表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

360/844

【16】鉄ッ!【61】


 ◇ ◇ ◇

 

 『《雷の翼》のメンバーの中での最強は誰か』。


 度々、《雷の翼》の熱狂者語り(ヲタトーク)で話題に上がる内容だ。

 最強の勇者の座は、常にライヴェルグであることは間違いない。

 神域級(チートクラス)迅雷(スキル)と他の追随を決して許さない超次元の最強剣術。


 そして、2位によく上げられるのが──彼、ナズクルだ。

 その理由の多くは『超次元(こわれ)性能(スペック)の魔法』。

 『熱の魔法』がある故だ。


 『熱の魔法』。

 一般的には、炎と比べて発動が遅く、氷と比べて効果が薄いと言われている。

 長所は、炎と氷の両属性をフォローしている程度の魔法。

 それから、高い旅館の布団に掛けられている魔法。という程度の認識だろう。


 ──どんな魔法(どうぐ)も鍛え上げれば切れ味は増す。

 魔法に才がある者、詳しい者、魔法戦闘の経験のある者なら、『熱の魔法』を鍛え上げた先の『危険度』にすぐ気付けるだろう。


 熱は──。

 一定の空間にある空気だけを選び、一気に火柱を作り出すことも出来る。

 対象者の身体を外からも内側からも凍えさせ、細胞を壊死させることも出来る。

 弄れる温度に限度があるとはいえ、その魔法は異次元の強さを誇る。


 ──やはり、脳筋の剣士や魔法を小ばかにした勇者などは、『熱の魔法』の脅威に気付けない。

 実際──勇者熱狂者(ヲタク)のハルルですら、ナズクルの強さは魔法ではなく別の戦闘能力! と鼻息荒く語った思い出があった。


 ナズクルさんは魔法が苦手。だから銃を使うんスよ。

 ルキさんの日報によると、魔法発動までの速度が遅いそうなので、物理速度が速い相手には勝ち辛い筈ッスね!


 等と、幼少の頃に思っていたが故もある。

 ハルルは青ざめた。


 ──真上から迫った、身の丈よりも巨大な火柱を見たから。

 ──知っているナズクルの力の数十倍の力に、愕然と。



 ◇ ◇ ◇



 ──そのナズクルがハルルの上から、真っ直ぐ落とした火柱。

 見事な円柱の橙色の炎を見上げながら、ナズクルは自らの鍔のある軍帽を被り直した。

 炎の向こう側を覗くように、彼は……いや、彼らは睨み合った。


「──さっき、俺に向かって『気でも触れたか』って聞いてきたが。そっくりそのまま返すぞ、ナズクル。

覇王に成る? お前の方がよっぽど気が触れてるだろ」


 炎を挟んで向かい側、黒髪の男──全身に火傷のような痣と、無数の流血のあるジンは、ハルルを抱き締めた状態で言い放つ。


「絶景無しで、ハルルを助けるとは。凄まじい敏捷性だな。ライ公」

「自称覇王。お前は」


「俺は至って正常だ。正常に考え、条理に従い、覇王に成ることを選んだ」


「はっ。お前、働き過ぎて頭が誤作動(バグ)ってるぞ。

正常と条理を混ぜて、覇王に成るって選択肢が表示されることは中々ねぇよ」


「勤務時間は年間平均の月残業20時間以下。生産性のあるとても有意義な職場だよ」

「ああ、そうか、何にしても──その銃、そっちに向けるんじゃねぇよッ!」


 銃口は、血塗れで地に伏す狼姿の魔王へ向いていた。

 より厳密には、彼の治療に専念するヴィオレッタと魔王、両方を撃てるように、狙いを定めていた。


「断る。優先順位は、魔王討伐だ」


 ナズクルの指に力が入った。即時──ジンはナズクルに向かって駆けだした。


 ジンに──戦う術は、『最後の一つ』を残して全て無い。

 術技(スキル)消滅。絶景は一時的に封じられ、聖剣(ぶそう)解除。おまけに全身の筋肉は断裂状態。

 それでも、ジンは地面を踏みしめる。

 『最後の一つ』。残った武器は、右手拳のみ。

 引き金を引くより早くに叩き込むしかない。


 ──だが、ジンの中には、予感があった。



 間に合わない。



 ナズクルは躊躇わずに引き金を引いた。

 銃口から火花が散り、乾いた銃声と薬莢が跳び出した。

 弾丸は一直線にヴィオレッタの背へ吸い込まれるように進む。



 ──ジンは間に合わない。だが。



 アイツは間に合う。


「うぉおおおっ!! 鉄ッ! 愛の鋼鉄! オレのヘドバンッイェエエエア!!」


 鋼鉄の頭で弾丸を弾いたのは、黒い肌の混血(ハーフ)

 ただの気()だけで銃弾に間に合い、唯一使える『鉄』の魔法で頭を固くし、銃弾を防いで見せた。

 彼──ガーちゃんはふぅんっ! と鼻息荒くヴィオレッタの背を守る様に立った。


「っち!」

 ナズクルは舌打ちをしてもう二発の弾丸を放つ。

 だが、それはナズクル自身も直後に気付く失態(ミス)



 もう既に、目と鼻の先。

 そこには大きく右拳を振りかぶったジンが居る。


 もう既に、拳の射程内。

 『ジンの武器、最後の一つ』


 もう既に、圧倒的破壊力と見て分かる。


「くっ!!」


 ジンの拳を銃で受け止めるナズクル。

 そして力の限り振り払うと──ジンは後ろに跳び退いた。


「はっ……流石……魔王討伐隊の隊長を任せられた実力者だな。

しかしだ。やはり、お前の強さの根底は……『絶景』。

あの技さえ使わせなければ、互角に持ち込め……──!?」 


 異変は手に持つ銃にあった。




 その握り手(グリップ)から先が──。




(なっ──銃身が無くなっている!?)


 ──無い。銃身が無い。それは、まるでサメにでも齧り取られたように、無くなっていた。


 ナズクルは視界で幽鬼のように足元が覚束ないジンを睨んだ。

 その右手から、まるで紙屑でも包めたような黒い欠片が地面に落ちた。


(なっ……はは。確かに、十年前の隊長(あのおとこ)は理不尽なまでに強かった。そして、それは今も同じ、という訳か。──いや、更には『もっと』か?)


 ナズクルはすぐに後ろを振り返る。

 銃撃からジンの攻撃の間に、ハルルはナズクルの背後に回っていた。


「いっ!」 目が合いハルルが苦い声を上げた。

「流石にまだだな。俺から裏を取るのはもう十年実戦に身を置いてからだ。『消熱』」


 ナズクルの『魔文(ことば)』一つで燃える三叉槍は普通の槍に変わった。

 だが突き自体は余裕で放てた。軽く受け流して、ハルルは勢いそのままジンの隣へ飛び跳ねて移動を終えた。


「十年経ち、力は衰えずだな。理不尽な強さに磨きが掛かっている。更には弟子との連携も増えている、と」

参謀様(ナズクル)でも想定外だったか?」

「いいや、逆だよ。──想定内だ。まぁ、可能ならまだ呼ぶ気は無かったが」


 ナズクルは胸ポケットから『鍵』を手に取った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ