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【04】今日は、やたらと、お客が多い日だね【07】

 

 ◆ ◆ ◆ 


「つまり! 師匠が聖剣を真っ二つに折ったのは、仲間を守る為だったんスか!?」

「ふふ。そうなるね。折った刀身を投げて、サクヤに向かった敵を討ち、手元にある刃折れの剣で戦い続けた訳だ」

「そういうことだったんスね!」


 ルキとハルル。

 二人はベッドの上で、うつ伏せになって話していた。

 ハルルとルキの間で、ポムッハは寝息を立てている。


「なんか、納得ッス」

「納得?」


「そうッス! 師匠が、戦闘で聖剣を折るなんてありえないと思ってたんス!

 だって、剣の技術、凄いし、木剣ですら丁寧に扱うんスもん。

 だから、真っ二つに折った、なんて変だなぁ、って思ってたんス!」


 ハルルは、深夜だからか声を少し抑えつつ、それでも少し熱っぽくそう語った。

 ポムッハを起こさないように気を遣ってはいるようだ。


「本当に、ジンらしいな。まぁ、昔から、物にも人にも優しい人間ではあるからね」

「そうなんスか?」


「ああ。正直、最前線を行くには相応しくない優しさだったよ。

 だが、その優しさがあったからこそ、魔王討伐は果たせたんだろうけどね」


 優しい目を浮かべたルキを見て、ハルルは少し目線を逸らす。

 バターを溶かしたようなカンテラの灯りは優しくて、目を閉じたら眠ってしまいそうだった。


「私の知らない師匠、たくさん見てきたんスね。羨ましいッス」

 不意にハルルからこぼれた言葉にルキはにこりと微笑んで見せた。


「やはり、彼のこと、好きなのかな?」

「や、やや、やや、そ、そういうことではっ」

「そうなのかな?」


 借りた枕に顔を埋めるハルル。


「羨ましい、というのなら、実はボクの方がキミのことを羨ましく思うよ」

 不意に、ルキは小さく言葉を出した。


「え?」

「彼はね、十年前、さっきみたいに笑わなかったよ」


 ──夕飯の際、ハルルとポムッハの冗談交じりのトークに、彼は心から笑っていた。


「そ、そうなんスか?」

「ああ。彼、なんで『黄金の獅子の兜』を被っていたか知っているかい?」


「い、いえ。師匠も秘密にしてるくらいで。凄い深い秘密が──」

「童顔だったからだそうだ」


「ええ、そんな理由!?」

「ああ。戦場で、可愛らしい童顔じゃ別の隊にナメられる。

 けどね、それだけじゃなくてね。

 彼は、仲間とも上手く喋れなかったんだよ。最初はね」


「そうなんスか? え、でも、よく、記事には仲良く喋ってる様子が」


「そうだね。記事になる頃っていうのは、魔王討伐の中盤以降。

 ボクらの冒険的には、二年以上が経った頃で、その頃は、多少喋れてはいたね」


 ルキは、指を組んだ。

「声もね。少し高かったからね。あまり喋ろうとしなかったよ」

 今思えば、とルキは目を瞑る。

「今思えば、『あの兜』は彼を守る為、よく働きすぎた。

 多くの人から責任を与えられ、それを全うする真面目さ。

 兜の下でどんな顔をしていたのか、仲間であるボクらも、気づけなかった」


「……ルキさん」

「ふふ。結果としてね。彼の気持ちの奥には、触れられなかったような気がしていてね。

 だから、キミが、彼の心を揺さぶり続けているのが、とても驚いてはいるんだよ」


「怒らせてるだけかもしれないッスけど」

「はは。同じくらい笑顔にしているようにボクには見えたけどね」


 そうならいいッスけども、とハルルは呟いてから、ルキをまっすぐに見据えた。


「ルキさんは、師匠のこと、好きなんスか?」


 問われ、ルキは目を丸くした。

 それから、いつも通りの笑顔を浮かべた。


「ふふ。どうだろうね。

 あぁ、そうか、ボクも『や、やや、やや、そ、そういうことではっ』と

 答えればよかったかな?」

「ぬぬぅ」

「ふふ。ボクが彼を好きかどうかより、キミが彼とどうなりたいか、が大切なんじゃないかな?」

「……そ、それは」


「彼と手を繋ぎたい? 彼を抱きしめたい? 一緒に居たい、独占したい。それとも、エッチなことしたい?」


「ちょっ!!」

「ふふ。大切なことだよ。相手との関係性を定める上ではね」

「そ、そうナンスカネ」

「顔が赤いということは、やはり」

「ち、ちがっががっ!」

「キミは本当に可愛いな」


 ルキはハルルの頬を撫でた。


「でも、忘れないように。大切なものと、大切な人との付き合い方を。

 手放してはいけないものを、手放さないようにね」


「……ルキさんは、その」

「ふふ。さぁ、それは秘密さ……ん」

 一瞬、ルキの手が止まる。


「?」

「いや、気にしないでおくれ」


 ルキが軽く口笛を吹いた──ハルルには分からなかったが、それはルキの術技(スキル)への命令を支持する方法の一つだ。

 何かに命令を下し、それからにこりと微笑む。


「もうお休み。明日に障るよ」

「うう……流石、伝説の勇者様の一人ッス……完全に言いくるめられたッス」

「そうだね。キミより一回り程長生きだからね」


 さ、お休み。とルキは呟いて、ハルルの額に手を当てる。

 睡眠の魔法。

 といっても、戦闘用のそれではなく、優しい甘い香りの魔法だ。

 眠りやすくなる。ただそれだけの生活魔法の一つ。


 子供をあやすように、ハルルの背中をとんとん、と優しく叩く。

 数分後にはハルルは寝息を立てて眠った。


 指を振る。

 次は、戦闘用にも使う魔法だ。


 遮音の魔法。

 この部屋に音が入らないように、しっかりと魔法をかける。


 立ち上がり、車椅子に乗る。


 ルキは音もなく部屋から出た。

 ──さっき、ジンの部屋にある睡眠薬に命令も出した。

 眠っているジンに数滴落とすようにと。これで、ジンは深い眠りに落ちた筈。


 そして、目の前にあるジンの部屋にも遮音の魔法をかける。

 これで、外部からの音は軽減できる。



 廊下の突き当り──大きな窓から、外を覗く。



「さて。別に招いたお客さんじゃないんだけどね」


 窓の外には招かれざる客──見知らぬ少女がいる。

 黒い毛皮を羽織るその少女は、明確に敵意があることが分かった。


「今日は、やたらと、お客が多い日だね」



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