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【01】知らなかったッス……詐欺じゃないスか【04】


 ドラゴン。


 一括りにそう呼ばれるが、厳密には何十もの種類が存在する。


 一番、多くポピュラーなのは、『恐竜種』。大きさは人間と同じか、一回り小さいくらいだ。


 肉食と草食の二種類おり、『草食恐竜種』は比較的温厚。『肉食恐竜種』は攻撃的だ。両種ともに、新人冒険者……ではなく、新人勇者の最初の練習相手と言えよう。


 他には、縄張りから滅多に出ない『地竜種』や、険しい山や孤島などを住処とする、飛行能力のある『飛竜種』。


 また、人間に信託を与えるとされる『金竜種』。人間を餌とする『害竜種』などが、有名だろう。


 好戦的種族も居れば、高い知識を持ち人間に寄り添う種も居るし、野生動物と変わらない生態の竜もいる。ということだ。


 通常、『草食恐竜種』相手でも最低二人以上でパーティーを組む方が安全だ。


 『地竜種』以上の相手なら最低でも四人以上で組むべきだし、戦わなくて済むなら戦わない方が絶対に良い。


 それが、俺たちの世界のドラゴンという生き物だ。





「……ドラゴンの鱗の納品か。それも地竜種の。……お前が受けたのが、討伐とかでなくてよかった」


「えっへん!」


「褒めてない」


「えへへ……でも、どうして、納品でよかったんスか? 結局ドラゴンと戦闘は必至ッスよね?」


 いや、と否定してから答える。



「鱗の入手、だけなら、戦闘する必要がない」



「え!? そうなんスか!?」


「ああ。もちろん、それなりに道具を準備しなきゃいけないが、簡単だよ。眠らせてから麻痺させて、鱗を拝借したら逃亡する」


 睡眠薬に、麻痺ガス。効果が切れない内にその場を離れれば、無傷で生還だ。


 幸い、今回の相手は地竜種。縄張りの外まで逃げてしまえば、深くは追いかけて来ない。


 無論、個体によって睡眠薬や麻痺ガスの効果が薄い時もあるだろうから、多少保険は掛ける。


「……ええー」


「どうした? なんで膨れてるんだ?」


「……勇者っぽくないッス。なんか、こう。もっとドガーン! とやって、ずばーん! と暴れ──あいたっ! 何するんスか!」


 思わず、チョップをハルルの頭に決めていた。


「そういうのは、お前自身が強くなってからにしろ」


「うう……分かったッス。罠や道具を使って頑張るッス……」


 ハルルはしぶしぶといった様子で頷いた。


 まぁ、『師匠、代わりにドラゴンと戦ってくださいよ!』なんて言ってこないだけ、マシか。


 多少なりとも、職業勇者という自覚があるなら、捨てたもんじゃないだろう。


「あれ、師匠。道具屋、ここじゃないんスか?」


 ハルルは罠や捕獲系の道具を吊るし売りしている露店の前で立ち止まった。


 確かに、道具屋だ。中央通りで商売しているだけある品揃えだ。


 ハルルが持っているのは、筒状の睡眠ガスだ。圧力を掛けて相手に直接噴霧できる、最近流行りのスプレータイプってやつだな。


「ああ、それは買わない」


「え、でも、対竜用睡眠ガス、セール中みたいッス! なんと銅貨四枚で、あ! 置いてかないでッス!」


 慌ててハルルが俺を追いかけてきた。


「対竜用の睡眠ガスを買うんじゃないんスか?」


「そうだが、そうじゃない。対竜用、って書いてあるけど、地竜には殆ど効かない」


「え……え?」


「対竜用って書いてあるのは、恐竜種を想定して作られてるんだよ」


「え!? だって、竜種全般に広く使えるって、ロゴにも」


「あくまで、効能的には効く筈ですよ、っていう意味だろ。あの手の噴霧(スプレー)式の使い道は、主に『草食恐竜種』の捕獲用だな」


 というか、そんな量で人間の数十倍の巨体が眠るわけないと、感覚で分かりそうなものだがな。


 ちなみに、恐竜種でも、興奮状態になっていたら、そのカンカン程度の量じゃ眠らせられない。


 意外と知られていないんだな。


「対竜用って書いてある時はちゃんと裏の説明まで読んだ方がいいぞ。『善良な』メーカーなら、何種を想定して作られた道具か書いてある」


 基本的に、専門店以外で販売されているのは恐竜種用なのだ。


 勇者も基本的には恐竜種と戦闘が多いから気にはならないんだろうが、ラベルで勘違いして地竜種や飛竜種に使っても効き目はほぼない。


「知らなかったッス……詐欺じゃないスか」


「グレーゾーンだな。恐竜種には効くし。恐竜種のみに使える! だと誰も買わないのかもしれない」


 メーカーも販売するために色々大変なんじゃないか? 全然詳しくないが。


 少し進み、大通りから一本横道に逸れ、細い通りへ入る。


 そこは両側に背の高い集合住宅棟(アパート)が聳え立つ路地だ。魔法と建築技術が融合し、鉄やら煉瓦やらで作られた建物は、窓の数からぱっと見で八、九階建てだろう。


 それだけ背が高い建物の間に、この細道はある為、昼でも少し薄暗い。


 そして、窓から逆側の窓へと、まるで蜘蛛の巣のように紐が伸びていて、そこかしこに洗濯物などが吊るし干しされている。


「なんか、何でも吊るしてて面白いッスね」


「ああ、同じ国なのに異国感あるよな」


 交易都市は、最初狭かった。山もあるし、海辺だし、使える土地が少なかった。


 結果、住処が高層化。まあ、こういうのもその土地の暮らしの知恵なんだろうな。


 などと呟いてから目的の露店へと向かう。


 この道の先、普通の露店二つ分ほどの大きな露店。看板に読めない外国の文字がデカデカと書かれている。入り口には髑髏やら金色に輝く像の置物が飾ってある。


 度胸の無い一見さんお断り! とでも言いたげなこの露店が、目的の商店だ。


「おおっ! 凄い! 個性的な店ッスね! 師匠! 見てください! 蛇が浸かったお酒みたいなのあるッス!」


 ハルルは普通に突撃していった。度胸のある一見だな。いや、怖い物知らずか?


「いらっしゃいヨー! お嬢さん! お目が高いね! それは東国の秘薬ヨ!」


 景気のよさそうな明るい声で、独特な訛りのある糸目のターバンを被った男がハルルに声を掛けてきた。


 と、俺と目が合う。


「おお! ジン(・・)じゃないカ! 久しぶりネ!」


「ああ、サイ。久しぶり」


 彼の名前は、サイ。このちょっと怪しい露店の主である。


 とはいえ、俺の知っている道具屋で最も信頼のおける人間ではある。


 サイは細い目をさらに細めてにやりと笑う。


「ジン、今日は便利屋さん、おサボりで、女の子とデートネ? 隅に置けないネ!」


 サイの言葉を聞いたハルルが小首を傾げた。


「? 便利屋? じん??」


 頭の上にたくさんの『はてな』を浮かべたような難しい顔でハルルは俺を見てくる。


 そういえば、ハルルには俺が便利屋の『ジン』だ、と名乗っていなかった。


 だが、とりあえず今は説明できない。後で話す、とハルルに耳打ちしてから、会話を続ける。


「サイ。仕事だよ。仕事。こいつのクエストの手伝い。色々と道具を売ってほしいんだ」


 サイはハルルを品定めするように見て、なるほどネ、と呟いた。


 ハルルの装備から、勇者駆け出しということを理解したのだろう。


「はぁー。勇者さんの手伝いネ。ジン、本当に何でもやるネ。ちょっと尊敬するヨ」


「うるさい。とりあえず、必要な道具はメモしてきた。在庫あるか?」


 メモ紙を渡す。サイは、どれどれ、と呟きながら受け取る。


「発閃光筒、五本……消臭原液、魔力隠蔽液、二人分……即効性麻痺薬と気化式睡眠薬……各2リットル!? ジン! どこの軍隊と戦争する気ネ!?」


「いや、別に、普通のクエストだよ」


「普通のクエストって……ドラゴンでも殺しに行くカ?」


 流石、サイ。そんな所だ。


「で、在庫あるか? 量が量だからな。流石になければ」


「『無ければ』? ははは! 冗談キツいヨ? 少し驚いだけネ、ジン? 『サイの店』。無いモノ無いヨ」


 サイがにぃっと笑い、足元から人間の腕より太い鉄筒を次々と取り出す。


 よし、道具は全部揃いそうだな。


 後は……地竜との対峙、か。



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