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【16】我々の利益と理想の為に【68】


 ──国王を殺す。新政権を樹立する。そして、新政権下で『戦争開始』だ。

 ナズクルはそう言い放った。


 その言葉に、流石の誰もが動揺した。

 ティスだけは事前に聞かされていた為だろうか、何も動揺はしておらず、後ろに立っていた副官だけが少し額に汗をしていた。


「こ……『国王を殺す』、ですか。それは、王国の偉い方が聞いたら卒倒するレベルのプレゼンですね」

 『恋の名代』、金髪の少女、イクサが声を詰まらせながら言った。


 ユウも苦笑いを浮かべる。

革命(クーデター)……とは聞いてましたが、ここまで本格的に行うとは。リアルな反政府行動ですね」


「そこも重要だけど、僕朕(ぼくちん)が気になるのは『戦争開戦』だねぇ。戦争は■■■■と同じで一人で出来ないからねぇえ。どの国とやるんだ?? というより、周辺諸国は同盟国か協定によって不可侵の国しかないよねぇ??」


「ああ。いきなりこちらから侵略したら、四方八方敵だらけになるな」

「なのに開戦?」

「そうとも。──我々は最初、『魔族国家』へ戦争を仕掛ける。

そして、『獣国が魔族に支援していた証拠』を発見し、そのまま獣国へ流れ込む算段だ」


「……え。ナズクルさん。待ってくださいよ。『獣国が魔族に支援していた証拠』?? 

そんなものがあるなら、それを獣国に送り付けて開戦できますよね?」


「ああ。そうだな。そんなものがあれば、魔族へ侵攻するなんて一手間必要無いな」

「……ぶひゅひゅ! まさか」




「ああ。『証拠なんて捏造する』。どうせ旧魔族体制は全て闇に葬る。

証拠があろうが無かろうが、ずっとこちらの国に侵略(ちょっかい)掛けて来ていたのは事実。

潰してしまおうと思うよ」




「ぶひゅひゅ!! ナズクル、貴方のことをより好きになったよ!

いい具合にイカレてる!! じゃぁ、僕朕(ぼくちん)の野望であるロリハーレムを作る場所は!」

「ああ。奪い取った土地は反王国の地。獣国、および魔族支配地域は制圧したら何をしてもかまわないさ」

「ぶひゅひゅ!! 獣人ロリっ子キタコレ!!!」


「そして、奪い取る地は、現魔族と獣国が実行支配している土地だ。

法に従わずに不法占拠している連中を一人残らず根絶やしにする。ティス」

「ええ。分かっているであります。その地に正義の御旗を掲げるであります」


 ナズクルは指を組んだ手を机の上に乗せた。

「そして、『恋』が探している『蛇種の爬虫人(リザードマン)』は、これから征伐する地域に必ず隠れ潜んでいる。

魔族側を炙り出せば、奴らはかならず尻尾を出す。半人(デミ)は団結力が強いからな。

一種族を滅ぼせば、他種族が応戦か救援にくる。それを叩けばいい」


「なるほどです」

 ナズクルの説明にイクサが頷き……その説明に出てきたあるワードに、ティスが眉を動かしてから後ろの副官を見やる。

 副官はバレない程度の小ささで首を横に振った。


「ですが、蛇の半人(デミ)は見つかり辛いと聞いております。もし逃げられれば」

「ああ。その為の代案もある。蛇の半人(デミ)が居なかった場合、獣人国にいる『蛇の獣人』というものを捕獲すればいい」

「……なるほど。恋様の目的達成には、この戦争は都合が良いんですね。それなら、多分、『獣人なら蛇以外の特定の種族も欲しい』と恋様は言うと思いますが」

「そうだな。無論、問題ない。功労者には報酬を出す。

恋の作った『完成少女(ネメシウス)』を試す機会にもなるだろう?」

「ええ。恋様も喜ぶと思います。ではそのように」


「あー、ナズクルさん。僕からいいですかー?」

「あ。忘れていた。ユウ。お前にとっての利益だが」

 ユウが苦笑いを浮かべた。

「それは、とりあえず良いですよ。ナズクルさんなら目的知ってると思うんで。

いや、それよりも──質問いいですかね?」


「……答えるかは内容による」

「質問は単純です。

ナズクルさん。貴方自身の利益(ウマミ)って何なんですかね?」


 少し冷静な声と目が、ナズクルを品定めするように見つめた。


「というか、ですね。ナズクルさん。

貴方はどうして急に革命(クーデター)なんてしようと思ったんですか?」


 ユウの質問に、時間が凍り付いた。

 また滑った僕?? と呟いた彼を余所目に、ナズクルは息を吐いた。


「俺の朝食には、興味があるか?」

「はい??」

「俺が、どうして革命(クーデター)を起こす気になったか。

その理由などは、その程度の物だ。

取るに足らない理由で、言ってしまえば『俺の我儘』で国を滅ぼす。ただそれだけだ」


「……それって、無回答、ってことですか??」

「無回答だな。寧ろ、そんな『私情』より、お前達全員の『利益(ウマミ)』が勝ると思うが。

それで協力するか、しないのか。そういう選択肢だ」


 ナズクルの問いに、ユウは笑顔のまま沈黙をした。

 沈黙の間、机の上にある燭台の火だけが揺れた。


 そして。ティスが、背筋を伸ばしたまま、手を上げる。

「自分は勿論、協力するであります!

正義の鉄槌によって悪を根絶せしめる様をお見せいたすのであります!」


 続いてパバトはにたりと笑う。

僕朕(ぼくちん)も問題ないね。ぶひゅひゅ。

人間のロリの入手が難点ではあるが、獣人のロリという新しい世界に対して涎しかない」


「こちらは最初にお話しした通り、一度、恋様にお話を持ち帰ってからの回答です。

とはいえ、獣人国が追加の標的なら、いい返事をお持ちできると思いますが」


 そして、ユウをナズクルは見やる。

「……はぁ。まぁ、いいですよ。追求しません。

参加の可否は、ここに来た時点で回答は決まっていますし。

僕も参加しますよ。ナズクルさん」




「──では。我々の利益と理想の為に。今後とも良しなに頼むよ」



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