【17】王【19】
◇ ◇ ◇
もしも生まれ変わっても、また私になりたいと思っている。
だけど、そう思える私が恵まれているんだと気付かされた。
その人の最期の言葉は、残った命を吐き出すような叫びに聞こえた。小さい声だったけど、私にはどんな大声よりも大きく聞こえた。
世界には、色んな種族がいる。
でも、魔族も半人も人間も……解剖したら、ほぼ同じだった。
心臓は一つ。肺は二つ。動物の器官を有することもあるから、やっぱり違う種族って位置づけるべきだけど、基本は人間の身体だった。
おんなじ命だ。人種が違うだけ、言葉か見た目が、ほんの少し違うだけ。
ほとんど、おんなじなのに。
生まれ変わったら、違う人種がいい。なんて。
自分に生まれたことを後悔する。なんて。
変だ。その人がじゃない、その考え方が『普通』と思われているなら。この『今』が、変だ。
「この世界は、優しくない」
この世界の『今』が変だ。
私は……。上手く、言えない。でも、変だと感じたんだ。
ノアの、元の主人は、マッキーっていう女の子だ。
偉い人の言うことを聞かなかったから殺された。
「理不尽な死が多い」
欲に溺れた人に、ラキちゃんっていうハッチの友達も殺された。
その人たちだけが幸せになれるルールによって、殺された。
国が定めた法律に従って、シャル丸は売られそうになった。
オスちゃんも、大事な場所を失った。ロドラゴも、同じように失った。
「誰かが得する為だけの、大勢が不幸になるルールがある」
魔族が被害者かと思ったけど、違った。
願望で歪んだ魔族が人を、喉を焼いて喋れなくして奴隷みたいに扱った。
ヴィーヘさんは、次に生まれるなら人間に生まれたい。と嘆いた。
「自分の生まれに後悔する人がいて欲しくない」
魔族も人間も、半人も混血も……皆等しく被害者だった。
「被害者だけが増えていて。弱くても強くても、苦しい世界で」
私だって、人を傷つけて。誰かを傷つけて来た。
私は……後悔している。向かってくる敵だけを傷つけたけど、それでも私利私欲であったのは間違いないんだから。
だから、もう、なるべく傷つけないように生きようと思った。
だけど……違った。
「昔、ね。まだ少し動けた時にね。一人で買い物に行ったことがあるの。
その時にさ、山賊なのかな。男の人がお婆さんを殴ってるの見たんだ。
……私はね。何も出来なかった。周りにも人がいたし、病気がちな子供の私が何かしても無駄だって思ったから。
その後、お婆さんがどうなったかは分からない。
でも、私は……力がないことを理由に、逃げたんだ」
狼先生と会って、知って。皆と出会って、私は、得た。
たくさんの知識と、たくさんの魔法と。たくさんの思い出と。たくさんの感情を。
「『力を持っているなら』、動かないといけない。
もう、私は力がないことを理由に逃げたくない。だから」
私のエゴで、考えが浅いだけなんだと思う。
でも、誰かを傷つける力は、誰かを守る力になるって、信じたい。だから。
「私が魔王になる」
──焼け落ちたロドラゴの樹の根の隠れ里に風が吹いた。
「魔王になって、私の好きな人たちが幸せに暮らせる世界を──ううん。
私のことを慕ってくれる人たちを、助けを求める人たちを救える世界を創る。
そういう魔王になるよ」
少女の髪を舞い上げるように、少し煤を帯びた風が吹く。
少女の友人たちは、一瞬言葉を失った。
だが、友人の中でも、彼だけは何を言うべきか分かっていた。
黒い肌の彼は少しばかり楽しそうに微笑んだ。
「仰せのままに、って言ったらカッコいいかな?」
ガーは冗談めかして笑った。それから「レッタちゃん」と言葉を出して、続けた。
「行ける所までずっと一緒の約束だぜ。魔王になっても、その後ろにどこまでついて行くよ。な」
ガーが振り返ると、ハッチとヴァネシオスは優しく微笑んでいた。
「我は行く宛てなんて無いしね。レッタちゃんが魔王になったら、楽しそうじゃない。きっといい(男がたくさんいる)魔王国になるワよォ」
「あはは……ガーやオスちゃん程に変質的なことは言えないけど。
一緒に居たいな。ほら、その、一般常識人のアタシがいないと珍獣の保護者だし」
「珍獣って、ああ、シャル丸とノアか?」
「アンタのことよ、ガー」
『かぁかぁ』『にゃぁにゃぁ』
王鴉と翼ある子獅子は声を上げた。
『私たちも』『いくいくー!』とでも言った様子だろう。
そして少女は、目を閉じた。
こんな無謀なことに、笑顔で一緒に歩いてくれる仲間が居て。
「レッタちゃん?」
「くすくす。なんでもないよ。……みんな」
そして、少女は笑う。
──あどけないスミレの花のように、小さく年相応な笑顔を浮かべて。
「ありがとう」
夢を見定め少女は立った。
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誤脱・台詞回しが変な部分を訂正し修正しました。
文章も分かりやすく変更いたしました。
(24/10/13)




