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【15】ガーちゃんに近づくな【36】

 

 ◇ ◇ ◇


 人間が、生命を作ることは、可能かどうか。

 勿論、生殖によって生命を作ることは可能だ。

だが、考えているのは、生殖以外によって作ること。人工的に可能かどうか。


 私が出した答えは、難しいが可能。


 人間の身体は小さな物質が寄せ集まって作られている。

 そして、その物質の中に、人を作る記憶や記録が詰まっていて、それを解析し再構築することによって人は作れる。

 その為には、もっと魔法が発達しないといけない。もっと知識が集まらないといけない。


 じゃあ、未来に投資する為に論文でも残す? くすくす。意味ない。


 今、必要なんだ。人工的に作る方法が。

 だから、私は幾つかの手段を考えた。


 まず、ゼロから作らなければいい。

 命を作る上で、既に存在する命を基礎にする。

 つまり『人間』を作りたければ『別の人間』を生きたまま作り変えればいい。


 『鵺竜(キメラドニク)』や『鵺獣(ディノキメラ)』のような複数種類の種族の特性を取り込める生命体を研究したのも、その一環。


 人造半人(デミ)は研究の副産物みたいなものだったから。


 そして、私は──現在の世界の技術でもって、幾つかの『生命の構築術』を作り上げた。


 『術技戻法(スキル・リバーサー)』は、私の研究の集大成。

 そして、それが出来る前に作った構築術の一つ。


 それが『生命移植術』。


 ◇ ◇ ◇



「お──女の子の胴体が作り物??」


 どういうことだ?

 レッタちゃんと戦ってる背が低い金髪の女の子。その胴体が、作り物って。

 あれか、義手義足的な奴の身体版? 賢者(ルキ)さんみたいな、そういう鋼鉄製の?

 でもそういうことじゃない……気がする。そんな空気を感じ取っている。


 レッタちゃんが大鎌をくるりと回転させる。

 炭みたいに真っ黒な大鎌は、レッタちゃんの術技(スキル)で作られたモノ。

 最近の主要(メイン)武器だ。物語で出てくる死神の鎌みたいで、レッタちゃんが持つと、やっぱり最高に可愛(キマ)ってる。


 大鎌の刃の先、金髪の女の子は片手剣(ショートソード)を構えた。

 その目は、まるでガラス細工のような目だった。

 感情がまるで伺えない。そんな目で、レッタちゃんを見ていた。


「貴方、何者なの?」

「……スヴィク。まだ、それだけ」

「ふぅん。じゃぁ目的は?」

「……排除、それが、エチュード」

 そうカタコトで呟いてから、スヴィクは片手剣(ショートソード)をまっすぐ構えた。


練習曲(エチュード)?」

 レッタちゃんが疑問を口にした時、スヴィクはレッタちゃんの真上にいた。

 速い。

 レッタちゃんは大鎌を薙ぐと、その薙ぎに合わせてスヴィクは回転した。

 まるで、たんぽぽの綿毛だ。

 飛んでるたんぽぽの綿毛を掴もうとしたら、その手が出してしまった風圧で上手く掴めない。そういう挙動に見えた。


 ……つまり、あの子、ものっそ軽いんじゃねぇかな?


 着地したスヴィクがレッタちゃんに剣を突き出す。

 その剣の横っ腹をレッタちゃんは蹴飛ばし、大鎌をまた薙ぐ。


 身の丈よりもかなり巨大な大鎌は、薙ぎ払いに適している。


 レッタちゃんは所謂『軽戦士』の戦い方だ。

 レッタちゃんの通常の一撃の重さが軽めだ。それでも強いのは、手数の多さだろう。

 魔法の種類は賢者にだって劣らない。


 剣も扱えるし、体術も抜群。決め手だって幾つかある。

 今でも十分に安定した強さだが、レッタちゃん自身で『通常の一撃』が軽いことが課題だと考えていたんだろう。

 だから、『一撃の破壊力が高い武器』を操っている。と、分析屋(ストーカー)は分析しました!!!


 でも、なんだろう。


 レッタちゃんが、押し負けては無いけど……戦えてない気がする。

 オレの見立てでは、あのスヴィクとかいう少女はレッタちゃんの敵じゃない。

 だけど……何か動揺している?


「レッタちゃん?」


「……ごめん。気にしないで。ちょっと驚いちゃっただけだから」

「驚いた?」

「そう……研究成果の盗難。人造半人(デミ)……だけだったらもう別に何も驚かないんだけどさ」


 スヴィクが駆け寄って来る。本当に、風に巻き上げられた花びらみたいに軽く舞い上がって──あ、え? オレの方に来て──





「ガーちゃんに近づくな」





 レッタちゃんの背中から黒い靄が羽のように噴き出た。

 さ、流石、レッタちゃん!

 スヴィクが吹き飛ばされている。

 あれ。今、何が起きたんだ。いや、レッタちゃんが守ってくれたのが明白か。


 大鎌を軽く回しながら、レッタちゃんはくすくす笑っていた。



「『生命移植術』、『物質構築回路魔法式』、『種族間混合化施術』、『人工生命維持術式』……くすくす」



 ──? レッタちゃんが、お経みたいに唱えた。

意味は分からない。でも、不穏なニュアンスだけは伝わる。


「私は、貴方みたいなモノを作りたくて、生命の術式を研究したんじゃないんだけど」


「……一部、認識不全」


「ううん。絶対あってる筈だよ。その体自体が人造(つくりもの)

(おつむ)』は元の貴方から移植したんでしょ。

外殻は術核(コア)となってる『(おつむ)』と無理矢理に繋いでるみたいだし」

「そ、それって。レッタちゃん。どういうことなんだ?」


「……あの子の身体のほぼ全てが人形ってこと。

ただ、脳だけは本物。身体に脳が入ってるの」


「それ、って……あんなふうに動けるの?」

「無理だった筈」



「はい。恋様のお陰です。動ける身体、貰ったのは」



 ──その言い方の、それって。

 スヴィクはまた真正面から走ってくる。

 合わせて、レッタちゃんも駆けだした。



「レッタちゃんっ、ちょ待っ──」



 駄目だ、レッタちゃん!

 その子はただ普通の──っ!


 ──スヴィクの放つ乱雑な剣戟は、ヴィオレッタには届かない。

──大鎌は、剣を握る腕もろとも叩き斬られた。次いでヴィオレッタは鎌に力を入れた。

 ──斬り戻すように。振り下ろしたばかりの大鎌を、今一度振り上げて、その胴体を上下に二分割した。



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