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【18】男湯【15】


 ◆ ◆ ◆


「入浴しながら吸ったらどうなんだろうなぁ」

「煙草をか?」

「おう! だってさ、温泉で酒飲むとかあるんだから不思議じゃないよなぁって思うんだけどさ」

「吸えばいいんじゃねぇの? 別に今、俺たちだけだし、止めはしないぞ」

「マジか! ちょっと取って来る!」


「ただし。煙草に含まれるニコチンは水溶性だ」

「え?」

「煙草を万が一、湯船に落とした場合。人体に害があるニコチンが湯船に広がる。

一本じゃ害はそこまでないのかもしれないが、そうなった場合、旅籠(ホテル)の人たちの掃除は大変だろうな。

一度全ての水を抜いて、この面積を溜め直しだ。そして、ここは地下だ。

換気口はあそこだけだから、煙草の臭いが充満する恐れがある。

そうなると換気が完了するまで──」


「吸わ、吸いませんでしたっ!」


「上手いこと言うなお前」

「っていうか主人公に有るまじき長文説教。今のでファンが10人は減ったぜ?」

「なんだ主人公ってのは」

 ジンはため息を吐いてから目を閉じた。

 身体を湯の中に降ろしていき、首元まで湯に浸かると、程よく火の通った魂を吐き出すように、はゎあぁ、と声をあげた。


「すげぇ気持ちよさそうに入るな、ジンさん」

「実際、すげぇ気持ちいじゃん」

 隣で腰掛けているのは、魔族のように黒い肌を持った男。ガーちゃんと呼ばれている彼は腰まで湯に浸かって壁を真剣な顔で見ていた。だが、ジンの視線に気づいたのか、はぐらかすように笑った。


「やっぱジンさんも気になるか? オレの肌の色。

人間と魔族の混血(ハーフ)だから、こんな黒いんだぜ」


「あ? 別に気にならんが。……半人(デミ)じゃなくて混血(ハーフ)だったのか」

「おう。そうだぜ、希少種だぜ」

「希少種ってな……」

「実際、混血(ハーフ)って珍しいそうじゃん? 

普通はどっちかの性質に傾くって餓鬼の頃から言われてきたぜ」


「人間と竜が愛し合っても竜人(ドラゴニア)が産まれる訳じゃない。

竜か人間が産まれるってやつか」


「愛し……。はは。そうね。愛し合って。ま、そうらしいね」

 ガーが少し笑ってから湯船にざばんっと飛沫を上げて入る。

 その様子にジンは引っかかりを覚えた。


「……悪い。何か気に障ったか?」

「え?」

「いや。嫌そうな顔をしたように見えたから」

「あー。あはは。別に、ただつまんねぇことを思い出しただけだよ」

 ガーはカラカラと微笑んだ。

 そうか。とジンは湯の中で足を伸ばす。


「……さっきの煙草の話、あるだろ」

「え?」

「湯の中で吸っても、あんまり美味くないぞ。薄く感じたね。

多分だけど湯気とか湿気を吸っちまうんだろうな。だから勧めない」

「ジンさん、吸うの?」


「いいや。十年ちょい前に、やった仲間(ばか)がいてね。そういう経験だよ」

「ああ、なるほど」

「人間って昔の経験で今喋ってるらしいぞ」

「ほへぇ」



「だから、経験から言うと。

こういう裸で駄弁ってる機会にこそ、つまんねぇ話ってのは口から出すことをお勧めするね」



「へえ。ジンさん、オレの過去に興味あんの?」

「いいやねぇよ」

「ねぇのかよっ」

「ただ。十年ちょい前の、風呂場で煙草蒸かした仲間(ばか)も、似たような顔をしててね」

「?」


 ──赤褐色の仏頂面。真面目な顔をしているが、意外と馬鹿なことをする仲間(やつ)だった。

 彼を思い出し、ジンは苦く笑った。



「つまんねぇ話。聞いときゃよかったって、後悔してんだ」



「……ジンさんも後悔とかするんだな。生き物らしくてびっくりしたわ」

「なんだてめぇ殺すぞ」

「ひっでぇな! はは! ……はー、ほんと大したことじゃねぇけどな」

 ガーの言葉が反響してから、ジンはただ耳を傾けていた。


「親がさ、娼婦(フッカー)だったんだ。あ、母親だけだぜ? 父は知らねぇ。

いつもは下ろしてんのに、オレの時は大棚の若旦那のが当たったと思ったらしくてよ。

産んだら、コレだった訳だ」

 ガーは、頭を掻いた。


「まぁ、後は分かるだろ。望んでない子は捨てられる」

「だけど生きてるな」


「……まぁな。すったもんだがあったらしいぜ。流石に記憶はねぇけど。

結局、最初の内は娼館の店長(ジジィ)に育てられたそうだ。

……だからまあ、思っちまうんだよなぁ」

「?」

「お互いが愛し合ってなくても子供(ガキ)は出来るって。

だから、ま。愛し合ってって言葉に反応しちまっただけだよ」


「それは、悪かったな」

「いや、何も悪くないっしょ、ジンさんは」


「いいや、もっと直球に言えば良かったよ。人と竜が一発ハッスルしてとかヤックルしてとか」

「それはもう台無しっ!! つかジンさん、意外と冗談とか言うのなっ!」

「割と言ってるつもりなんだけどな」

「はは。なんか安心したわ。あの伝説の勇者も、普通の人だったって」

「そりゃ何よりで」

 ジンとガーは目線を外したまま、ちょっとだけ笑い合った。


「そういや、王都に入る方法ってどうやるんだ?」

 ジンが訊ねると、ガーは欠伸を一つかましていた。

「ああ、昔よく使ってた手でさ。まー、大丈夫。それなりに金は掛かるけどなー」

「まぁ万が一の時はお前ら捕まえたって言って中に入るよ」

「うわズルゥ! 主人公、それでいいのかよっ!」

「だーから、主人公ってなんのことだっての。……ったく」


 

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