【17】動画を作ろう!【21】
わぁ~写真が動いてる。なんて、喜んでいた時期が私にもありました……。
徹夜2日目。
目の下に真っ黒なクマを作って、吐き気と頭痛を堪えながら48時間以上耐久しているギルド受付嬢が私。
真っ暗な部屋。
長く伸びたフィルム。ずっと壁を照らす白い光。映写機っていうらしいね。しらんけど。
はぁ。気分を変えよう。
さー、みなさーん! ここはどこでしょう!
はい、そこの貴方! 答えてみてー! はー、残念、不正解~。
何と、王都の中央城の参謀府でした~!
ここに幽閉されております! ああ幽閉は冗談ね。
いや、事実幽閉か……作業終わるまで家には帰れませんだしなぁ。
だからもう異常な謎テンションで生きてます。
私、レンカ・バーズと言います。
南方ギルドでしがない受付嬢してました。
で、趣味が写真です。なんかどうして目を付けられたか知らないけど……『ドーガ』とやらを作れと命令されました。
誰に? 国!
ドーガって? 動く絵! 動画って言うそうです!!
連続写真を繋いで、動いてるように見せるとのこと。
写真が好きだから動画くらい作れるよね、って、どんな偏見だよッ!
けど国の命令に逆らったら幽閉オア死刑でしょ?? やってられるかーーー。
はーーーーー。クソでか溜息吐くしかないわぁぁぁあ。
……などと嘆いていても始まらない。やるしかない。
ってかさ、まずこの『動画』って、これもう私たちの国の科学力越えてるよね。
ナニコレ新発見だよ。音は別取りして、大音量拡声器で流すそうで。凄い技術やわぁ……。
まぁ……驚いちゃいけないか。時折、『爆発発明家』の超越発明品の武器とか申請入るしね。
ただ……この編集作業している動画の内容。これ、さ。
暗闇で、白い壁に映し出された映像を確認する。
──蛇の半人が、町を襲っている。人間の勇者を殺している。
他にも半人がギルドを占拠している映像もある。
机の上の紙を、目を細めて確認する。
『1:半人の危険性が分かる様に、半人が人を襲っている所だけにする。
2:40分の1秒程度のフィルムごとに下記文言などを入れること。
3:勇者が半人の脅威を取り去ったように作ること』
……。やっべぇことに関わらされている気がするけど、関わりたくないから逃げますなんて、死ぬしかなくなりそうでマジもう無理。
というか1番と3番は分かるけど、2番の要求とか意味わからないんだよね。
『半人は危険』『戦争』『魔族は殺せ』『戦争』……みたいな言葉が列挙されてる。
……40秒に一回1秒、っていうなら読めるんだけど。40分の1秒って、凄い一瞬のみなんだよねぇ。
映写機を手で回して映像の確認をする。いやぁ……一瞬以下過ぎて読めないけどなぁ……。まぁ何度も見てる私なら目で追えそうだけど。
まぁ、それは置いておくとしても……。
私は……目を覆いたくなる映像を見ている。
半人が人間を切り裂くところとか、勇者が半人を殺す所とか。
……勇者の教育資料なのか何なのか分からないけど、あまり見ていて気持ちが良い物じゃない。
先日の、『西方地域半人反乱によるギルド立てこもり事件』の顛末らしい。
その突入部隊の勇者に動画撮影の機材を持たせていたそうだ。
半人、かぁ。
ふと、私は黒い肌の男を思い出して──すぐにその隣に居た黒緑色の髪の少女と、あの狼を思い出していた。
あの時の写真は、手元にある。ヴィオレッタという少女と、ガー、それから狼さんの三人が映った写真だ。
何ヶ月か前、私は写真を撮りまくった。それから、ヴィオレッタと言う少女を好きになってしまったから、ただの好奇心で『過去』を探りまくった。
ある所まで『知った』し、『推論がある』けど、それ以上は何も踏み込まなかった。
本当の意味で『墓暴き』だ。緑色の髪の女騎士、あの勇者様の──。
いかんいかん、仕事に集中しないと。
終戦記念祭の最終日に使うとか言っていたけど、無理すぎ。
10分に満たない動画なのに、現像して切って縮めて張り付けて、……いや死んじゃうこんなの一人でやるなんて。10分作るのに何十倍かかるのさ……。
あぁーもー、無理ぃぃ!
腕を伸ばした、何か落ちた。足元に転がって来たのは、フィルムだ。
もうフィルムしか見てないっ……あ、待ってこれ、未開封じゃん。
ああ、そうだ。追加された『録画』、あるんでしたね。
まずは、一度中身を確認しないと。
そこから使えそうなカットを手書きでメモする。
その後、使えそうなフィルム箇所を手作業で見つけて、切って、張り合わせる。
フィルム作成は『創紙の魔法』とか『転写の魔法』とかで作るらしい。こっちも魔法化なにかしてくれよって思うんですけどねぇえ。
魔法全盛期に何でこんな手動でっ!
などと怒りをぶつぶつ呟きながら映像チェックを始めていた。
あれ。
あの緑髪の女の子って。というかその隣に黒い肌の、あれ。
ヴィオレッタさん、だ。
「あ。やってるでありますね」
ひぇあ!? 誰!? あ、あれ──この声、というか、その喋り方。
──思わず顔が引きつった。よく覚えている。
あどけない顔で、鉄が赤熱したような赤白い髪。燃える炎の目に『正義』の鉄槌を背負う少女。
一度しか、会ってない。ただあの時の印象が私には鮮烈過ぎた。
『正義』の名の下に、私の上司を殺そうとしたんだから。
ティス・J・オールスター。私が、彼女の目は『殺人鬼』のそれだと思った、相手。
「やっぱり、レンカさんなら動画を作れると思っておりました!
ナズクル先生に進言してよかった! やはり作れたでありますね!!」
……お前か、この地獄を作り出したのはァっ! ……って。
「……あれ、名前。私」
「一度会ったことのある真っ当な人間の顔と名前は忘れないであります。
今日は語尾に『にこにこ』を付けないでありますか?」
「あ、いえ、付けます。にこにこ」
ギルドの受付嬢は『語尾に笑顔を現わす言葉を付けること』が義務づけられている。
クソ職場である。
「……で、何の御用でしょうか、にこにこ」
問いかけるとティスは楽しそうに笑った。
「進捗を伺って来いと、ナズクル先生に言われてきたであります!
そして、進捗如何ではあるが、残り一日で作って欲しいそうであります!」
ほう、寝るなと。
寝るなと申すか、寝なければ人は死ぬんだぞォ、貴様ァ!
……などと、王国最高権力者と、その使いパシリ様にゃ言えない。
仰せのまま、としか、言える訳ないのだ……。
ふと、ティスは映像の方を見て、「おー」と声を上げていた。
動画をそのまま流しっぱなしにしていた為、今は丁度、爬虫人の顔がアップになっている。
舌を出して木剣? みたいなものを構える所だった。
「凄いでありますね、動画とは! 本当に事実を切り取ったようでありますね」
「事実を切り取った、ですか。確かに、言い得て妙ですね、にこにこ」
「?」
事実を切り取って、見せたい所だけを見せる。
それはもう既に、虚構なのでは、と──誰にも言えない。




