え切れない。アイツの目的さえ分かれば、それを潰すように動けるのに。
アイツだって分かってるはずだ。
戦争は簡単に始まる。だけど、戦争は簡単には終わらない。
人魔戦争が終結を迎えられたのは、奇跡なんだ。
魔王は、ワンマン指導者だった。だから、討てば終わりに近づいた。
それでもその後、『火消し』が大変だったと、ナズクル本人も言っていたじゃないか。
普通、戦争は終わらない。
終わらせ方を、世界中の誰も知らない。
あの戦争で、俺たちは……『叫び』を見て来た。だから。だからこそ。
「? 師匠?」
「うぉ。びっくりした」
「えへへ。怖い顔してたんで。大丈夫かなと」
「……悪い」
「いえいえ」
片付けも終わった。
ベッドは二つある。それぞれに腰掛ける。
「じゃ、寝るか」
「そ、そうですね」
ベッドサイドにある水晶玉みたいな物を撫でるように転がすと、天井の灯りが緩やかに暗くなる。魔法みたいッスね! とハルルが笑った。魔法だよ?
暗い橙色。夜用の薄い明かり。目を凝らせば見えるくらいの闇の中。
「ね。師匠……じゃなかった、ジン、さん」
「ん? どうしたハルル?」
「その。そっちのベッドに、行ってもいいでしょうか?」
──……。
……。
「い、いい、いらっしゃいませ」




