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【05】んっ。くすぐったいな【07】

 


 はしゃぎ疲れて眠るとか、子供かっ。

 などと、ツッコミをしたい気持ちを抑えながら、俺はハルルを背負ってルキの部屋まで行く。


 ししょーそこはダメっす~、などと変な寝言を言いながら抱き着いてくるハルル。

 背中に変に感触があるが、気にしないようにして歩く。


 前を行くルキに連れられ、ルキの部屋の前まで来た。

 ルキは疲れて眠ってしまったポムを魔法で浮かして運んでいる。


「……いや、そういえば、お前が二人とも魔法で浮かせばよかったんじゃねぇのか?」


「ん。ああ。いいや、ボクの浮遊魔法は一人用なのさ」

 嘘か本当か分からない笑みをルキは浮かべた。


 ルキの部屋に入り、荷物(ハルル)をベッドに寝かせる。

 でかいベッドだ。凄いな。金持ちの象徴みたいだ。


「俺が両手を広げても、端に手が届かなさそうだ」


「……ふふ。ハルルもそんなこと言ってたね」

 こいつと同レベルだと。


「しかし三人寝るには手狭じゃないのか? というか、ハルル、寝癖悪いだろ」

 時々ベッドから落っこちて、その上で机とかを薙ぎ倒している姿をよく見かける。


「ふふ。そうだね。実はポムも寝癖が悪い方だから、慣れっこだと思ったけど……まぁ、大変だったね」


「お、おう。うちの従業員がご迷惑をおかけしました」


「ふふ。それより、やはり寝癖が分かるくらいには、一緒に寝ているのだね」


「ばっ。違っ!」


「ふふ。そういうことにしておこう」


 ルキは楽しそうに微笑みながら、二人に布団を掛けた。

 眠ったポムの頭をルキは優しく撫でた。


「まるで姉妹みたいだな」

「ふふ。そうかい? 一応、弟子なんだけどね」

「そうか。弟子愛、ってやつか? 凄いな」

「まぁ、キミほどでも無いけどね。ハルルに聞いたよ。ここに来るまでの山賊の強い奴をかたっぱしから倒してたんだって?」

「……あいつ、余計なことを」


 ルキは部屋の電気を暗くして、車椅子で外へ出ていく。


「あれ。お前、ここで寝るんじゃないのか?」

「いいや、寝相が凄いから、来客用の部屋で寝るよ」


 まだ部屋あるのか。まぁ、部屋数すげえあるもんな、この家。

 昔、帝都で見た高級ホテルみたいな家だ。


「じゃあ」

「いや、少し手伝ってくれないかい? 寝支度で義足を外すのは一人だと大変なんだ」

「ん。ああ、いいぞ」


「ついでに、車椅子を押してくれると助かる。いい加減、魔法ばかり使っていると疲れるんだ」

「そういうもんか? まあ、いいけど」


 車椅子を押して、俺は廊下を進む。

 やっぱり、この家、凄え。絨毯が敷かれている。


「使われてない古城を買い取って、そこから改築を行ったからね。部屋数はそこらの旅館よりあるよ」

「……なんでそんなに金あるんだよ」

「むしろ、ボクが問いたいよ? キミが何故そんなに貧乏生活をしてるのかね」

「た、確かに何故だ……」


 そういえば、俺、魔王討伐の報酬、貰ってないんじゃないのか……。

 まぁ、過ぎたことは、いいか。


「そういえば、ルキが弟子を取るなんてな。どうして弟子を取ろうと思ったんだ?」

 昔はもう少し冷たい感じだったし、一人が好きという雰囲気だった。


「キミがいなくなった後、偶然出会ったんだよ。ボクが捨てられてた森でね。ポムは、ボロボロで眠っていた」

 捨てられてた森。一度、ルキから聞いたことがある。


 南にある霧の深い大森林に、赤子だったルキは捨てられていたらしい。その森にひっそりと住む魔女が彼女の母親代わりだったそうだ。


「それって」

「あの頃は、ほら、まだ隣国と揉め事も多かっただろう? 勇者法が制定されたか、されてないか。まぁそれくらいの頃だし」


 十年前、俺を含む魔王討伐の勇者たちがいなくなり、当時の国王も逝去し、国が傾いた。

 隣国からも攻めよられ、魔王軍の残党も活発化した時期があった。


「南の国境付近の村に住んでて、戦争に巻き込まれたそうだ。最初こそ、すぐに孤児院に預ける予定だったんだけどね」


「預けなかった?」


「ああ。我ながら不思議に思うよ。人との関わりを全て清算したくて逃げ込んだ森だった筈なのにね。ポムと過ごす時間が大切に思えるようになった」


 ルキは扉を開けた。指を振ると温かい灯りがともった。

 アンティーク調の部屋。ルキはいい趣味をしている。


「じゃあ、義足を外してもらおうかな」

「ああ、分かった」

 ルキは、夜のような黒いドレスの裾を上げた。

 右足は、俺が運んできた機械の脚。左足は、よく見れば何か違う素材の脚だ。

俺は、目を逸らす。


「ふふ。機械の脚、あまり見たくないかな? ボクは気に入ってるけどね。確かに、歩き辛くはあるけどもね」


「い、いや、そうじゃなくてさ」

「?」


「スカート、そんなに捲るのか、太腿が、というか、その」

 下着が。


「……えっち」


「あのなっ」

「ポムにばかり手伝ってもらっていたから、失念していた。ほら、見えないように隠したから、足を持ってくれよ」


 言われて、足の方へ回り込む。

 ルキも頬が少し赤い。なるべく顔を見ないようにしよう。

 彼女の両脚は義足だ。本来、両脚とも最新型の義足だったが、少女との戦闘で、左足の義足を俺の剣に変化させてしまった。


 それ故、左足だけ、前使っていた義足を付けている。

 彼女の両足は、太腿より下、膝からが義足だ。

 太腿をカバーするソケット。ソケットの上についた懸垂装置という帯を外すことで、義足は外せる。


「んっ。くすぐったいな」

「わ。悪い」


 彼女の太腿──結構付け根の辺りのボタンを外す。同時に義足の足先がぶらんと下がった。

この反応は、魔力供給が止まったからみたいだ。


 外して、ベッドの隣に立てかける。

 太腿までの足、縫合された切断面。

 大手術だったんだろうな。

 右の太腿も、触れる。


「ぁ……っ」

「?」


「み、右は大丈夫だ。こっちはずっと外さなくてもいいようになってる」

「あ、そうなのか」

 と、ルキと目が合う。

 スカートの中に手を入れてる図。

 慌てて手を引っ込める。


「次は、ボクをベッドに運びたまえ」

「お、おう」

 ルキを抱き上げる。

 ゆっくりとベッドへ運び、彼女をベッドに寝かせた。


 突然に、彼女の指が、動かした。

「!?」

 魔法。何の魔法か分からないが、俺が、転ばされた。


 いたずら? なんだか分からないが、ルキの顔が近い。

 ルキの枕の隣に手をついているが、危うくルキを押しつぶしてしまう所だった。

 紅潮した耳、頬。綺麗な目、僅かに潤んだその目と、目が合う。


「ルキ?」

 ルキは何も答えず、俺の頬に触れた。

「えっと……ルキ」


「少しだけね。羨ましく思えてね」

「え?」

「ふふ。なんでもないよ」

 ルキは、俺の頬から手を下ろした。


「じゃあ、おやすみ、……ジン」

「あ。ああ。おやすみ、ルキ」

 部屋から出た。

 廊下を歩き、俺の部屋まで戻る。



 部屋に入って扉を閉めた途端、急に、心音が大きく感じた。


 ……。いや、うん。え? そういうこと? だったのか?

 ……いやいや、そんな。ルキだぞ。

 ずっと旅した、妹というか、歳的には姉だけど。家族みたいな。


 え、だからこそ、なのか?

 でも、そういう雰囲気で。いや、しかし。


 結局、俺は、モヤモヤと思考を続け、中々眠りにつけなかった。


 


◆◆◆

先日、評価ポイントを付けて頂き、誠にありがとうございます。

とても励みになりました! 

今後とも、少しでも楽しめる作品を作れるように精進させて頂きます!

何卒、よろしくお願い致します!

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