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【05】そうだ。今のお前じゃ力不足だ。【01】


 ◆ ◆ ◆


『忠告した通りだったろ?』

 黒い靄で形作られた狼が、少女を背に乗せて走る。

 少女は、軽い回復魔法などで自らを治療した。

 だが、弱っているのだろう。

 狼と一体化している魔王も、深く追及はしなかった。


「悔しい」

 その背で少女が短く消え入りそうな声で呟いた。

 魔王が、少女に掛ける言葉を考えた時。


「ムカつく、ムカつく、何のあいつら、強すぎ!

 もうマジありえない! なんなの、あいつらは! (せんせー)!」


『元気で、安心した』

 とても軽傷とはいえない傷だが、少女の目は死んでいない。


『あの賢者は、昔から厄介だった。

戦うまで勝敗は分からないが、賢者の魔法を紡ぐ速度は異常だ。

今のままじゃ、まともにやっても』


「賢者? 確かに強かったね。でも、違うの。変な剣士がムカついた!

最初、木べらで! 痛いッ!」


 力が入りすぎたのか、痛みでまた寝転がる。


『変な剣士?』

「そう……なんか、木べらで戦ってて。最後は、なんか、剣でずばーって」


『……まさかとは思うが。雷を使っていたか?』

「雷? ううん。何も使ってなかった。え、(せんせー)、なんか知ってるの?」

『いや』

「なんだ。はぁ……ともかく、最悪。怪我しちゃった」


 最悪、最悪、と歌でも歌うように少女は言う。


『最悪という顔ではないな』


「くすくす。ううん、最悪だよ?」

 少女は、満面の笑みでそう言った。


「痛いのも最悪だし、血も出すぎて気持ち悪いし、最悪で。最悪だから……楽しい」

 狼の背中で揺られ、腕へ血が伝う。

 

 指についた血を舐めて、少女は恍惚の笑みを浮かべた。


(せんせー)、教えて欲しいことがあるんだけど」

『何だ?』


「戦い方。知りたい」


『何?』

「賢者はね。造形魔法だけで戦ってた。そう、賢者も剣士も、術技(スキル)を使ってなかったの」

 二人とも、厳密には術技(スキル)を使えない状態だった。

 ルキは自分の所有物を操る力で、実はあの場所では真価を発揮できない。

 そして、ジンは充電切れ。

 しかし、そんな事情を知らないとはいえ、少女の目には、術技(スキル)を使わずに──


「舐めプで負けた」


 ──手加減されて負けたように思えた。


「もっと学びたい。勝ち方だけじゃなく、戦い方を。

 武器も使えるなら、武器も。必要なら、仲間だって。だから」


 魔王は、静かに笑った。

『もちろん。教える』

 自らを師と呼ぶ、愛らしい少女。

 目的の為に手段を択ばず、魔王の蘇生すら果たした。


『間違いなく。私の。魔王の弟子だな、君は』


「? (せんせー)?」

 賢者と戦ったのは、正解だったのかもしれない。

 この子は敗北した。

 だが、そのおかげで、この子はもう一段階強くなる。


 この子が育てば、また、築き上げられる。


『体を癒したら、戦いを教えてやろう』

「くすくす。よろしくね、(せんせー)


 今度こそ、魔族連合王国は……完全で、盤石なものとなるだろう。

 少女を見て、優しい目をした狼は、楽しみだ、と呟いた。


 ◆ ◆ ◆


「私たちが爆睡している間に、そんな激しい戦闘があったんスか……お二人とも、無事でよかったッス」


 朝食の前に、俺たちはハルルとポムに昨夜の顛末を全て話した。

 無用な心配をさせるだけではないか、と俺もルキも一瞬は悩んだ。


 だが、ハルルとポムには、実情は伝えておくべきだという意見で一致した。


「この辺り、大丈夫なのだ?」

「ああ、それなら、ルキが昨日のうちにギルドの人に連絡してな」

 ルキは頷いた。


「勇者を増員するそうだよ。今のおよそ倍にすると言っていたね」

 そうなれば、少しは安全かな。とルキは言った。


「だけど、一応、俺もしばらく滞在させてもらうことにした」

 予定では、この後、ポムが数日間、ルキの元に滞在する。

 滞在は三日ほど。ポムが作り出した新しい武器や論文とやらをルキに見せるとのことだ。

 まぁ、研究者たちがやってることはよくわからないが。


「師匠。……それって、私じゃ力不足だから、ッスか」


 ハルルが少しだけ重い口調で俺に言葉を投げかけた。


「そうだ。今のお前じゃ力不足だ。だから、俺も残る」

 即答する。


「おい、そんな言い方」

 ルキが俺を諫めた。だが、俺は、言葉を続けた。


「考えてもみろ。相手は、魔王討伐の勇者である俺たち二人を相手に渡り合う実力を持ってた。今のお前じゃ手も足も出ない」


「っ……そう、ッスか。そうッスよね。でもっ!」

 唇を噛むハルルに、俺は覚悟を決めて、言葉を続ける。


「だから、お前に、技と戦闘を教える気になった」


「!」

「滞在期間三日。この三日で一つの技を覚えてもらう」


「な、なんと! 師匠! 技を伝授してくださるんスね!!」

「まぁな」


 ハルルに、死んでほしくはない。

 いつの間にか、そんなことを素直に思える。

 だから、少しでも生存率を上げれるように。


「技って何を教えてくれるんスか!?」

「ああ。まぁ、ちょうど、馬車に乗る前も話したが」




「……教える技は、生きているなら誰でも使える大技──『絶景』だ」


 

 

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