表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/808

【01】『職業』の勇者【03】

 

 肉に魚、魔物の吊るし売りから、杖に箒に、銃火器一式まで吊るして売られている。

 なんでも吊るして売る露店が多いから、首吊りの露店街(ハンギング・ストリート・ストール)なんて怪しい名前で呼ばれている。が、決して怪しい露店街ではない。


 この交易都市の名物的な露店街だ。


 青い石畳の床にガス灯、それからこの大通りの建物は鉄と煉瓦を主軸で作られているそうだ。

 もちろん、今までの建築様式の木材を使ってはいるのだろうが。


 ともかく、この大通りは、『王国近代化の象徴』とまで呼ばれる観光地でもある。


「ライヴェルグ様! すごいっすよ! すっっっごい栄えてるッス! 活気があって面白いッス!」


 もふもふ銀髪が楽しそうにぴょんぴょん跳ねている。

 田舎娘全開のハルルは、子供のように目を輝かせた。


「あんまりはしゃぎ回って迷子になるなよな」

 わかったッス! と威勢だけいい返事をしてあっちこっちと露店を覗きまわっている。


「王都から離れてるなのに、こんなに栄えてるなんて凄いッスね!」

「王都から離れてるからだろ。栄えてるのは」

 ハルルが小首を傾げた。


「え? 逆じゃないんッスか? 王都の中心から離れると田舎になるッスよね?」


「あー。そりゃそうだ。その通りだな。

だけどここの露店は、お前たち『勇者』を相手にしてるからな。

冒険に行く前に装備を整えたい奴らの為の露店街だよ」


 南方区域に向かう『勇者』や『商人』たちは、ここから出発する。


 ちょっと実力の付いた駆け出しの『勇者』がやるクエストは、大体、魔物も多く生息する南方区域が多い。

 その上、この都市は海にも面している。国外との交易も盛んな為、大きく栄えたのだ。


「なるほどッス!」


「というか、お前。ここでアイテム買ってからクエストに行ってないのか?」


「ふっ。『勇者』は剣一本で戦うもんッスよ!」

 回復も持たずに行くのは勇気じゃなく無謀なだけだがね。


 しかし、『勇者』ねぇ。

 そう、あの後聞いて驚いた。

 この少女ハルルは、何を隠そう『勇者』なのである。


 と、言っても……称号ではなく、『職業』の勇者だ。




 昔でいう『冒険者』たちを、今の時代では『勇者』と呼ぶ。




 何故、『冒険者』が『勇者』という名称に変わったのか。

 理由は少し過去に遡るが……簡単に言ってしまえば、『絶望的な人員不足をごまかす為』である。


 十年程前、二つの深刻な事件が起こる。

 一つは、魔王討伐の勇者と、その仲間たちが居なくなったこと。

 当時、魔王討伐を果たした勇者たちは、国の『最高戦力』。

 つまり、この国の切り札だった。


 当事者の俺には実感はないが、……まぁ世界中で認められていたそうだ。

 そんな勇者たちが居なくなった。というのは、国として問題だったのは想像に難くない。


 そこに追い打ちをかけるように、もう一つ。

 当時の国王が崩御した。

 それも、間が悪く、当時の勇者が居なくなった、ほんの数ヵ月後に。


 俺の勇者という称号を剥奪した張本人ゆえ、多少、思うところはある、が。

 その王は、国を運営する上での手腕は、相当なモノだったらしい。



 そして、国が傾きそうになった。


 

 無視していた弱小魔族国家の活性化。

 今まで守ってきたはずの友好国の度重なる領土侵犯。

 この国は、少なくとも当時は、物理的な国力の増強が必要だった。


 つまり、兵士の増員だ。

 そこで、生まれたのが『勇者法』だ。


 曰く『冒険者』『兵士』『魔法従事者』など諸々全てを『勇者』という職業で統一。


 様々な特権と、勇者でない人間への規制を掲げ、上手いこと仕上げた法律は、国として、実際に戦える人間を正確に管理することを可能とした。

 

 功を奏して、諸外国は、見事にけん制された。水面下は分からないが、表舞台では小競り合いはあれど、大規模な戦争は起きていない。




 そういう少し汚い経緯を経て、『冒険者』という職業は『勇者』に置き換わった。




 まあ、国が管理することになったことにより、賃金保障が手厚くなったのはいい点だろうな。

『固定給』システムに加え、『階級手当』に『特別手当制度』。


 定期的にクエストをこなせば、生活も安定するし、大人気な職業なわけだ。

 何より、『勇者』という言葉に憧れて、多くの人間が都会に出てくる。結果として改名はいい方に転がったのであろう。





「おおおお、見てください! 《蛍石のランタン》ッスよ! 超かっけーッス!」


 正に、ハルルのように、『夢溢れる冒険の日々』に憧れる、勇者症候群の少年少女は多いそうだ。人員不足はすぐに解消されただろうな。


「あのな。遊びに来た訳じゃないんだからな。ほら、はぐれるな」


 そう、遊びに来た訳じゃない。




 こいつの、無謀なクエストの手伝いをしてやりに、来たのだ。




 俺は、ポケットにしまってある『依頼書(クエストロール)』を開く。


  ~ ~ ~

 【ドラゴンの鱗の納品】 【QP(クエポ):5】

〇 オルゴ山道に住み着いた地竜種の鱗を一枚以上の納品。

〇 最近、オルゴ山道に住み着いた地竜種の生態を確認したいので依頼します。

  通常地竜種なのか、変異種なのか、確認する為、鱗を一枚以上欲しいです。

〇 推奨 4級勇者以上 3名以上のパーティー

〇 危険度高なので、QPは高くさせて頂きます。

〇 別途、出現報告のあったポイントの地図を添付します。

   報酬 金貨10枚

   ~ ~ ~



「本当に、とんでもない依頼を受けたな、お前」

 ハルルは苦い引きつり笑顔を浮かべて見せた。


「そ、そのレベルのクエストじゃないと、もう資格停止確定なんスもん……」

 これは、先ほどハルルに聞いたばかりの話だが、『勇者』には詳細に階級が定められているそうだ。


 十級から始まり、一級まで行けば一流の勇者、とのことだ。


 さらには一級の上にも『A』だの『S』だのの階級があるらしいが、聞き流した。

 ともかく、下級勇者には、『ノルマ』があるらしい。

 最下級の十級勇者は、というと。


『クエストを連続五回失敗したら、資格停止』

『過去十回の下級クエストの合計点(QP(クエポ))が、五点未満なら、面談の上、処分を決議』


「……意外と易しい規定に見えるが」


 時代が変わったにしろ、新人冒険者のクエストは、低級魔物退治が多いはずだ。


 それに薬草納品や、ギルドの手伝いとか、そういうものも出回るだろう。


「まさか、難しいクエストばっかり挑戦して自滅とか、してるのか?」

 恐る恐る問うと、苦笑いでハルルは返した。


「え、えへへ、やっぱり勇者デビューは華々しく、超強い魔物を倒したいじゃないッスかー!」


 ……。


 完全な自業自得過ぎる。だが、まあ、『約束』してしまったしなぁ。


「で、四連続失敗か」

「そうッス……その上、QP(クエポ)も、累計一点しかないんッス……!」


 QP……クエストポイントで、クエポ、なんだろうか。

 このシステムは、俺もよく分からないが、クエストごとにポイントがあるということだろう。


 このポイントが低いと、まぁ、簡単なクエストばかりやってると、勇者として失格、ということになる。のだろうか。


 流石に詳しくは分からん。ギルドの受付嬢とは面識もあるし、今度聞いてみるか。

 そして、点数も回数も落第寸前だったハルルは、一発逆転を狙ってこんな無謀なクエストを受けたらしい。



『そもそも自業自得だし、普通のクエストも失敗するようなら勇者稼業から足洗った方がいい』



 と、本人にも伝えたが、ハルルは、それでも勇者を続けたい、と駄々をこねた。いや、決意に満ちていた、なのか。

 放っておくのが一番簡単だったのだ。


 だが……こいつには言わないが、放ってはおけなかった。


 それは、こいつが勇者に憧れた原因が、俺にあったかもしれない、と脳裏に過ってしまったからだ。


 こいつの持ち物は、俺の勇者時代のグッズばっかりだったし、俺を王都で探し回っていたみたいだしな。


 ドラゴンに挑んで、こいつが死んだら、目覚めが悪い。



 譲歩して、俺とハルルは、『約束』をした。



「クエスト。手伝ってやるから、ちゃんと弟子は諦めろよ」


「……ぅぃ」

「なんて?」

 弟子になりたいのに、と小声で言うハルルをじっとりと見る。


「うう……はい、ッス……」

「それでよろしい」

「でも、やっぱり」

 弟子になりたいッス、などとまだ言うハルルを黙殺し、そのまま先に進む。


 まったく。なんで、こんな俺の弟子になりたいんだか……。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ